誤解されにくい例示や例題
旧題名「学生が誤解しにくい説明とは」から改題
学生が誤解をする原因として、教員の説明が適切でないことがある。説明自体が間違っていることではなく、例として挙げた問題の組み合わせが適切でないことで、学生が誤認識をすることがある。学生の理解内容の全てが試験問題でチェックできるかというとそうではなく、本当は誤って理解しているのに、学生が誤ったままの考えで解答した結果がたまたま正答と同じ数値であると、教員は学生の誤った理解に気づかない。
例を挙げると、「小数第3位で四捨五入して小数第2位で答えよ」といった問題の場合、計算結果が「1.2345」の時には、四捨五入をしたら「1.23」だけれども、四捨五入をせずに切り捨てをしても「1.23」だし、四捨五入や切り上げ切り捨てを一切考慮せずに小数第2位で計算をストップしていても「1.23」なのである。教える単元にもよるが、基礎的な概念だったり、学生の理解が怪しいなぁと思うときには、敢えて計算結果で学生の理解がチェックできる数値にしておく必要がある。ここでは、計算結果が「1.2385」等としておくべきなのである。
工学の分野では、基礎となる概念・ルールに「有効数字」がある。有効数字という概念は、一旦覚えてしまえば間違いようがない、とつい教員側は考えてしまうが、初学者にとっては趣旨が納得できていない(腑に落ちていない)ため、いくつかのパターンで勝手に解釈をしてしまうことが多いと感じている。
有効数字の定義等は省略し、Wikipediaへのリンクで済ませていただく。
有効数字で誤解をする事例
【誤認識例1】整数部の桁数が有効数字である :具体例「3561を有効数字3桁で書くと356×10。1.2を有効数字3桁で書くと120×10^(-2)。」
【誤認識例2】小数の桁数のことである :具体例「1.234は、最小の数字が0.001だから、小数第3位だから有効数字3桁だ」
【誤認識例3】0以外の数字の数である :具体例「0.012300は、前と後の0を除くと123だから、有効数字3桁だ」
誤認識の解説
【誤認識例1】について。採点をするときに、ここで示した具体例の回答をしてきたときに、おかしいなぁと思いながらも数学的には誤っていない(同じものを表している)ため、気になりつつも○を付けることがある。教員として横にコメントしたりすることもあるが、そのコメントを見て根本的な考えの誤りに気づいて直すというところには至らないことが多い。一見合っているように見えることがやっかいである。
【誤認識例2】について。この認識の学生は、しばしば解答を、0.123×10^5などと、1桁目が0の小数で表記することがある。普通、1.23×10^4なのに何故わざわざ難しく書くのかと教員は思うかもしれないが、こう書いておけば間違えない/間違える割合が少ないことを感覚として獲得しているのではないか。
英語に喩えると関係代名詞が whichかwhoseか確信が持てず、とりあえずthatと書いておけば○がもらえる、みたいな。誤認識例1、2ともに数学的に正しい答えが出てきたときの初学者への対応としては、スルーするのではなく、その時点で対応が必要になってくる。
数学的には合っているけれども望ましくないという教員として非常に困るときがある。普段の授業で教えるときの介入と、オフィシャルな記録としての定期試験での対応は少し異なるので、それはまた別のテーマとして書きたいところである。
【誤認識例3】前述の例のような正答に見える解答はないと思うが、とにかく同じ授業を受けても、きちんと理解していないとこのようにシンプルに理解してしまうことがある。いくつかの問題を解いても、ある問題は正解、ある問題は不正解、となるときにはきちんと理由がある。
改善策
有効数字が正しく認識できているかをチェックする問題例を満遍なく解かせてクリアさせる必要がある。有効数字ひとつにしても、いくつかのバリエーションに分けることができるが、網羅したチェックはしていないが10以上のパターンに分けられると思っている。通常授業で説明する際には、少ない例しか出せないことが多く、その答えだけを見て別のルールが逆算できるのは望ましくない。
次の数字の有効数字の桁数を求めよ
3.14
3.0
64.58
0.3
0.06
0.2360
0.0520
2×10^3
5.2×10^4
37600
上記ぐらいのバリエーションンを初学時に徹底的に解いておく必要がある。これは定義の問題なので、8割正解ではダメで10割正解でないと理解しているとは言えない。
また、具体的にどう考えているのか、という説明をさせるとか、プロセスも同時に答えさせる必要もある。例えば上記の問題で6番目の0.2360は何故有効数字が4桁なのかを言葉で記述させるものである。
小テストなどで細かく指導するのは難しいが、Googleフォーム、Microsoft FormsなどのWebテストなどで気軽に数をこなすチェックができる(すぐに点数もでる)ので、徹底的にトレーニングする機会は以前に比べてできるようになっている。
上記だけでは対応できない例外
ルール、定義は1つで、それに基づいて判断をする(問題を解く)ということは自明であるが、初学者にとってはその原理原則自体も身についていないことがある。この時にはAの定義を、あのときにはBの定義を、ばらばらに適用して解くという学生もいる。何となくそれで8割ぐらい正解してしまうと、そのまま訂正されないまま進んでしまうことがある。
そういう学生をどうやって教育するかというところは、前述のように定義や、どうやってその問題を解いたのかをヒアリングする必要があるが、それを自分でできるような課題設定が望ましい。
例外の例として、一般的な閏年の説明がまさにそうなっている。(1)4で割り切れるときは閏年、(2)しかし例外で、100で割り切れるが400で割り切れない年は平年、のような場合分けの説明。数学でそういうものだと思い込んで覚えないようにすることが大事なのだが、まずは教員が、そういう風に覚える学生もいることを認識して受け入れることからがスタートである。
【話は少し脱線する】閏年の例は、なぜそういう現象が起きるのかを理解することが大切だろう。私なら、教員あるあるで、罫線ノート(出席簿)に学生の名列を印刷して切って糊で貼る際の罫線のズレを一定数毎に補正していくのが思い浮かぶが、学生にはポカーンだろう。これも別項で書きたい。
そうしないと、教員の説明と学生の理解が平行線のままで交わらない。
マニアックな問題
以下はより一層マニアックなので、興味のある人だけ。冒頭の例題に戻る。冒頭の問題を少し改変して最終的に「計算で出てきた1.2385」を有効数字3桁で求めよという問題があったとする。正答は「1.24」となるのだが、「有効数字で丸める作業をしていなかった学生」の答えは「1.23」となることが多いし、「小数3桁表記にせよと誤解している学生」の答えは「0.001単位となるように、0.0001の桁を四捨五入して1.239」となるかもしれない。例えばこのような答えにしておくと、いくつかの誤答から学生がどう考えているのかを推察することができる。計算後の答えが1.2385となるような問題を作るのは難しいので良い例ではなかったかもしれないが、伝えたいことは、予め学生が誤解することが予想される単元の場合にはそれを見越して問題を作ることも有効だということである。
この試行錯誤例を挙げる。単位換算の問題で当初、適当な数字で「789Nをkgfに単位換算せよ(有効数字3桁、重力加速度は9.8m/s^2)」という問題を作ってみた。正答を用意している段階で、81.42kgfとなりこのままでは有効数字3桁を理解していなくても、切捨てで81.4としてしまう場合もあると考えて、4桁目で5以上の数字になる元の数字を探すと809Nであった。790、791、792・・・と結果として1ずつ増やしていき、11回電卓を叩いて809Nを見つけたのであるが、このように特に初学者の問題作成には気をつかっている。
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