青春の古層1.
巣鴨は私の青春縄文期にあたる。まだ前世からの引き継ぎのような、異様で強力な引力が外国語の縁と生涯に渡る面影の人との出会いをもたらした。まだその頃の時空に踏み込む力も余裕もない。
池袋は私の青春弥生期だろうか。創造的空白とかいってうかつにも、この領域に足を踏み入れてしまった。ところが池袋には私にとって２つの巨大な渦があったのだ。西武池袋線と東武東上線だ。今回は何とはなしに西武池袋線に飛び乗った。椎名町、江古田、桜台、練馬、石神井公園、そしてはるか地平に褶曲する秩父山麓。入間くらいで踏みとどまりたい。東京生活最後の土地はひばりが丘=新座。練馬からは偶然、若いお母さんと可愛らしい双子の男の子が乗った。私の背後(後戸)の神、ラーメン童子てんもん君の影向だ。語り尽くせぬ、めくるめく過去という名の青春。もはや窓外の風景を撮る気力もなく、押し流されてゆく。
偶然だろうか。“超自然と対峙する”で書いたひばりヶ丘駅からは喪服の高齢夫婦が乗った。さあどのあたりで、引き返せるか。2015年に他界した親友の彫刻家もまた脳裏によみがえる（そうか、あいつの七回忌なのか）。遥かに秩父観音霊場を遥拝して、『異人たちとの夏』序章としよう。
私の肉体と、魂魄の魄の方の故郷が岡山の生家とすれば、この雲立ち昇る西武池袋線沿いの土地土地、山々は明らかに私の魂魄の魂の方の故郷の一つだ。
アルジャーノン・ブラックウッドの名作『いにしえの魔術』の主人公が前世の魔女狩りの町に引き寄せられたように、夏の魔術に翻弄された。まだまだ何か強いエネルギーが私の人生に流れ込んで、流れ続けていると、ゲニウス・ロキ（地霊）が知らせてくれた。この流れにもう一度接続しなさいと。ずっと左耳に耳鳴りがしている。
