自らノイズまみれな世界で生きているのに、ノイズのない生活を作ろうとする自己矛盾

ある日、ランニングしていると使っている AirPods Pro から耳鳴りのような音がするようになった。ノイズキャンセリングもできないし、高音の部分でキーキーいっている。

「とうとう潮時か」

私は思った。この AirPods はいつ買ったかわからないが実は2台目で、一台目はケースを無くしてしまった。ケースだけ買えばよかったんだが、丸っと買い替えてしまうあたり自分のガサツさと節度のなさに呆れる。

とはいえ、私は仕事でも AirPods をよく使うし、プライベートでもほとんどずーっとつけているから、スマートフォンよりもずっと AirPods がない方が困るのである。音楽は聞いてる時もあればそうでない時もあって、ノイズキャンセルの方をとても重宝して使っている。

「新しいのに買い換えるか」

私は決意して、出先のついでに下北沢の nojima で AirPods Pro 第2世代を購入した。2022年に出たらしいが、全然買い換えるつもりなんてなかったのに、と渋々。

nojima の下にあるユニクロのベンチで、慣れた手つきで iPhone とペアリングを行う。背面のボタンを長押しして、Bluetoothに表示されたら選択するだけの簡単な作業である。ものの数分で使えるようなる。いつもこの体験には感動する。

セットアップが終わって、耳につけた時に「サーッ」という効果音とともにノイズキャンセリングが有効になる。

「これこれ!!」

と私は心の中で思う。都会の喧騒にはノイズキャンセリングが欠かせないのだ。私は一人の空間でいつも歩きながらぼんやりするのが好きなのだから。

ルンルンの気持ちでユニクロを出る。そこで私は気づいた。

「あれ、いつもより音が聞こえないな」

AirPods の第1世代と比べると明らかにわかるくらいノイズキャンセル度合いが高まっていることに気づく。

「ノイズキャンセルというかほぼ耳栓じゃないか、これは」

という謎のツッコミを心の中でいれてしまうくらいには音が聞こえない。

「これは…便利だけど、大丈夫なのか…?」

と不安になってしまう。後ろから何かが迫ってきても、前から笑いながら歩く男女がきても、全く聞こえない。居心地はいいが、安全面で不安にならないわけではない。

でも、いずれ慣れてしまって、これが当たり前の生活になることも知っている。音が聞こえなくても自分で自然に注意するようになるし、視覚情報を頼りにするようになる。

「いや、イヤホン外したらええやろ」

というツッコミが聞こえてきそうだが、自然にそうなってしまうのだ。別にこだわっているわけではない。自然に、そうなるのだ。

AirPods のない生活は私には考えられない。大好きな音楽を聴いて気分を上げるためにも、自分のスペースを確保するためにも、そして都会の喧騒から目を背けるためにも。

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山本隼汰 | Hayata Yamamoto
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