「自分で考えなさい」「何で相談しなかったんだ」の壁から得た出会い
社会人として働き始めると、大小さまざまな壁にぶつかるだろう。
私が一番初めにつまづいて、なかなか越えられなかったのは
「自分で考えなさい」「何で相談しなかったんだ」
の壁だ。
まず、分からないことを聞く。
そうすると、「自分で調べなさい」「自分で考えなさい」と言われる。
あまりにも、自分で考えなさいというのが続くので、分からないなりに自分で考えて動く。
もちろん分からないことに対して勝手に考えて動いているので、間違える。
そこで出てくる言葉が「何で相談しなかったんだ」だ。
その繰り返しで私は大いに混乱した。
相談すると自分で考えろと言われ、自分で考えると何で相談しなかったんだと言われる。
どどどどどどどうすれば。
困っていた時に、相談に乗ってくれたのは入社7年目の先輩だった。
話しているうちに涙も出てきて、「ほんとうにどうすればいいか分からないんです…。」と困っている私に、先輩は言った。
「学校生活と社会人生活の違いは、個人戦か、団体戦かだと思うの。社会は団体戦。団体戦に必要なのは何だと思う?」
「チームワーク…ですか?」
「そう。チームワークを強めるために必要なのは何だと思う?」
「何だろう…信頼感?」
「そう。信頼感を持つための、意思疎通。コミュニケーションだね。コミュニケーションって、なんだと思う?」
「話すこと…?」
「そう。社会では話すことを『報・連・相』といいます」
「あの…すみません。ホウレンソウって何ですか」
「『報告・連絡・相談』の略です。『報・連・相』は言いやすいからこの順番に並んでいるけど、順序としては『相談・連絡・報告』の順番で進むの。この順番が大切です」
先輩の講義は続く。
「もうひとつ、学校と社会で大きく違うことがあるのね。学校は、課題を与えられるけど、社会では、課題は与えられるものではなく自分で見つけてくるものなの」
「はい」
「でも、始めは”何が分からいかも分からない”から、質問が出てこないよね」
「…はい」
「そんな時は、①教えてもらうことをメモ取る ②メモ取った中で分からないことを聞く ③自分の部署の商品の勉強をする。
分からない用語は、聞く。多分始めは膨大な数だから、調べるのも大変だし、その会社独自の意味で使っていて、辞書的な意味とはズレてくることもあるから。すぐ調べられるのだったら調べてもいいけどね」
「でも、自分で考えろって言われるんです…」
「それは、用語ではなくて、やり方のことだと思う。知らない用語は考えても分からないからね。用語を聞いて調べなさいと言われたら、仕方ないから調べてからもう一度聞きに行く。この『もう一度聞きに行く』ことが大切になります」
「なぜ調べたのにもう一度聞きに行くんですか?」
「用語の場合は、さっき言ったみたいに、辞書的な意味ではなく会社独自の意味で使っている場合があるからです。だから、確認をする。『この意味調べたんですけど、この意味で合ってますか』ってね。
それは、やり方の時も同じ。考えなさいと言われたら、『考えて、このやり方でやろうと思うんですけど、どうでしょうか』と聞く。これが相談です」
「ううむ…」
「相談ってね、話し合いって意味なんです。話し合うって、互いに話す事でしょ。一方的に片方が話してたらいけないから、両方が意見をもってないといけない。そして、考えを述べ合うこと。それが相談の本当の意味なの」
「じゃあ、今までの聞くばかりっていうのは、ダメだったってことですね」
「ダメだったってことはないけどね。これから、会社で仕事をすると、経験したことないことがいっぱい出てくるよ。今はいいけど、役職がついたら、未経験な事でも自分で考えて進まなきゃいけないこともある。そのための思考回路を作る訓練かな」
「はい…」
「相談の次は、連絡をする。これくらい進んでますよー。とか、こんな問題が発生しましたー。とか、自分では間に合うと思ってても、経験者から見たらそれじゃ間に合わないよ!ってことがある。そういう時に、進み具合が分かってると、手助けできるよね」
「はい」
「連絡は、チーム内で助け合うために必要なものです」
「はい」
「そして最後の報告。こんな風になりました。結果を見て、どうしたらもっと良くなるのかを考えることです。仕事では常に成長が求められる、そのためには振り返りをしなくてはいけない。そのための報告です」
「分かりました…」
「さて、「自分で考えなさい」「何で相談しなかったんだ」はなぜ言われたでしょうか」
「分からないことに対して自分で考えていなかったこと。「自分で考えなさい」と言われて考えたことを共有しなかったこと」
「そうです。どうして「自分で考えなさい」と言われるのか、「何で相談しなかったんだ」と言われるのか、物事の裏の意図を知り、納得してから行動することが大切。でも分からないと思うからまた聞いてくださいな」
分からないことがわからない。
なぜ怒られているのか分からない。
そんな新入社員時代、”分かり易く論理だてて問題を解決してくれる”先輩に出会えたのは幸運な事だった。
転職してからも行く先々で、色んなタイプの尊敬できる先輩に出会い、助けてもらいながら仕事をした。
尊敬できる先輩は居ないが、敬愛できる後輩ができた職場もあった。
社会人として働き始めると、大小さまざまな壁にぶつかるだろう。
そういう時は、乗り越える手助けをしてくれる人を探してみる。
自身を成長させてくれるのは、教育係ではないかもしれない。
隣りの席の先輩かもしれないし、同僚かもしれないし、他部署の人かもしれない。
自分一人の力での成長は難しい。
一人で壁を乗り越えろという会社なら、他を探してもいいかもしれない。
社会は団体戦だ。
勝負に勝つには、心地よくコミュニケーションができる場が良い。
そして、ご縁だ。
あなたが尊敬できる人に出会えることを、祈っている。
ありがとうございます。