鳥取戦レビュー~"カメレオン"の真骨頂~
横山を欠いた中での前節・福島戦。前半戦でも苦戦した相手で今月唯一のアウェイ戦、その予想通り苦しい試合となったが、久々の先発となった小松が起点となって先制点を奪うなどこれまでとは違ったチームの持ち味を発揮。
この難敵を見事撃破して、今節は好調のガイナーレ鳥取。
前半戦の苦いドローや常田・外山の攻撃の中心となっている左サイドのユニットが揃って出場停止など不安材料も多い中での試合だった。
ただ今年のチームはピンチとチャンスは紙一重、代わりに入る新しい選手・その選手の特徴を踏まえた新たな攻撃パターンを試すチャンスにもなっている。この試合でも見られたチームの変化や個々成長を中心にこの試合を振り返っていく。
<メンバー>
・松本山雅
4連勝中で3位につける山雅だったが、ここにきて主力の負傷と出場停止が続出。今節出れない常田、外山に代わって橋内、中山がリーグ戦初先発。中山は山雅での初の先発となった。
配置では普段は右サイドに入る下川、野々村が揃って左サイドに移動。中央には橋内が入り、右サイドに大野、中山が並ぶ格好に。
控えには住田、TMで結果を残したTPJが久々のメンバー入り。
・ガイナーレ鳥取
愛媛には2-7と大敗を喫したものの、その後の直近4戦では3勝1分け。10得点2失点と攻守で良い循環を作れていた鳥取。
メンバーは高尾、石井に代わって、去年・一昨年のチーム得点王の田口、世瀬とともに去年からレギュラーを務める新井が先発に復帰。前節はボランチだった文仁柱は左SBに回った。
<記録>
・ゴール数(34)
10:横山
6:外山
5:小松
3:住田、常田、榎本
2:ルカオ
1:菊井、宮部、下川
・アシスト数(22)
4:外山
3:菊井
2:常田、佐藤、ルカオ、下川
1:住田、濱名、ビクトル、小松、横山、野々村、浜崎
・累積(42)
4:パウリーニョ<1>、住田<1>、外山<1>、常田<1>
3:菊井
2:村越、佐藤、前、榎本、大野、宮部、横山、ルカオ
1:米原、浜崎、安東<1>、小松、野々村
<総評>
■今年の真骨頂を見せた入り
・ぶらさない"状態の良い選手"の積極起用
愛媛戦でエース・横山が離脱した中で新たな強みを発揮し、なんとかウノゼロ勝利を収めた福島戦。ようやく新たな戦い方の目途が立ったかと思ったところで、次は常田・外山がダブルで累積で出場停止。去年から攻撃のストロングポイントとなっていた左の中心人物たちの同時欠場をどう乗り切るかが山雅の最大のポイントとなっていた。
前節途中交代をしている下川の状態も不透明で、システム変更も含め、あらゆる可能性が考えられたが(システム変更は勝手に考えていただけかもしれないが)、結局システムはいじらず。
ここ最近途中から見せ場を作り、存在感を増していた中山を右WBで起用。「前所属の甲府であのポジションをやっていたというのが決断の理由」と試合後の監督コメントでは話していたが、リーグ戦でのスタートからの起用は初。山雅と甲府ではWBのタスクは異なるだけではなく、このピリピリした状況の中でも状態のいい選手はポジション関係なく試していくという姿勢は開幕から崩していないというのが伝わる起用だった。
また、この試合ではTPJも愛媛戦以来のベンチ入り。戦術やゲームプラン的な意味では榎本・田中(想)・TPJと2トップ要員の3人をベンチに入れるのはデメリットも大きいのは理解していたはずだが、勝ち点を落とせないという現実と付き合いながらも調子の良い選手にチャンスを与えるというのは今のチームらしい選択と言える。
さらにこれとセットで行う必要があるのが「選手に応じた柔軟なタスクの変化」。例えば、横山の代わりの選手を探すのであれば小松ではなく、田中(想)やTPJの方が近いし、外山(下川)の代わりにも中山は選ばれないはず。ただ"最低限の守備の線引きはありつつ、それ以外は「型」にハメない方針"によって今シーズンここまでは良い循環が生み出されている。
・主導権を握った立ち位置の利
そして、試合の中でもこの起用のメリットもデメリットもある。
山雅の選手たちがどのような並びで、どのような組み立てをしてくるのかは相手は掴みづらく、相手は入りから山雅の保持に対してうまくハメられずにいた(自分たちも練習でやったこと以上はピッチでやってみないとわからないデメリットもある、前節鳥取戦などがまさにそのデメリットが出た)。
特に常田・外山の不在で不安視されていた左サイドは攻撃の起点として機能。本職の下川はもちろん、慣れないポジションとなった野々村も積極的に攻め上がり、厚みを生み出す。
前回のアウェイ対戦時は4バックスタートでアンカーを下して後ろは3枚の形にし、左から前進しようとしたが、利き足や立ち位置の問題で相手をうまくずらすことができず。榎本の右サイドからの前進を余儀なくされた⇩
また3バック時も常田以外の選手が左に入る時には利き足の関係もあり、それほど強気なポジショニングを取れず。相手の嫌がるポジショニングよりも回すのに安全なポジショニングを取ることが多かった⇩
だが、この試合の前半では野々村が前節の右サイドに入っていた時と同様にラインギリギリにポジションを取る。さらに橋内が左寄りにポジションを取ることで、野々村を高い位置に押し出し、"SBの守備範囲ともSHの守備範囲ともいえないポジション"に位置取る。
9分48秒~のシーンも野々村が高い位置を取ったことでSHとSBを同時に惑わせ、SBの裏にルカオが抜けるスペースを作りだした。
積極的にプレスをかけにいく鳥取は本来SHも前線までプレスをかけにいくのが基本だが、野々村が高い位置を取ることでSHが前に出ていくのが難しくなり、下げられてしまったことで山雅の攻撃を受ける格好になってしまう。
・鳥取が"らしさ"を出す前に先制
SHが守備に戻らなければいけなくなることで押し込まれる入りになった鳥取。いつもは2トップ+中に絞る2SHで中央に厚みを作って攻めるが、SHがサイドの守備に追われているため、ネガトラ時も単発気味に攻撃が終わってしまう。その流れから山雅はWBが高い位置を取り、攻撃を組み立てることができるようになる。
開始11分の先制点ではSHが守備に戻らされたことでサイドの野々村のマークに2トップの1角が加わることに。そこで空いたのがアンカーのパウリーニョ。
逆サイドに展開すると見せかけたところでボランチの空けたスペースを狙った菊井に縦パスを差し込む。そこから小松に1タッチで繋いだことで相手のCBは虚を突かれた形に。急いで中を閉めたことで高い位置を取っていた両WBがフリーになり、小松→下川→小松のゴールに繋がった。
最後はダイビングヘッドの泥臭いゴールだったが、相手を押し込んだところで、少ないタッチ数で外→中→外→中と縦に早い攻撃を繰り出し、連携とシステムのズレを突くことで得点をあげる形としてはきれいな崩しによって先制点をゲットする。
その後、66分にもルカオ→小松の落としから菊井がミドルを放つなど前線の3枚やそれ+αでの崩しからシュートまで繋がるシーンは増えている。
その中心に小松がいたことを考えると、前線のキャラクターや組み合わせによる部分が大きいが、前節に続いて横山がいない時なりの良さを出せているのは良い傾向である。ここに彼が帰ってきたときにどのような化学反応が生まれるのか、さらなる相乗効果が見られるとなお面白い。
■鳥取は不完全燃焼の試合に……
・金監督のスタイルを体現できず
一方、好調を維持していた鳥取にとっては序盤の先制点、そしてミスからの失点が重くのしかかる結果となってしまった。7試合複数得点が続いていた攻撃面もこの試合ではルカオの事故的なオウンゴールのみ。
一番可能性のあった惜しくもポストに阻まれてしまったミドルも崩した形からではなかったので、ミスの起こった守備面よりも攻撃面/保持面で不本意な試合となってしまったのは間違いない。その低調な攻撃からか、2点をひっくり返すのは厳しいと見てか、HTにはSBを2枚替え。
実際に監督コメントでも
と、金監督も攻撃面で積極性・精彩が欠けていたことを言及している。
前節、福島の服部監督も述べていたが、対山雅で先制されるとやりづらさが一気に増してしまうというのは相手の共通認識になりつつある。サポ視点ではあのまま両WBが高い位置を取ることで2点3点と追加点を狙っていきたい前半だったが、より相手の嫌がることをしていくのであればある程度相手に持たせてカウンターを中心に切り替える方がより嫌らしい展開であり、山雅がこの順位にいられる要因ともいえるのだろう。
・試合中に出てきた課題
ただ前半戦は鳥取の攻撃の形に苦労するシーンも。
山雅両WBは高い位置を取って鳥取のSHをマークしつつ、SBにけん制をかけられるようにしていたが、実際にSBにボールが出てプレスに行くとSHを受け渡せる人がいない問題が⇩
右でも早い時間帯には田村に食いつきすぎた中山の背後を攻めあがってきたSBに突かれるなどピンチのシーンもあった。このあたりは中山自身のWB経験の少なさもあると思うが、SHが中に入ってくる相手の保持の形と互いにズレがあったのでチームとして修正が必要だった。
途中からは橋内が左右の野々村・大野を押し出し、WBとHVの役割を明確化。後ろが数的同意になるのでそれをカバーする橋内、裏へのボールをケアしていたビクトルのタスクは多くなってしまったが、そこはさすがの対応を見せて流れの中からは無失点で防いで見せた。
(※余談だが、この修正によってWBがより高い位置にプレスにいけるようになり、さっきまで高い位置を取ることで脅威になっていたSBの魚里が下がってくるようにCBから注意されていたよう)
その後もHTでの2枚替えやドリブラー・安藤の投入などで打開を図るも明確な打開策はピッチ内外で見い出せず。
一方、山雅は崩された形はほぼなかったが、ラインコントロールをしていた橋内が69分に負傷交代のピンチも。これもあってこの時間までの強気なライン設定、縦ズレ・横ズレができなくなってしまったが、1点差のリードは見事クローズ。代わりに入った宮部、この交代によって急遽フル出場することになった中山らが不測の事態にも柔軟に対応できた。
■ホーム続きの9月、有終の美を飾れるか
これで山雅は今季最大の5連勝。
北九州戦後に「ここでビックウェーブを巻き起こしていきたい」と話していたが、勝ち星的にはこの上ない結果を得ることができた。
失点もこの5試合で2失点。内訳もFKの折り返しとオウンゴール。
さらに個人的には物足りないと話していた前線の得点も3戦で4得点、しかもチーム得点王の横山以外のFWの得点も増えてきたのは喜ばしい。
首位を争ういわきの連勝も5で止まり、リーグ全体での最大連勝記録6(富山・藤枝)にもリーチをかける状況。
結果だけではなく、内容も今シーズンで一番良い期間を過ごしている中で迎える次節の相手は現在4試合勝ちのない最下位・YS横浜。またホームで試合ができるというのも含め、客観的にみると6連勝にむけてこの上ないシチュエーションと言っても過言ではない。
ただこうした状況こそ、何かが起こるのがサッカーでもある。名波監督は今シーズン、こうした相手に隙を見せる行為を最も嫌い、指摘してきているがそれでも「何か」は起こりうる。結果も内容もここで停滞させないよう、自分たちで良い試合を作っていけるかが試される試合となるだろう。
また、試合展開的には無失点の時間が長くなればなるほど相手に勇気を与え、こちらには焦りが出るもの。メンタル的には不利になってしまうので、できれば早めに先制点を取って、相手の気持ちを折りにかかりたいところ。
次節もしっかりと勝利し、6連勝を飾って静岡連戦へと進んでいきたい。
END