#2 精神看護と子育てと。精神科治療における刺激遮断と、子供の寝かしつけと。
✍️今日は何時に寝るのやら
子供が寝た。ようやく寝た。
いつも寝つくのは22〜23時頃。
成長のために、なるべく睡眠をとってほしい。私自身の一人時間を確保するためにも、早く寝てくれるに越したことはない。
マンツーマンで自宅保育をしていると、子供が寝ついてから自分が寝るまでの間しか、基本的には一人になれないからね。
2歳長女を寝かしつける際に、いつも迷うことがある。「布団に入ってからどのくらいお話を楽しみ、どこで区切りをつけて寝るモードに入ってもらうか」ということ。
そんなときに思い出すのは、やはり精神科看護師として病棟で勤務していたときのこと。夜勤中、同じようなことを考えていたなぁ。
✍️精神科の保護室(隔離室)について
精神科に勤めていると、「刺激遮断」という言葉を耳にすることがある。今回の記事のタイトルにもなっていますね。
長〜〜〜い前置きになりますが、先にお話しておきたいのが、精神科の保護室(隔離室)のこと。
手っ取り早く読みたい方は、『✍️明け方まで話し続ける患者、布団に入ってからも話し続ける長女』の章からお読みいただくことをオススメします。
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精神科の治療の一つとして、「隔離」というものがあります。現場では精神保健福祉法に則って治療が行われているのですが、どのように定められているのか載せておきます。
長いね。
簡単にお伝えしますと、「患者本人や周りの人に危険が及ぶ可能性が著しく高く、隔離以外の方法では安全が守れない場合に、医師の判断によって行われる治療」のことです。
シンプルで安全な構造の病室で、過剰な知覚刺激や対人関係を一時的に遮断することで、症状が活発な時期を安全に過ごすことに繋がります。
そんなこと言われても、なかなかイメージがわきませんよね。「精神科 保護室」で検索してみると、こんな画像が出てきます。
病院によって保護室の構造が違うので、あくまでも私が勤めていた職場でのお話にはなりますが、
●天井に観察用のカメラがついている
→ナースステーションで内部の映像や音を観察でき、危険があったときにいち早く安全を守れるようになっている。
●壁はクッション素材
→症状により壁に頭を打ちつけるなどのリスクがあるため、柔らかい素材で作られている。
●ベッドではなくマットレス
→ベッドに頭を打ちつける、ベッドから思い切りジャンプをして自傷を試みる、ベッド柵などにタオルを通して縊首(首を絞める)を試みる…
などのリスクがあるため、シンプルなマットレスのみ。
●トイレの構造
表側から見ると一面分のついたてがあるが、裏側に回ると便器の中まで見えるようになっている。患者本人は水を流すことができない構造になっており、その都度看護師が観察してから流す。
→多飲水などの症状がある方は「トイレの水でもいいから…」と一日に十数リットル飲水し、最悪死に至るリスクがあるため。
また、治療に必要な薬をこっそりトイレに吐き出す方もおり、それに気付くため。
最終排便がいつなのか、患者本人が伝えられない病状である場合も多く、身体の異変にいち早く気付くため。などの理由から。
●食事について
食事を配膳する際の食器はプラスチックor紙皿、割り箸or紙スプーン。配膳の前後で何をいくつ渡したのか覚えておき、確実に回収する必要がある。
→陶器のお皿だと、投げて割って自傷を試みるリスクがあるため。割り箸は喉に刺すなどのリスクがあるため、患者の今現在の精神症状からどの配膳方法を選ぶのか、その都度アセスメント(分析)する必要がある。
(ちなみに、肛門に割り箸を刺して血塗れになった患者を目の当たりにした夜勤もあった)
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他にもたくさん、安全を守るための工夫が凝らされているのですが、書ききれないのでこんなところで。
保護室に限ったことではありませんが、精神科での治療は「人権やプライバシーを尊重しつつ、安全を守る」という、両者の均衡点を見つけるのがなかなか難しい治療だと感じています。
ちなみに、保護室に関するこんな本まで出ています。すごい。
はじめにもお伝えした通り、病院によって構造が異なるので、こういう本があると勉強になります。
自分の職場の保護室が「本当にこの構造である必要があるのか」「患者にとってより快適な環境を整えることはできないのか」「他の職場ではどのように安全を守っているのか」など、考え続ける必要があります。
この本を見ていると、私が働いていた職場は古い構造だったのだなと気付かされます。
(私の退職後に病棟が移転して、新病棟では構造が変わったようです)
…と、保護室の説明はこのあたりにしておきます。
行動の予測がつかないことの恐ろしさ、物品管理や環境整備の大切さは身に染みており、育児にも大いに役立っています。
長すぎるけれど端折ることができなかった前置きをお伝えしたところで、少しずつ本題に近づいていきます。(まだ本題には入れない)
✍️精神科治療における刺激遮断について
精神科では精神保健福祉法に則って治療を行っているとお伝えしました。
それ以外に安全を守る方法がない場合に、やむを得ず、一時的に保護室での治療が行われると前述しましたが、他に「通信や面会」についても記載があります。
これまた長い。
「治療上必要な場合、条件付きで入院中の面会や電話を制限させていただくことがありますよ」ということですね。
保護室にしろ、通信や面会制限にしろ、なぜこのような治療が必要になるかと申しますと、「精神症状が活発な時期に必要以上の刺激を受けると、症状がより悪化してしまう可能性があるため」です。
●幻覚妄想が活発な時期に、いつでも誰にでも電話をかけられる状態であると、被害妄想や恋愛妄想などを抱いている相手に電話をかけ続けてしまう
●家族との関わりが症状に大きく関係している場合、家族と面会をすることでより症状が悪化してしまう
などの例が挙げられます。
精神保健福祉法に記載がある内容に加えて、「その方にとって、今その精神症状では、何が刺激となり得るのか」を考え続ける必要があります。
テレビやネットの情報により何かしらの症状が悪化してしまうのであれば、それから距離をとるようにサポートをする。
多弁で人に話しかけすぎて休息がとれていないのであれば、一人になる時間を作るようにサポートをする。
例を挙げるならこんなところでしょうか。
精神科での治療に限ったことではありません。
例えば、ショッキングなニュースがひっきりなしに流れている時期には、テレビやネットから距離を置くことで、自分の心を守ることに繋がったりしますよね。
刺激遮断とは、そういうものかもしれません。
あっ、ダメだ。キリがない、申し訳ない。
話を進めましょう。
✍️明け方まで話し続ける患者、布団に入ってからも話し続ける長女
前置きが長すぎましたが、実際はもっとシンプルな話なのかもしれない。(論点がズレた前置きになっていたかも)
ようやく本題に入ろう。
病院で夜勤をしていると、様々な症状からなかなか寝付けず、ナースステーションを訪れる方が多くいらっしゃいます。
今回の記事のテーマでもありますが、どの程度お話を伺って、どこで切り上げようか、これがなかなか難しい。
難しい背景としては
①マンパワーが不足している中で、病棟全体の安全を守る必要がある
②患者の治療に支障が出ないようにする必要がある(前述した、刺激遮断という観点で)
③①②が問題ない上で、話を聞く医療者自身の心の余裕が必要
という3点が思い浮かびました。
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まずは①から。
私が働いていた当時の夜勤は、看護師3名に対して入院患者50名弱。
一人一人の患者とゆっくり話したい気持ちは山々だが、そうしている間にも他患者が転倒しそうになっていたり、トイレの希望があったり、呼吸状態が悪化していたり、希死念慮から縊首を試みていたり…。深夜の緊急入院にも備えねばならない。
どんなに「正しく」優先順位をつけられたとしても、どこかでは大惨事になりかねないハードな現場。そんな環境で一人の患者の話を長時間聞き続けることは、残念ながら現実的ではありません。(叶うことならば、気のゆくまでじっくりとお話させていただきたいです)
5分でも10分でも、なんとか時間を捻出してお話を伺えば「安心しました!これで眠れそうです」と安眠に繋がるかもしれない。
今はお話を聞くことが難しいですとお伝えすれば「あの看護師はちっとも話を聞いてくれなかった」と、明け方まで苛立ちを隠せない様子で眠れないかもしれない。
何が正解なんだ。ひとつ言えるのは、看護師の数を増やしてくれ…!(退職したお前が言うな)
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②の刺激遮断という点でも難しい。
絶不調で外部の刺激に脆弱な時期であれば、長時間話し続けることで余計に症状が悪化してしまい、休息がとれなくなることがある。
それでも、本人としてはいくらでも話を聞いてもらいたい。
のちに転職した精神科訪問看護では、このような時の対応策の一例として、こんな声掛けを教わった。
「〇〇さんは今、怒りや不安に任せて話し続けることで、大きくエネルギーを消費しているように見えます。
人間が一日に使えるエネルギーは無限ではないので、このままエネルギーを消費し続けてしまうと、このあと〇〇さんが必ずやるべきこと、やりたいことができなくなってしまいます。
そうならないように、今は一旦ここでお話を中断させていただきますね」
なるほど。たしかに、エネルギーは有限だ。
不調な時期で、自身でエネルギー配分をするのが難しいときには、こういう声掛けが必要なのかもしれない。
当の本人からすると「それは私が決めることだ、いいからスッキリするまで話を聞いてくれ!」と思うかもしれないが。(実際にそう言われたこともある)
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最後に③。
なんだかんだ一番難しいのは、これかもしれない。自分に余裕がなければ、人を思いやることも難しい。
忍耐強さがあり、他人に対して関心を持てることが長所の私は、他のスタッフから「よくあんなに丁寧に話を聞けるよね」と言われることが度々あった。
長所と言えども、なんでも加減が大事。
私一人がそのように対応しても「あの看護師の時はやってくれたのに、別の看護師の時はやってくれなかった」とケアの統一が図れなくなったり、①②の観点で患者本人や他患者に悪影響を及ぼしてしまいかねない。
また、専門職として自身の感情をコントロールし、相手の話を丁寧に聞くように心掛けてはいたが、人間だからそうもいかないこともある。
「治療上、時には外部からの過度な刺激を遮断してあげることが大事だ」と学んでからは、それを免罪符のように都合よく扱っている自分がいるのではないかと感じたこともある。
相手の治療のためではなく、「ただ今の自分自身に余裕がないから」という理由で、話を十分に聞けなかったことを正当化しているのではないか、と。
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そんな病棟時代のことを思い出しながら、我が子との関わり方を考えてみた。
就寝時に布団に入ってもなお、ひたすら話し続けたり、好きな音楽を聴きたいとおねだりする2歳児。どう関わることが、この子のためになるのだろうか。
前述した①のマンパワーという観点では、看護師の仕事とは違って十分に間に合いそうだ。
第二子が産まれたらそうもいかなくなるだろうが、今のところいくらでもわがままを聞いてあげられる。
私自身、退職して現在主婦であるため、寝不足であっても翌日の生活に支障が出ることは然程ない。
悩んだ末に一旦退職したのは、こうして我が子と思う存分戯れるためでもある。
②の刺激遮断という観点ではどうだろうか。
治療とはまた別の話になるが、「休養をとるためのサポートをする」という意味では、共通点もあるように思える。
寝る直前にテレビを見せないようには心掛けている。賑やかな音楽はどうだろう。興奮して寝つきが遅くなることによるリスクは、どのくらいあるのだろうか。
現状「しまじろう!」「アンパンマン!」と言われれば好きな音楽を流してあげ、歌いながら踊る姿をほほえましく眺めている。
朝6時台でも夜22時台になっても、全力でハッピージャムジャムし続ける体力おばけ。正直うらやましい。
欲求を満たしつつ徐々に寝るモードにしてあげるためには、ただお話をするのが健康的なように思える。
その日にあった出来事を振り返ったり、明日はこんなことをやろうねと話すことで、会話が急激に上達しているようにも感じる。
暗い部屋で話していればいずれは眠くなるだろうから、満足するまで付き合ってあげようと思ってはいるが、2時間近く話し続けてしまうこともある。修学旅行の夜か。
そんなこんなで、結局は③。
親のさじ加減で決める他ない。
「今日は私の体力的にも、時間的にも、精神的にも余裕があるから、いくらでもお話しよしよ(キャッキャウフフ」と思えるときもあれば、
「もう勘弁してくれ。まじで勘弁してくれ。今日は十分遊んだ。母はもう一人になりたい。閉店だ閉店。寝るぞおやすみ〜(㌧㌧㌧㌧」と必死に寝かしつけるときもある。
自分でも話の終着点が見えないまま書き始めた記事だったが、今ようやくまとまりそうだ。
✍️おわりに
「やれ刺激遮断だ、何が相手のためになるのか考えながら行動だと言いつつも、結局は自分が投影されるだけなんだな。
患者対応も子供の寝かしつけも、今の自分にどれほど余裕があるのかが反映される。対人とはまさに自分を映す鏡だ」
…という当たり前のようなことを再確認したところで、今回はおしまい。
最後までお目通しいただき、ありがとうございました。