
「もちもち」のある朝
朝、目が覚めると、テーブルの上にもちもちがいた。
いや、正確には「もちもちした何か」だった。白くて丸くて、ほんのり温かい。表面はつやつやとしていて、やわらかそうだった。
「……?」
僕はしばらくのあいだ、それを見つめていた。昨日の夜、こんなものを置いた覚えはない。そもそも、これはなんだろう?食べ物?それとも……?
僕はそっと指でつついてみた。
ぷにっ。
思わず息をのむ。
これは、想像以上のもちもちだ。ただ柔らかいだけじゃない。絶妙な弾力があり、押し返す力がある。しかも、妙に気持ちいい。つついているだけで、なんとなく心が落ち着く。
「……ふむ」
もう一度つつく。
ぷにっ。
「おお……」
これは、楽しい。
つい、もう一度。
ぷにぷに。
すると——
「もちゃぁ……」
「…………え?」
僕は手を止めた。今、何か聞こえたような気がした。いや、気のせいか?寝起きだから幻聴でも聞こえたのかもしれない。
試しに、もう一度つついてみる。
ぷにっ。
「もちゃぁ……」
「……喋った?」
いや、そんなはずはない。これはただのもちもちした何かだ。喋るわけが——
「もちゃ?」
——喋った。
僕はしばらく動けなかった。目の前のもちもちは、まるで「あれ?バレちゃった?」みたいな顔(があるわけではないけど)をしている。
「お前……喋れるのか?」
「もちゃぁ」
僕は軽く頭を抱えた。こんなことがあっていいのだろうか。いや、そもそも僕はまだ夢の中なのか?
「ええと……君は何者なんだ?」
「もちゃぁ……」
それだけ言って、もちもちはゆっくりと転がった。
ころん。
……かわいい。
僕はため息をつき、コーヒーを一口飲んだ。カップの縁から立ちのぼる湯気を見つめながら、ふと考える。
もしかすると、僕の人生には今まで「もちもち成分」が足りなかったのではないか?仕事、家事、社会のあれこれ……すべてがカサカサしすぎていたのでは?
そして今、この小さなもちもちが、僕に大切なことを教えようとしているのではないか?
そう思うと、なんだか愛おしくなってきた。
「よし、君の名前は『もちもち』だ」
「もちゃ!」
もちもちは嬉しそうに(多分)ぴょこんと跳ねた。
その瞬間、僕は確信した。
この朝は、もちもちによって救われる。