短編物語「緑色をしたアップルティー」
アニエスは、天気が良かったので町へ出かけることにした。
外は夏の背中が見えるころで、うだるような暑さは通り過ぎた。風はひんやりと冷えはじめ、その風が髪を撫でていくのがアニエスは好きだった。
『誰かいるかしらね。ちょっとお茶したい気分だわ。』
お昼も過ぎて少し小腹もすいたので、町で友達を見つけたらお茶でも誘おうと、そんな気持ちで鼻歌を歌いながら町まで歩いた。
『そういえば、アルタの森の近くにお菓子さんできてたわね。寄ってみようかしら』
アニエスの住む家と町の間には、アルタの森という大きな森があった。この森には「サダマリの妖精」という古い妖精が住んでいて、いい子にしていると時々美味しいリンゴを家の前まで届けてくれると言われている。
アルタの森の近くまでくると、甘いいい香りがしてきた。
『あら、なんの香りかしら。すごくいい香り』
香草の複雑な香りと果物やナッツをローストした様な香ばしく甘い香りがひんやりとした風に運ばれてきてなんとも心地よい。
アニエスの足は自然と早くなっていた。そこには丸太を積んで作られた一軒のかわいい家があった。煙突からは緑や黄色、赤色に淡く色づいた煙が上がっていた。
玄関の横にベンチがあり、けむくじゃらの大きな犬が寝ていた。アニエスが近づくとムクりと起き上がり笑っているようだった。長い毛でよく見えないが、たれ目だった。
ドアには「OPEN]と書かれた札が下がっていたのでアニエスは扉を開いた。
「いらっしゃい」
中にはモコモコの毛糸のセーターを着たおばあさんが座っていた。
「はじめましてアニエス。イチジクのタルトとアップルティが今日はあるよ」
テーブルの上には美味しそうなタルトと、透き通った緑色をした飲み物が置いてあった。
「私はアニエスだけど、どうして私の名前を知っているの?」
「魔法使いだから何でも知ってるのよ~」
そういっておばあさんは笑っていた。
アニエスは怖くなり、お店を出ようと扉を押した。だけどなぜか、扉は動かなかった。
アニエスが住んでいた家は空き家になり、冬を越したころに新しい人が住むようになった。