見出し画像

“騎士団長殺し”読書感想文11.

“「あなたはものごとを納得するのに、普通の人より時間がかかるタイプのようです。でも長い目で見れば、たぶん時間はあなたの側についてくれます。」ローリング・ストーンズの古い歌のタイトルみたいだ、と私は思った。…

うまくいくといい、と私も思った。時間が私の側についてくれるといい。”

“私は時間を味方につけなくてはならない。”プロローグにさりげなく置かれたこの言葉が明らかにこの作品の伏流する、もう一つの旋律だと思われる。この“時間”とは運命ともめぐり合わせとも置き換えられるが、何故あえて“時間”のまま置いたのだろうか?運命を味方につけるとすると、途端に何かのスピリチュアル本の、ありきたりの陳腐な表現になってしまう。“時間”ならば、日々毎時毎分、私達の体内外を行き来しており、感受とか意識とかで、私達にも少しは細工できるかもしれないと、アスリート・ジャズ愛好者としての村上春樹氏の実感体感があるのかもしれない。実際に禅家や瞑想修習者には、“定に入る”、“変性意識”などのゾーン意識領域がある。井戸、壁抜けなどによって時間を停止させて、異なる時空に入る体験を村上春樹氏は何度も描いている。その先の領域には過去への遡行、多次元世界、悪しき小人などが登場する。今回は何が登場するのか?


いいなと思ったら応援しよう!