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一体感は「見よう見真似」から生まれる

Hayashi (2013). Organizational Socialization and Collective Self-Esteem as Drivers of Organizational Identification. International Business Research, 6(12), 156-167.

会社に属して仕事をしていく上で「会社との一体感」(Organizational Identification)は重要なものです。会社の新商品がヒットして評判になれば自分のことのように鼻が高くなりますし、同僚が困っていたら自然と手を差し伸べたりします。これらは一体感を持っているとより引き出されるんです。

これまでの一体感研究では「どうしたら従業員の一体感は育てられるのか」に関心を寄せてきませんでした。つまり、いくら一体感が重要だとわかっても「じゃあ会社はどうしたら良いの?」という問に対する答えがない状態でした。そこで研究をしてみました。

基本の枠組み

人は見えないものも見えるものも「観察」から学ぼうとします。心理学者のBanduraはこれを社会的学習と呼びました。会社との一体感を作るには「会社らしさ」(Organizational Identity)を自分なりに理解する必要があります。会社のロゴマーク、接客方法、店舗の内装、商品内容、様々なところに会社らしさは潜んでおり、従業員は働きながら肌で感じ、何となく理解して仕事に活かしています。これは、見えるものを通じて見えないものを”観察”しているのです。

この論文では社会的学習のプロセスを下地にして育成方法を検討していきました。会社らしさを直接触れて理解するのは難しいので、多くの場合、働き方や社内ルール、社内政治といったことを学ぶ中で何となく理解します。こうして仕事関連のあれこれを学んでいくと会社の中で「一人前」になっていきます。そうすると「実はうちの会社ってこんなに色んな人から喜ばれていたのか」「あまり知られていないけどうちってこんなに優良企業だったんだな」とか自分の会社のすごさを理解していきます。(※例え傍から見てすごくなさそうな会社でも中で働き始めると良いところを探しだし、同じような心理になります)

自分の会社はすごいんだと分かると「すごい会社で働いている私、すごい」と鼻が高くなります。往々にして人はみんな自分が大好きで、自分をよく見せたがるものです。だからこそ、自分をすごいと思わせてくれる会社にはコミットして今より大きくなってもらいたいし、もっとすごいと思ってもらいたいと考えるわけです。こうした結果、会社に対して一体感が生まれてきます。

机上の空論か現実的な考えか

今述べたようなアイデアを絞り出したわけですが、それが妄想であれば意味がありません。ちゃんと地に足着いた議論だと証明することで、研究としての意義を主張できます。

この論文では日本のとある製造業の会社で調査をし、250人の回答を分析しました。そうすると、先ほどのアイデアはデータから裏付けられました。加えて、会社の中で色々なことを身に着けていくと、その経験自体が会社に対して一体感を生むという関係も見つかりました。

つまり、会社との一体感を醸成するためには、社内で一人前と認めるのに必要な様々な経験を積ませることが大事だということになります。

結語

会社は当たり前に新卒社員を採用し、彼らにトレーニングを施します。その当たり前の慣行が実はとても重要なんだよというのがこの研究だったわけです。

もう少し突っ込んで言えば、最近は「営業をしたくない」「地方には行きたくない」といった声を学生から聞くことが多くなりました。しかし、営業を経験すると自社や競合の商品を勉強しなくては仕事になりませんし、商品ができる過程を知らなくては値段交渉も上手くできません。そのため、営業職は自社のバリューチェーンを学ぶのにうってつけの職場です。

地方に行くこと自体に意味があるとは言いませんが、勤務地を変える制度があるからこそ地方に行くわけです(最初の配属先が地方で、そこで固定と言う場合は例外です)。このような人事異動を行えている会社で働くと、自分の適性を見て仕事をさせてくれる可能性が高まります。将来的に自分に合った仕事ができると考えると会社への期待も高まるものです。

このように見ると営業を経験することも異動を経験することも、会社に一体感を持つ上でとても大事な経験だと言えます。「一体感を育てるために○○をしろ!」といった派手な提言はないですが、当たり前をコツコツやることが一番というお話でした。

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