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「早池峰と賢治の展示館」浅沼利一郎さんの魂(後編)

・・・前編からの続きです・・・

早池峰や、早池峰以外の周辺の山々を登った時に感じられるのは、早池峰の存在感の大きさです。

蛇紋岩からなる早池峰の山体と、その蛇紋岩などに由来する貴重な植物の数々はよく知られたところですが、山頂に立ち並ぶお宮や剣、山頂への道の周辺にそびえる巨石の数々。山の中腹では暴風が吹き荒れていても、山頂に到達すると無風で白い霧が立ち込めているという、神秘的で不思議な光景。

古来から人々が霊山として早池峰を大切にしてきたことが、実感として感じられます。

周辺の山々や平野部から仰ぎ見る早池峰も、信仰の対象に相応しい姿をしています。

1914mの最高地点を中心として左右に連なるシャープな山々の姿は、高さや美しさが周囲の山々とは一線を画し、一度その姿を目に焼き付けると、ランドマークとして無意識に目で追ってしまいます。

その上、広大な花巻エリアの東の最も奥に位置するため、平野部から眺めても雲や霧に覆われ何日も姿を現さない日が続くこともあり、神秘的な雰囲気を纏っています。


また、早池峰以外の1000m台後半の山々に登って岩手の山々を見渡した時、雲の上からポッカリと山頂を出しているのが、標高約2000mで岩手最高峰の岩手山と、それに続く早池峰だけ、という事もあり、その存在感は際立っています。

岩手山に登って遥か遠くを見渡した時も、岩手の大地が雲で覆われる中、早池峰だけが孤高の存在として雲の上に顔を出していることもあり、その時の早池峰の姿に対しては、親しみや懐かしさといったような不思議な気持ちが湧きます。

早池峰が、古来より故郷の霊山として信仰を集めた意味が、実感として感じられるのです。

賢治は、学生時代から岩手山に登っていたと言われています。その賢治が、岩手山から周囲を見渡し、岩手を覆い尽くす雲の中、南東の方角に独りそびえる美しい山の姿を見つけ出していたとしても不思議ではありません。そして、その山が、故郷・花巻の東に位置する早池峰であることに気付くのに時間はかからなかったのではないでしょうか。

登山を趣味にする人以外は、たとえ早池峰が身近にあったとしても、苦労しながら時間をかけて登ろうと思い立つことはほとんどありません。しかし、自分の足で一歩一歩早池峰の土を踏みしめて登らない限り感じることができない感覚があるのは確かです。

浅沼さんが、「賢治ファンなら、まずは早池峰へ登らなければ」と繰り返し語っていたのも、そういった意味からなのではないでしょうか。そして、登山ほど難しくはなくても、実際に足を運ぶ機会が少ない花巻・大迫地域の賢治作品ゆかりの土地に実際に訪れてほしいというのも、浅沼さんの願いでした。

早池峰と賢治の展示館には、そういった浅沼さんの想いを表すように、早池峰や大迫への誘いが溢れています。

浅沼さんの訃報から話がそれてしまいましたが、生前の浅沼を思い出すと、早池峰や大迫地域が持つ魅力や、宮沢賢治について熱く語る浅沼さんの姿が鮮明に思い出され、未だに、浅沼さんが亡くなられたということが信じられません。

今も、浅沼さんの魂は、「早池峰と賢治の展示館」や早池峰の峰々の中に生き続けているような気がしてなりません。

早池峰、そして「早池峰と賢治の展示館」は、浅沼さんの魂を受け継ぎながら、これからも美しく輝き続けるでしょう。

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