サラ・ロイ「アボカドが見えますか?――バイデン大統領への手紙」
ロンドン・レビュー・オブ・ブックス2023年11月1日号
アボカドが見えますか?――バイデン大統領への手紙
サラ・ロイ
(試訳=早尾貴紀)
(付記:著者のサラ・ロイ氏に許可を得て翻訳しています)
親愛なる大統領へ
パレスチナの子どもの死は、いつから受け入れられなくなるのでしょうか? あるいは、こう問い直すべきかもしれません。いつになったらあなたはパレスチナ人の命に、イスラエル人の命と同じ尊厳を与えるのでしょうか?
昨日[10月31日]、イスラエルはガザ地区のジャバリヤ難民キャンプを空爆しました。キャンプの一部が破壊され、少なくとも約100人が死傷しました[翌11月1日、2日にも連日大規模に空爆し、3日間で200人以上が殺害され、約1000人が負傷した]。私の友人である詩人のモサブ・アブ・トハとその妻子は、イスラエルからジャバリヤ難民キャンプ北部の街ベイトラヒヤにある家を離れるよう警告を受けたため、ベイトラヒヤが爆撃されるからと、最近ジャバリヤに引っ越してきたところでした。そして実際ベイトラヒヤは爆撃され、モサブの家は破壊されてしまいました。私は、爆撃からまだ二日後で取り乱していた彼から、こう聞かされたばかりです。「ジャバリヤ難民キャンプでの爆撃は、私たちからわずか70メートルしか離れていなかった。近所一帯が全壊した。」
ジャバリヤにはここ数年は行っていませんでしたが、私にとってはなじみのある場所です。ガザ地区に8つある難民キャンプの中で最大のキャンプであり、そこには26の学校、2つの保健センター、公立図書館があります。1.4平方キロメートルの面積に、11万6千人以上の男と女と子どもたちが暮らしています。半平方マイルに10万人以上が押し込められることがどういうことなのか、大統領には少しぐらいは見当がつきますか? とはいえ、この極端に高い人口密度にもかかわらず、その難民キャンプは活気に満ちたコミュニティだったのです。私がジャバリヤを訪れたときに最も印象に残っているのは、子どもたちの姿でした。彼らはいたるところで笑い、遊んでいました。また、女友達とよく訪れたにぎやかな市場も大好きでした。
大統領に言わなくてはなりませんが、私はユダヤ人であり、ホロコースト生存者の子でもあるのですが、その私が、難民キャンプのどの家を訪ねても歓迎されたのです。実際、私は抱擁さえされました。私の友人の12歳になる子どもが私のために描いてくれた絵を今でも持っていますが、その子はアメリカ合衆国の美術学校に行きたがっていました。
私の友人らやその家族たちが、今回イスラエルによって殺害されたり負傷したりした人々のなかに含まれているかどうかはわかりません。しかし、これが最初の残虐行為ではなかったことは確実に分かりますし、そして、大統領やその他これを止める力を持っている人たちがこの蛮行を正当化して継続するのであれば、これが最後の残虐行為になることもないだろうということも確実に分かります。大統領は「人道的な一時停戦」を呼びかけていますが、私にはそれが理解できません。このような大量殺戮の真っ最中に、一時停戦とは何を意味するのでしょうか? その次の日に殺されるために人々に食糧を与えて生きながらえさせるということなのでしょうか? それのどこが人道主義なのでしょうか? いったいどのように人道的なのでしょうか?
これが自衛行為ではなく戦争犯罪だと大統領が明言するためには、さらにどれくらいの証拠を必要としているのですか? すなわち、約3500人の子どもを含む8000人以上の殺害と、何世代にもわたった家族の根絶やしと、ガザ地区の大半のインフラ――病院、学校、住宅――の一掃についてです。そして明らかにイスラエルはハマスの戦闘員よりもずっと多くの一般市民をガザ地区で殺害しています。
どうかこの質問にお答えください。占領している側の人々が、自分たちが抑圧し、収奪し、貧困化させ、そしていまやそのために飢餓に瀕している人々に対して、どうして自衛権を主張できるのでしょうか? ここで行使されているのは自衛権ではありません。そうではなく、ガザ地区とヨルダン川西岸地区のパレスチナ人たちを彼らの家から追い出し、そしてその土地を併合したいという欲望の実現なのです。大統領はそのことを確実に理解しているはずです。それなのに、どうしてそれを容認できるのでしょうか?
もしイスラエルとアメリカ合衆国が、復讐に燃えてあらゆる倫理観と慈悲心とを捨て去ってしまい、無防備に晒されているパレスチナ人に対しわずかに残っていた同じ人間だという観念も消し去ってしまうのであれば、ハマースによって惨殺された1400人の無実のイスラエル人たちの死は聖別されることはないでしょう。こんなふうにしてイスラエルは自国民の安全を確保しようというのでしょうか? そして大統領もまたそのようにしようというのでしょうか?
この恐ろしい戦争の最初の頃に、ジャバリヤ難民キャンプで人々が買い物に外出していたところへイスラエルが空爆したことについて、モサブは私に話してくれました。数十人が殺害されたと彼は言いました。彼はその直後の写真を送ってくれました。幾人もの死体が地面に横たわり、そのそばにはアボカドが散らばっていました。「アボカドが見えるかい?」と彼は私に尋ねました。私には見えました。あなたには見えますか、バイデン大統領?
(付記:著者のサラ・ロイ氏に許可を得て翻訳しています)
原文:https://www.lrb.co.uk/blog/2023/november/can-you-see-the-avocado
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