『夏へのトンネル、さよならの出口』を聴いて オーディオブックの新しい楽しみ方

はじめに

この文章は吉岡茉祐さん(以下敬称略)のファンによる『夏へのトンネル、さよならの出口』のオーディオブックの楽しみ方の文章となります。
いわゆる読書感想文ではなく、吉岡さんのファンの私が、「どういう風にこのオーディオブックで作品を楽しんだか」という批評とはかけ離れたものになるので、そのつもりで読んでください。
当たり前ですが物語の内容に触れながら書いていますので、初見で本を読みたい方は読まないようにお願いします。

オーディオブックという媒体

ガガガ文庫と81プロデュースのオーディオブックプロジェクト。沢山の作品が音声化され、ドラマCDとは違う音声媒体として存在しています。まずオーディオブックとドラマCDの違いは何か?

簡単に言えば地の文を全て音声化するのがオーディオブック。元の本に何の手も入れず、全てを音声化するというものです。それに対しドラマCD(ラジオドラマ)は脚本をそれ用に書き起こし、モノローグはあっても地の文はありません。そのため圧倒的に長さが違います。

オーディオブックはどちらかといえば、ビジネス書や自己啓発書での利用が主なのでしょう。もちろんそちらの方でも、声優さんが活躍してるものは多くあります。
個人的には松下幸之助の『道をひらく』の大塚明夫さんのオーディオブックは聞いていて身が引き締まるので好きです。

それはそれとして、小説のオーディオブックは基本的に長い。ラノベであれば30〜90分あれば読み終わるものを8時間かけて聴くのはあまり、コスパが良いとはいえません。速さを4倍にしても2時間。内容を読みたいなら圧倒的に活字媒体の方が手っ取り早い。

値段も決して安くなく、原作の倍以上の値段がします。それでも聴くからには、違う楽しみ方があって然るべき。これはそうした、小説のオーディオブックの新しい楽しみ方を提示するための文章となります。

上記事務所に所属する吉岡茉祐のファンである私。彼女がヒロイン役が決まり購入したこの作品。ただ物語として楽しむには時間的に途中で挫折すると判断し、もっと面白い楽しみ方は無いだろうかと模索しました。
81プロデュースに所属する声優を推してる皆さんの一助になれば幸いです。

夏へのトンネル、さよならの出口とは

この作品は第13回小学館ライトノベル大賞で、ガガガ賞と審査員特別賞をW受賞した八目迷先生の作品で、書店に送られてきた配本からも期待をされていたと感じられる作品です。
売り上げもなかなか好調で2020年の4月には同先生の新作も発売されています。

内容は青春小説にSFを足した感じの話です。
主人公の塔野カオルは都市伝説があるような田舎の高校生。家族仲がうまく行っていないながらも、日々を過ごしていました。そんなカオルの日常は転校生の花岡あんずと、都市伝説だと思っていた時を超えるウラシマトンネルの発見で普通ではなくなっていきます。
あんずとの関係。家族との関係。学校生活。
時間と引き換えに何でも手に入るウラシマトンネルの謎とは?
彼は彼女はそのトンネルに何を求めているのか?

ざっくりそんな感じの話です。
詳しくは作品HPでもみてください。
で、そんな話のメインヒロイン、花岡あんずを私の推しである吉岡茉祐が演じています。
そのヒロイン像を自分なりにまとめてみます。

吉岡茉祐のどこが好き

と言って書くならそれだけで記事が必要です。なのでまず、この記事を読む際に、吉岡茉祐を知らない人がいる人にもどんな声優さんかわかるように、簡単にまとめました。
吉岡茉祐さんを知ってる人は、そのイメージで次にお進みください。わざわざ私の中の吉岡茉祐を知らなくても結構です。

Wake Up,Girks!(以下WUGと表記)が解散し、1年以上が過ぎた。私がWUGと出会ってから、まだ3年ほどであるが、オタクとして生きてきて、おそらく1番深い沼に足を突っ込んでいることは否めない。
そのなかでも私はセンターを務めていた吉岡茉祐に心を奪われだ。解散後も1人の声優としての彼女の活動もまた応援し続けている。

そのなかで私の好きな彼女が演じる役のタイプがある。
①中性よりの男性
②頭のネジが飛んでる役
③クールな女性

今回の花城あんずはどれに当たるか、③である。
なのですぐにこのキャラが好きになってしまうのは仕方がないことだった。

花城あんずの吉岡茉祐化
①声のトーン

さて、まず一回オーディオブックを聴いてみて思ったことがある。花城あんずと吉岡茉祐の境界線は聴けば聴くほど曖昧になり、区別がつきにくくなっていったのだ。
おそらく吉岡茉祐のファンでなければ、花岡あんずの声として再生されるだろう。しかしファンには吉岡茉祐の声として聞こえるほど、花岡あんずのキャラは舞台の楽屋(特典映像などで見られる)やラジオの吉岡茉祐に近い。
目を瞑ってストーリーを聴けば、私にとってはたこ焼きを「あーん」するのは吉岡茉祐だったし、恥ずかしそうに照れるのも吉岡茉祐だった。
おそらくそんな現象が起きたのは、吉岡茉祐ファンだけだろうが、この作品に挿絵がほとんどないことも影響しているだろう。
もともとこの作品の吉岡茉祐の声のトーンは青春小説ものということもあって、比較的ラジオや舞台裏などで喋るトーンに近い。自身の番組でショートドラマや寸劇めいたこともやるので、このトーンでの演技を割と聴きがちである。
なので比較的そういった想像がしやすい地盤はあったと言える。

②2人の共通点

そういった原因とも言える、私には2人の境界線をなくす共通点が大きく挙げると2つある。

一つ目は創作活動をする人間であることだ。

作中の花城あんずは漫画家志望である。花城あんず本人にとって、そのことが彼女の物語を動かす歯車の一つなり、主人公の塔野カオルとの関係を変化させていく。
そのあんずを演じる吉岡茉祐は声優でもあり、かつ脚本家でもある。彼女が脚本を務めた朗読劇もあれば、ラジオでショートドラマの脚本を書いていたりもする。

そうした類似性は、吉岡ファンにとって2人の境界線を失くすことにつながった。そして次のシーンがさらにそれを加速させた。

『「……中途半端なモデルよりずっと可愛い」
かああ、と花城の顔が赤くなる』

わかるだろうか? 
二つ目、可愛いと言われたり、褒められると照れる。
主人公のカオルが可愛いとあんずを褒めるシーンがある。誰であろうとそんなことを大声で言われれば照れるだろうが、吉岡茉祐の特性に可愛いが苦手というものがある。
可愛いと言われることを避ける傾向があるのだ。事実ライブパフォーマンスでは、カッコいいが前面に出る特徴があり、男性ばかりの現場にもかわらず、彼女のパフォーマンスの後には黄色い悲鳴が上がることはままあった。
普段はクールなのに可愛いと言われ慣れていない感じはとても似ている。そのことが、2人をより近しい存在へとしているのは間違い無いだろう。

③主人公=読者が成立しやすい

この作品の主人公、カオルはとある理由で人と距離を置いて付き合う存在である。それは家族においても同様で、いや寧ろ家族こそ距離を置いているのかもしれない。
そのことを友人にも指摘をされるが、そうした主人公の主体性のなさは、いわゆるドラクエ型の主人公に近い。プレーヤー=主人公の考え方である。こうした小説で起きるのは、主人公と読者の一体化である。
一人称で話しながらも、強い想いを周りに抱かない主人公は読者が没入しやすいのだ。結果吉岡茉祐の声で聞こえるキャラクターが、吉岡茉祐として見えやすくなるのは自明のことだったに違いない。

『吉岡茉祐化』が引き起こすこと

こうした上記3つのことがらから、花岡あんずの吉岡茉祐化が進む。
(なんか面白かったので、そう書いたが一般化するため、後述は声優化とする)
すると吉岡ファンはどうなるのか? 花岡あんずが作品を褒められれば、吉岡茉祐で枕に顔を埋めて足をバタバタする。花岡あんずと花火大会に行けば、吉岡茉祐は友達が隣にいても指を絡めてくれる。そんな現象が脳内ではしっかり繰り広げられるのだ。情景は一人称で描かれるので、私の視点だけではない、触覚、嗅覚、味覚、痛覚などが私のものとして感じられる。

気持ち悪いだろうか? 私も自分で書いていて気持ち悪くなってきた。こんな文章が推しに読まれたら切腹もんだが、普段書いているメールや手紙に比べれば、どうということはない。

とはいえ、この現象はおそらく吉岡茉祐ファンであればあるほど強くなるのではないだろうか?
しかし残念ながらそれが上手くいかない場合があった。次の章ではそのことと、その原因について書いてみたい。

声優化の魔法が解けるとき

突如として声優化が打ち切られるときがある。それは5章『走れ』で起きる。ウラシマトンネルで、とあるものを手に入れた主人公は急に自我を手に入れるのだ。
今まで読者に預けていた肉体を取り戻し、ヒロインたる花岡あんずへの想いを強くする,
感覚としては恋愛シミュレーションで、(やったことのない人はペルソナで)せっかく両思いになった瞬間、主人公の声がフルボイス化したみたいな感じだろうか。そしてそれはこの作品の1番の盛り上がる台詞「行ってきます」で完全に彼は読者ではなく、塔野カオルとなる。

また花岡あんずの方にも変化が起きる。時間が進むのである。前のシーンでは女子高生だったあんずは、漫画家として、しかも今度は語り手として登場する。
それまでの経緯を語り出すため、読者は花岡あんずに感情を移入するという作業に切り替わる。当然自分を吉岡茉祐と思うことはない。自然と花岡あんずの声優化の魔法は解けていくのだ。

結果として終章で2人が再会したときには私は傍観者となってしまった。2人の幸せなエンディングを見られて、よかった。ハッピーエンドだと人並みな感想を持つことになったのだった。

結論こんなオーディオブックの楽しみ方

さて長文にお付き合い頂きありがとうございました。オーディオブックの楽しみ方ですが、まあ、簡単にいってしまうと、シチュエーションCDの楽しみ方をもっと深いかたちで出来るのではないだろうか? というのが私の結論です。

シチュエーションCDではなかなか味わえない、友情や恋愛感情を時間とともに深めていくことや、それぞれの設定の深掘りなどがオーディオブックでは楽しめるかと思います。
またそれはキャラではなく、限定的な条件ではありますがキャラと声優を混同する、「声優化する」ことで、声優とシチュエーションCDみたいなことができるような気がいたしました。

正直正規の楽しみ方ではないでしょうから、まあ「ちょっとそれは……」という人もいるかもしれません。オーディオブックの一つの遊び方としての提案をさせていただいた次第ですので、気に入らなければ別に普通に聴いて楽しんでいただければいいのです。

わたくし書店員ですので。

せっかく買った本なら楽しんでいただかないともったいないというだけなんですよ。

おそらく今後のガガガ文庫はラブコメ系に力を入れていくことが予測されます。ということはオーディオブック化で、皆さんの推しがヒロインや主人公になることもあるでしょう。

皆さんのオーディオブック生活の助けができれば私としましては幸せであります。

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