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ここではないどこかへ

心の中に、ひとつの居場所に安定していたい気持ちと、縛られたくない気持ちが同居している。

穏やかな集まりに憧れる反面、同じ所に居続ければ飛び出したくなる。

好奇心が疼き、新しいもの、ここではないどこかの未知の可能性が気になって仕方なくなる。いてもたってもいられなくなる。

でも、できない。

何故なら私には呪いがかかっているから。

苦労して手に入れた居場所を手放せば、もう自分は終わってしまうというのではないかという恐怖に支配される。そして身動きが取れなくなり、安寧のぬるま湯に溺れ、息ができなくなってしまう。

そして限界まで耐えて耐えて耐えて、耐えられなくなってから爆発し、身ひとつで逃げ出す。そしてその先で、ふと虚しさに堕ちる。そしてまた安定した居場所が恋しくて恋しくて仕方なくなってしまう。

そんなことを繰り返し、自分に合う居場所なんてないんじゃないかと、ほんとうに世界で自分はひとりきりなのではないかと絶望したこともあった。安寧を求める心と、冒険を渇望する心、どちらが本当の自分かと悩んだこともあった。

しかしどちらも自分と受け入れ始めてから、本当に少しずつだけど変わり始めた。

安寧を求める心も、冒険を求める心も、等しく己の中にある。

これまでは無自覚に、ただ衝動に振り回されるだけの人生だった。

しかしここ最近、この矛盾した衝動をなくしてしまうのではなく、狙いを定めて主体的に使っていこうと、気持ちが前を向き始めた。

己が何者か、まだはっきりとはわからないけれど、自由であることを自らに許す勇気、危険を避ける知恵を以て衝動の解放を。

もう自分を偽る必要なんてない。

人から嫌われるのが怖くて、手加減と萎縮ばかりを覚えてきたけれど、それは柔軟性として使っていけるはず。

持っているだけでは荷物でも、使えば道具になるのだから。

呪いを解いて、この無垢な冒険心を以て、新しい景色を見に行こう。

私は私でいい。一人だけど、もう独りではないのだから。


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逸見灯里
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