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北九州戦レビュー~目指す場所への執念~
<スタメン>
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・松本山雅
山雅はスタメンの変更はなし。前節久々の出場だったビクトルは2戦連続で先発。長野戦以降、ボランチより前は4戦連続同じ組み合わせに。
ベンチは国友→滝の変更のみ。
・ギラヴァンツ北九州
北九州は左SBの前田に代わって坂本が5試合ぶり、2トップの1角の前川に代わってルーキーの岡野が2試合ぶりの先発に。
ベンチには前回対戦で得点を挙げたSB乾、前線の中山、平山が新たに入り、攻撃的な選手が厚めの編成に。
<記録>
・ゴール(50)
19:小松
6:菊井、村越
3:滝、野々村
2:パウリーニョ、鈴木、野澤(、OG)
1:榎本、山本、渡邉、藤谷、山口
・アシスト(34)
10:菊井
4:小松
3:下川、常田
2:山本、滝、米原、渡邉
1:鈴木、野々村、榎本、住田、村越、安永
・警告・退場(38・2)
7:菊井※
5:安永※
4:野々村※、小松※
3:米原
2:山本、パウリーニョ、滝、藤谷、常田
1:小松、住田、榎本、下川、喜山、渡邉、安東、村山、村越※(武石C※)
<総括>
■戦略の北九州、個を生かす山雅
・固まってきたサイドの組み合わせ
前節相模原に勝利し、久々の連勝を飾った山雅。決定打に欠けていたWGの人選も山口の加入で定まってきており、SBでは欠かせない存在だった藤谷、下川に続いてここ最近は龍平も台頭。村越ー藤谷の右サイド、山口ー龍平の左サイドの役割分担も明確になりつつある。
左サイドは山口と龍平でレーンを使い分けながら、時にはそこに菊井も交えて細かくパス交換を行い、龍平の左足でのクロスや山口のカットインなど各々の強みを細かな連携の中で生かしつつ、チャンスを創出。一方、右サイドは村越が中に入っていることが多く、大外は藤谷の独壇場。細かな崩しなどは行わず、アイソレーションで縦突破の勝負をさせるようなシーンが目立つ。菊井や安永が右にフォローに来るときも足元よりもスペースへのランを行うなど全体的に大味な攻撃が多い。
基本はクロス攻撃なのは変わりはないが、夏場までよりも(属人的な要素が強いのは否めないが)クロスやそこに至る精度は良くなってきており、この試合でも勝敗を分けたのは龍平・山口のパス交換から上質なクロスが上がってきたことでのオウンゴールだった。もちろん自分たちで決め切れるのが一番だが、中の質に頼りすぎない、1点もののクロスが何本も上がっていたことはこの試合の好材料だったと感じる。
・警戒・対策されていた左サイド
ただ内容面だけでいうと、前半は個で上回る山雅に対して北九州の対策・戦略が上回っていた。
山雅の保持に対する北九州の非保持はこの通り
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⇧山雅のビルドアップに対しては2トップのハードワーク、もしくは岡田が1列前まで上がることで野々村の右足を消し、SBの藤谷へ展開させないようにケア。左サイドへ誘導して密集を作る北九州の狙いにまんまと乗せられていた。
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⇧龍平が貰ってからは①持ち運べば機動力のある野瀬が二度追いで対応、②山口には対人に優れた村松がマンマーク気味で潰しに来て、時には永野と2枚でスペースを消しに来る。
その対応をした場合、要注意人物の小松のマークが薄くなって、その周りにいる菊井とのコンビネーションが脅威になるので他のチームはなかなかこのやり方ができないが、③小松へは身体能力の高いミケルアグが徹底マーク。裏抜けや空中戦も自由にさせてもらえない時間が続いた。
全体を通して見た時に"個の優位性"では上回っていた山雅だったが、このように苦戦を強いられてしまったのは、相手にうまく誘導され、北九州の選手の特徴が生かせるフィールドで勝負をさせられていたという要因は大きそう……。
それでもその分マークが緩かった菊井にうまくボールが入ったり、潰しに来るのを逆手に取ってファールを貰ったりするシーンも少なくなく、北九州目線ではハマってるのにそこで奪いきれない、もったいないシーンも多かった。
前半優位に進めて多くのチャンスを作り出したのは北九州からすると上々の出来だったが、結果的にはビクトルの好セーブもあって、0-0で前半を折り返すことができたのが山雅のウノゼロ勝利に繋がったと言える。
■試練は突然に……
・試合を決めた"狙いのある事故"
先ほども書いたように後半になると早々に試合が動く。
2対2の局面で、山口、龍平のパス回しから極上のクロスを上げるとこれを野々村が触ってオウンゴールを生む。
--後半、セットプレーの流れで自身のクロスからオウンゴールが生まれました。
(蹴った)ボールは良かったと思うし、シンプルにああいうところに入れるから事故が起きると思っています。最初に(蹴る前に)相手が足を出してくるのを誘っていたので、ワンテンポ遅く上げたように見えたと思います。外から巻いてあそこに落とすのが狙いでした。
と話すようにシンプルながら、クロスの質の高さで"狙いのある事故"を誘発することに成功する。
ここまで北九州は良い試合をしても先制点が遠いまま5連敗。この試合でもそれまでは良い展開を続けていただけに後半開始早々での失点はメンタル面でも重くのしかかったことだろう。北九州の選手からも
点を取られてから、今度はそれから取りにいかなければいけない状況になりました。けれども、その中で「ゴールしなきゃいけない」、「僕たちも、もうこれ以上負けてはいけない」という焦りから逆に悪循環になってしまったと思います。
というコメントが出ており、実際そこから前半のような攻守の狙いは薄れ、徐々に焦りが見えるようになってきていた。
ベンチも、56分には前線のプレスで目立っていた野瀬・岡野に代えて中山・平山を投入。66分にも坂本・高に代えて乾・エドゥアルドとよりダイナミックな展開を得意とするような攻撃カードを早々に使い切る。
交代カードは比較的早めに切る山雅だが、1度目の交代カードを使う前に北九州はすでに4枚のカードを消費。いかに展開を急いでいたのかもここからも伝わってきた。
ようやく1度目の交代カードを切った72分には山口・村越に代えて野澤・滝を入れ、サイドのアップダウンを強化。逃げ切り体制をより盤石なものに近づけていく。
・危惧していたキーマンの離脱
だが、75分あたりの山雅のビックチャンスでアクシデントが発生。
クロスを上げた際にバランスを崩した菊井が肩を痛めて負傷退場。フル出場中の常田に次ぐ出場時間を誇り、今シーズンの約96%はフィールドに立っている絶対的な主力をここで欠くこととなる。
この試合では代わりのトップ下として渡邊を投入。逃げ切り体制に入ったこともあって周りのフォローも十分ではなく、攻撃面では見せ場自体が少なかったが、守備面ではスタートから出ていた小松の分まで精力的に動き回って運動量をカバー。
87分には安永、藤谷に代えて、橋内、住田を投入して3バックにシフト。
ハシくん(橋内 優也)とスミ(住田 将)が入ったタイミングでフォーメーションも変わって、そこからはもうゼロで終わらせようというのがベンチの合図だったと思います。それがうまくいきました。
とのコメントにも出ているように5バックで後ろの枚数を増やしたのに加えて、前線にボールが入ってもコーナーフラッグ付近で時間を稼ぐなど本格的に逃げ切り体制に入る。
一方、北九州はベンチに力のある選手を残していたこともあって個での勝負での差は埋まってきていたが前線の連携などに課題を残しており、チームとしては停滞。
このまま1-0で試合を終えることに。2位鹿児島との得失点差はかなりの開きがあって"最後まで2点目を狙いに行く選択肢も"十分に考えられる展開だったが、霜田体制で始まった当初からは考えられないような割り切り方で1点を死守し、ある意味では「逆転昇格」に向けての腹の括りも感じるような終盤だった。
■一発正解が求められる福島戦
・攻撃の2枚看板の穴はどう埋める⁉
久々の連勝と他会場の結果もあって順位は5位に浮上。2位鹿児島との勝ち点差も6まで縮まった。
だが、山雅にとってははっきりとした懸念材料も。
この試合で4枚目の警告を貰ったエースの小松が次節累積で出場停止。先ほど菊井のデータを紹介したが、小松も常田・菊井に続いて3位の出場時間(約94%)。
先日、菊井の全治4週間の離脱も発表されたので次節・福島戦はこの2枚を同時に欠くことになる。
代役としての筆頭は鈴木国友。
この試合ではベンチ外だったがこれまでCF・トップ下の両方で先発しており、セカンドチョイスとしての時間は最も長い。前回の小松欠場時にもCFとして起用されているのでどちらで使われるかは読めないが、恐らくどちらか1角は彼になるのではないか。
続いて候補になってくるのが渡邉千真。
この試合でも実際に菊井の代わりとして投入されてトップ下(ほぼ2トップ?)としてプレー。国友以外でこのポジションで先発経験があるのは渡邉のみとなる。懸念点としては6月の頭の12節から先発から遠のいていることか……。
さらに他ポジションで出場時間を得ている選手をスライドさせるパターンも。具体的に名前を挙げると他チームではこのポジションを務めていた山口、滝、國分らはこのポジションへの慣れはあるだろう。純粋にここ最近の序列で並べるのであれば山口をトップ下に入れてサイドに野澤を入れるパターンになってくる。
これまでの傾向からすると可能性は薄いかもしれないが……これまでメンバーにも入れていなかった選手の抜擢も「選択肢」としてはある。今年はWGで起用されている榎本、序盤はベンチ入りすることもあった想来、最終兵器のルーカスヒアン、大卒の新井や濱名も絡んでくると面白い。
意外と(?)多くの選択肢がある中でどのような準備・選択をしてくるかは注目ポイントであり、今年のラストを左右する大きな分かれ道となる。
・噛み合わないシステム、高い位置からプレスをかけられるか
続いて対福島に焦点を当てる。
前回対戦では下川が上げたクロスに対して、小松が相手の頭上からヘディングで叩きこんで先制したものの、その後はプレスがうまくハマらず徐々に福島ペースに。
そこから前半のうちに同点に追いつかれると、終盤には途中から入った長野や樋口が存在感を見せて猛攻。最後はそこから得たセットプレーの流れから逆転弾を喫した。
得点数ワースト4位と得点力では苦戦している福島だが、ドリブル数やパス数は上位。特に3バックやボランチでのパス数は多く、あえて深い位置から細かくパス交換を行って相手のプレスを剥がしたところでシャドーが受けて運んだり、WBを生かして幅を取った攻撃を仕掛けるのが得意なパターン。今年の山雅にとっては「苦戦しがちなタイプ」の相手となる。
前節はFC大阪のハイプレスによってミスが生まれ、決勝点を献上したように3バックの繋ぎをうまく限定して奪うことができれば大チャンスが期待できるが、相手の深い位置からのビルドアップに対して、「普段と違うメンバーでしっかりと限定を行って、コンパクトな陣形を保ちながら高い位置から圧力をかけられるか?」が大きなキーポイントとなる。
一方で、全体的に高さの無さがネックになることが多く、前節のスタメンでは大武(189㎝)を除いたFP全員が170cm台。それほどライン設定が高くないこともあって、最終ラインがシンプルな競り合いで競り負けたり、そのこぼれ球を拾われたりというシーンが目立つ。どのようなメンバーを並べるかにもよるがシンプルな高さ勝負に持ち込む前提で戦略を立てていくのも1つの手かもしれない。
特にここ最近は流れの中からあまりゴールが取れていない分、セットプレーの流れからのゴールは増加。ここも菊井がいなくなるのは痛手になってきそうだが、山口を中心に代役の活躍に期待したい。
逆転昇格にはとにかく勝ち点3を積み続け、周りが停滞するのを待つしかない状況。理想とは違う形、勝ち方であっても逆転昇格に向けてなりふり構わず戦っていくという意思は改めて強く感じた試合だった。チーム作りの上では遠回りでもこの道を選んだ以上、何としてでもその分の旨味を掴んで、自分たちの選択を正解にしていきたい。
END