【怖い話】目の向きが違う
最近、毎日のように同じ夢を見る。
日中の生活は何も変わったことはない。何年も同じように過ごしているのに、寝ている間に見る夢だけ変わった。
その夢が始まると、私は毎回同じ電車に乗っている。
現代には運行していないだろうと思われる、明らかに古びた車両。冬の時季なのに扇風機が回っている。
座席も壁も所々色落ちしているように見える。
鉄道博物館に展示されていてもおかしくないくらいには使い古されたその車両。
私以外に他の乗客が7~10人程度しかおらずガラガラだ。
こんなに空席が沢山あるのに、私を除いた乗客はなぜかいつも全員立っている。
不気味なのはその乗客たちが全員進行方向左側のドアに張り付くように、横からでは表情を伺うことができないぐらいにピッタリ配置されていることだ。
なぜ私以外の全員が立っているのかという問題よりも、なぜドアにピッタリくっついているのかという方に気がいってしまう。
どんな顔をしているのか?どんな表情を浮かべているのか?
それだけでも分かればこの夢の正体について何かの手掛かりになるのにな…と思っているうちに夢から覚める。
そんなある日、いつもと同じ様に夢のなかにいると、不意に車両が大きく揺れ、座席に座っていた私以外の乗客のうち2人がバランスを崩しドアから離れ転倒した。
結構大きな音がしたので、私は駆け寄って『大丈夫ですか?』と声を掛けた。
だが、その瞬間に驚愕した。目の向きが違う。
私の拙い文章力だけでは伝わらないので絵の写真を参考にしていただきたい。
私の知る限り、人間の目というものは横に長いものだが、車両内で転倒した2人の目は横ではなく縦に伸びていた。
明らかな違和感にはすぐに気が付いた。
だがその人たちを見ても怖いとは思わず、不思議な人たちだなと感じたことを覚えている。
そもそも、それ以前から電車の左側ドアに私以外の乗客全員が張り付いていたこと自体が理由も分からず大きな恐怖であったため、そんなものを毎日見ていた私は感覚がおかしくなっていたのかもしれない。
こうして今、記事を書いていると恐怖の感情が生まれる。
その日はそこで夢から覚めた。
ここで汗びっしょりとなっていれば話としては面白かったのだが、そんなことはなかった。
次の日の夜のこと。私はまた同じ夢を見た。
だが今度は車両内に私以外の乗客がいない。今までこんなことはなかった。
別に日中変わった行動をしたわけでもないし、前日彼らの顔を見たのも私が無理やり見に行った訳ではなく事故である。
この後、何が起こるのだろう?
私は見てはいけないものを見たから、もう現実には帰してはくれないのだろうか?
なんてことを考えていたが、今度は電車が駅に停車した。
これで何か恐ろしいものが乗車してきたらどうしようと咄嗟に身構えたが、その電車の車両にはドアが4つ付いていたので、仮に何かが乗ってきたとしても、その気になれば車両から逃走することは容易であると考えた。
しかし、私の体感で1分から2分ほど経っても誰も乗ってこないし、電車が発進するような素振りが一切ない。アナウンスも無ければ、駅のホームにも誰もいなかった。
私は自分が持っていた荷物はそのままにして、車両の外に出てみることにした。
シーンと静まり返っている。よく聞く話で【きさらぎ駅】とかの異世界物語の可能性を疑ったが、あの話は後に創作であることが表明されていたし、夢のなかだから大丈夫!と高をくくって私はホームを出口に向かって歩き始めた。
地下鉄の駅なのだろうか?しかし、天井にはシャンデリアのような電気が吊るされており、明らかに私の知っている駅ではない。
私は駅のホーム端っこの方に上へあがる階段を見つけ、その階段から上階へ向かった。
すると、階段の一番上に人影があった。
私の脳裏に前日の夢で見た目の向きが違う人が思い浮かんだ。
あの時は怖いという感情はなかったのだが、今回は違う。冗談みたいな話だが、今私の前にいるその人は目が斜めについていた。手には警棒のようなものを持っている。
縦に伸びた目は怖くなかったが斜めに伸びた目は相当に恐怖した。
こんな誰もいない駅で電車に乗り込むのではなく、ただ階段の上で立ち尽くしている。ただ私が来るのを待っているように。
早く起きなければならない。今から電車に戻っても、この人が追いかけてきたら逃げられる保証はない。
いつもの夢に出てきた人たちはいつも窓の外を見ていたから私を見ることはなかった。しかし、あの人は明らかに私を見ている。私の方に向かって来るわけでもなく、まるで私が駅のホームから出ることを阻止しようとしているようにも見えた。
こうなれば仕方ない。正面突破だ!
2段飛ばしで階段を駆け上がり始めた私を見てもその人は動じなかった。
そこからは良く覚えていないのだが、揉み合いになったことは確かだ。
そこで目が覚めた。
良かった。と思ったのも束の間。
その翌日、私には日中用事があり外出しなければなかったのだが、家の中をいくら探しても財布とキーケースが見つからない。
夢のなかで電車に荷物を置いてきたせいなのか?
しかし、あれは夢のなかの出来事であって現実には関係ないはずだ。
結局その日は財布もキーケースも見つからず用事を済ませることができなかったので、友人に電話し代わりにこなしてもらった。
夜になって荷物が届いたので、友人がバイク便で送ってくれたものだと考えた私は友人にお礼の電話をしたが、友人は電話に出なかった。
私は友人からの折り返し電話が来る前に届いた荷物の内容物を確認するため、紙袋を開封し、ショックを受けた。
そこには私の財布とキーケース、あの人が持っていた警棒が入っていた。送り先を確認するため、紙袋を調べたが送り主は私自身となっていたが、その字は私の筆跡ではない。
今日もあの夢の続きを見なくてはならないのか?怖い。いつまで私に付きまとう気なのだろう。