八戸戦レビュー~この新緑を実らせて~
お久しぶりになりました。
前節、福島戦からいわき戦の延期を挟んで2週間ぶりの試合。J3では1週休みで間隔が空く週もまれにあるが、体感ではもっと長くて先が見えないような期間だった。
その前までの戦績を振り返ると山雅はいわき八戸富山福島と強敵相手に4連勝。序盤はなかなか勝てなかったホーム戦でも5連勝中と調子の良さを見せてきたので、いい流れを殺すことなく、ライバルであるいわき・鹿児島との直接対決に臨みたい試合だった。
その一方で、12名の選手と3名のスタッフがコロナによる離脱中で、なおかつ準備期間も4日間という非常に厳しい状況での試合。(コメントを読む限り)活動停止期間の5日間はチーム間での話し合い等も一切なかったようなので、通常の中4日の試合ともまた違った難しさがあったはず。
個人的にもかなりの覚悟と厳しい戦いになる想定はしてきたつもりだったが、外から見ていてもそれは想像以上。試合内容よりも、前提条件から非常に厳しい試合になったが、これまで通り、レビューとして振り返っていこうと思う。
<両者のフォーメーション>
・松本山雅
前節からスタメンは6人変更。
GKは全試合出場だったビクトルから神田に変更。
後ろ5枚は常田→宮部。前節IHだった住田は左のWBに入り、外山が今シーズン初めて右サイドからのスタートとなった。
中盤の3枚は全て変更になり、パウリーニョ・住田・菊井→安東・浜崎・佐藤。
2トップは横山→田中(想)。田中(想)は初先発に、現役ユースのスタメン出場も山雅史上初となった。
ベンチには薄井が初のベンチ入り。前節と比較すると安田、山本(龍)、野々村、稲福が新たにベンチに入った。
・ヴァンラーレ八戸
八戸はスタメンは3人変更。
GK、最終ラインは変わらず。
ボランチの1枚が相田→キッカーも務めていた宮尾に変更。(試合後調べてみると)どうやらJ3屈指のキッカーという評価もちらほら。
SHには國分が復帰。負傷前までは右WBを主戦場にして八戸の右主体の攻撃で存在感を示していたが、この日は左のSHに入った。
2トップの1角には佐々木に代えて佐藤(碧)。前回対戦時もドリブラーの佐藤を2トップの1角で起用しており、対山雅にむけてそのような対策がなされているのかもしれない。
<記録>
・ゴール数
7:横山
5:外山
4:小松
2:住田、榎本、常田
1:菊井、宮部、下川
・アシスト数
3:外山
2:常田、菊井
1:ルカオ、佐藤、住田、濱名、ビクトル、小松
・累積
3:パウリーニョ
2:村越、佐藤、前、菊井、榎本、常田、宮部
1:米原、住田、浜崎、外山、安東(退場1)、横山
<総評>
■新時代を創る山雅の新緑たち
・千載一遇の機会を得たGK神田
前情報がなく、全く誰が出れるか出れないかが分からない状況のスタメン発表。中でもまず目を引いたのはGKが神田、薄井の若手2人だったこと。
GK2人だと恐らく練習にも色々と支障がありそうだが……
それはさておきここまで全試合フル出場だったビクトル、セカンドGKとしても経験豊富な村山が欠場して、神田がプロ初出場・初スタメンとなった。
GKの椅子は1つで、他と比べてもミスが許されないポジションなので、自力でチャンスを掴み取るのはどの国の、どのクラブでも容易ではない。大抵は正GKのアクシデントやチームの不調がきっかけとなったり、編成レベルで意図的にチャンスが回ってくるように仕掛けたりしなければ出番は回ってこないので、これまで連敗がなく、ビクトル・村山が上の序列にいる中だと余計にチャンスは回ってきづらい状況にあった。
今回はまさにアクシデント中のアクシデントといっても過言ではない形となったが、神田にとってはそんな状況の中でチームを救い、序列をひっくり返すにはまさに千載一遇のチャンスが回ってきた。
試合を振り返ると、この日は守備陣の頑張りと相手のミスにも救われ、八戸の枠内シュートはわずかに3本。神田の出番はそう多くはなかったが、前半に赤松の惜しいヘディングを間一髪のところで弾いたシーンは試合の1つの分岐点になりそうな決定的なシーンだった。この試合だけではなく、今後に向けての自信に繋がるようなシュートストップになればと思う。
堂々としたプレーで最少失点に抑えただけでも及第点といったところだが、課題としては前評判が高かったキックでのミスや、セットプレーなどでのハイボールに対してのカバーエリア(ここはスタッフ陣から出ないように言われていた可能性もあるが……)。
特にハイボールに関しては何人かメンバーが入れ替わり、晒されやすい状況だったのは神田にとっては不運だったかもしれない。今シーズンは山雅側に高さ・強さでは分がある試合がほとんどだった中で、この試合では向こうの方がゴール前のパワーで優っていた。
ただ、チームがピンチな中でこうした実戦経験を得られたのは大きな財産である。この経験を生かして一回り大きな選手になり、山雅の正GKとして数年後君臨してくれることを期待したい。
・CF候補に加われるか?FW田中
さらに、もう1つのサプライズが2トップの1角に起用された田中(想)。
ざっくり言うと2択だったGKとは違って、違う組み合わせも何通りか作ることはできたはずだが、「自信満々で送り出していて、ほぼ迷うことなく組んだメンバー(名波監督 公式コメントより)」として田中(想)が起用された。
天皇杯ではわずか20分の出場時間で決勝点を決めた田中(想)もプロの世界の先発としては未知数。そんな中、練習やユースの試合で名波監督に実力を認められ、思い切って先発として選んできたのは名波監督らしい。
この日は枠内シュートで最多の3本(シュート数トップは下川の4本)を記録。シュートまでの判断、シュートフィーリングが一番良かったのも間違いなく田中(想)だったように感じる。去年のプロ初出場時の横山も粗さがありながら思い切りの良いシュートを連発していたので、タイプは違えど同じストライカーとしては重なるものは感じた。
持ち味である一瞬の抜け出しやボールを持った時の落ち着きなどでも光るものがあっただけではなく、今年求められる守備での貢献性も計算できそうだったので、ユースとの兼ね合い次第では今後FW争いに加わる可能性もあるかもしれない。
■残ったピースで再構築できず
・チャンスの数を増やし、シュートは最多も…
Spoteriaのデータによるとこの日のシュート数は25(11)対9(3)。
攻撃についてはシュート数25本、チャンス構築率19.8%、30m侵入回数も初めて40に達するなど今季最高値を叩き出すなど"とにかくチャンスの数を増やす"という狙いは体現できており、4日間で恐らくほとんど攻撃には手が付けられなかった中というのを差し引くと単調ながらもチームとしてやれることはやった感はある。
ここから流れの中でアイディア・変化を出せたり、あと少しのところを決め切れる選手が出てくれば試合は違う展開になったはずだが……
安東のポケット攻略や下川の直接ゴールに吸い込まれそうな内巻のクロスなど惜しいシーンはありながらも結果に結びつけることはできなかった。
・届いたシュート2はどちらもCK
対して守備。相手の攻撃はほとんどが右サイドからで、萱沼や佐藤(碧)が右で起点を作って2列目やSBがその空いたスペースを使って攻略しようというのが露骨に見えたのが印象的だった。
八戸の山田からはコメントで
と話しているので不慣れな宮部・住田サイドを意図的に狙ってきていたのかもしれない。実際に山雅の左の縦ずれによる押し出しやマークの受け渡しは試し試し感があり、右(下川・外山)に比べると迷いが見えていた。2人ともこのポジションは主戦場ではないものの、今年のレギュラー争いを制するには重要な要素。これからさらなるレベルアップが求められるかもしれない。
しかし、シュート9本のうちの3本の枠内シュートの内訳は1本はDFにブロックされたミドル、あとの2本はいずれもCKからのCB赤松のヘディングだった。
前回対戦時は赤松をマークしていた常田が不在だった上、前回はいなかった186cmの長身・藤井が相手に加わっていたため、中ではほぼほぼ全てのマークで高さで上回られている形に。
1本目、2本目ともに弾道は緩いボールで放られていたので、こちらの高さがなく、GKが出てこないのを見抜かれてシンプルな高さ勝負を挑まれたように感じる。
・苦悩が見えたベンチワーク
失点後には浜崎・田中(想)に代えて高さのある野々村・エース横山を投入。失点は57分でまだ30分以上は時間が残されていたが、3分後にすぐ投入とかなり緊急性を感じさせる交代となった。
HTにも小松から榎本への交代で1枚カードを切っており、ここでFW2枚含む3枚の交代カードを使うのはかなりイレギュラーな側面は強そう。本来であればまずは無失点でゲームを終えたかったはずだが、そうも言えなくなったので高さを補いつつ、下川を1列前に上げ、外山を本来の左サイドにシフトする攻撃を重視した布陣へと変更する。
さらに69分には佐藤に代えて山本(龍)、80分に安東に代えて稲福と中盤をそれぞれ変更。
山本(龍)がカットインから強烈な左足のミドルを放ったシーンなどゴール前を固める相手に対して有効なシュートもあったが、肝心のクロスからの攻撃では上げるまではいくものの、折り返しがずれたり、枠に飛ばせなかったりとなかなか有効打を打ちだせず。
さらに八戸も75分からはCBの廣瀬を投入し、中央を固めにかかる。
そして、フレッシュな2トップに前プレとカウンターは全て任せ、8人で自陣を固める方にシフト。
山雅としては敵陣中央が固められ、下川外山がまずは低い位置で起点にならなければいけない状況になっていたのはなかなか難しかった。
この状況を打破すべく、前回対戦のように4バックにしなかったのか、できなかったのかはこの状況で定かではないが、3バックで得点を取りに行く場合、中央の選手は極力ボックス内かその付近に残し、左右CBの追い越しで攻撃に厚みを加えに行くというのが基本形になる(最近、横山をサイドに流して勝負させるパターンも増えてきているが……)
この日も失点以降はそのキーとなる左右CB、野々村はオーバーラップ、宮部はインナーラップを果敢に繰り返した。
前線は自陣をがっちり固めてきた八戸DFにマークをつかれていたので、後ろから選手が攻めあがる狙い自体は理にかなっており、外山-宮部、下川-野々村のエリアの棲み分けも悪くなかった。だが、右の野々村、この日は左だった宮部もまだ攻撃参加にはぎこちなさはある。
大抵はボールを持っていない選手は味方の囮になるだけで、結局それをフリにして、ボールを持っている選手が自分でクロスをあげるという攻撃がほとんどだったのが"単発感"に繋がっていたと思う。
後ろから攻めあがる意識は上がってきているのは戦術が浸透してきつつある証拠であるが、その次のステップとして、その質を上げて効果的なサポートができるかがこの単発感を打破するポイントとなりそう。
■できることをやっていく
しかし、得点には繋がらなかったが違いを見せるような攻撃も何個かあった。特にアイディアと連携が光った攻撃が見られたのは84分。
外山が宮部からボールを受けたところで榎本が縦に流れてボランチの1枚を引き付けるとすかさず広がったボランチ間で住田がボールを要求。外山からボールが来るとこれをスルー、横山のレイオフ(縦パスを受けた選手がワンタッチで味方に落として前向きの選手を作るプレー)を受けてCBを置き去りにしてシュートに持ち込んだ。無回転気味のシュートは枠を外れていったが、シュートまでのの過程は今年のテーマでもある"縦選択"と"追い越す動き"が良く表れたこの日屈指の好プレーだったように思う。
先ほども触れたが、山本(龍)のカットインからのミドルも同じレフティーの住田とはまた違う、彼なりの持ち味を生かした見どころのあるシュートだった。
ただ、結果は及ばず0-1で敗戦。積み上げてきた4連勝はここで途絶え、首位浮上の絶好のチャンスは逃してしまった事実は消えることはない。
それでもまだ挽回のチャンスは残されている。
この試合もただ何もできず、何の収穫もなく敗戦したわけではなく、新たな若い力が加わり、普段出場機会の少ない選手も多く出場。彼らが持ち味を見せたシーンもいくつかあった。ここを乗り越えることができれば、既存の主力に今日のメンバーを加えてさらに分厚く、強固な集団になれるはず。
来週いわきとの直接対決が巡ってくることすら"再び首位浮上できるチャンス"と捉え、「ここさえ乗り越えれば一気に昇格が見えてくる」と割り切って前を向いていくしかない。
1つの敗戦で下を向くことなく、強い気持ちでこの理不尽を乗り越えつつ、最後に一番上に立てるように後半戦も戦い続けよう。
END