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藤枝戦レビュー~愚直に 謙虚に 強かに~
最悪の試合から1週間。
システムやコンディションの面よりもメンタル面に課題を感じた1戦だったので、1週間でなんとかなる問題、しなければいけない問題とは思っていたが、それでも前節は福島から6得点をあげた藤枝が相手。それ以前も岐阜から4得点、いわきから2得点、沼津から3得点をあげており、調子に乗らせると止まらないチームなので、特に守備面では真価が問われる1戦だった。
ただ、終わってみれば2-0の完封勝ち。天候は悪く、決して良いピッチコンディションとは言えない中で、スタジアムのサポーターが良い雰囲気を作り、選手・スタッフ陣がしっかりと自分たちのやるべきことをやりきった(裏を返せば前節がますます悔やまれるが……)
名波監督も「ここが一番苦しい時期」と位置付けていたように、エースの横山が代表で不在、パウリーニョや米原、浜崎ら同ポジションに怪我人が続出していた期間もリーグ戦は2勝1分けで乗り切ったのは及第点。試合内容では伸びしろがある中でも、試合ごとに新たな引き出しが増えており、良い積み上げができているのではないか。
まだまだ一息ついたり、満足できるような順位やクオリティではないが、今の戦力に横山、怪我人が加わったら次はどのような戦い方になっていくのか?そんな期待感が持てるようなシーズンをこの調子で続けていきたい。
<両者のフォーメーション>
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・松本山雅
不本意な形で終わった鳥取戦からは3名を変更。宮部・佐藤・榎本→常田・住田・田中パウロ淳一(以下、TPJ)。システムは433から442に。
GKはビクトル、最終ラインは宮部の位置に常田が入り、左から外山、常田、大野、下川の並びでスタート。
中盤は好調の前と安東のコンビ。左には菊井、右には住田とルーキーコンビがSHに。鳥取戦では欠場していた住田は先発復帰となった。
2トップは前節決定機を外して悔しい思いをしたであろう小松、そして天皇杯で結果を残してきたTPJがついにメンバー入りを果たし、いきなりリーグ戦初スタメンを飾った。
・藤枝MYFC
消化不良のまま終わった山雅とは対照的に前節福島相手に6-0大勝した藤枝はスタメンは変わらず。
<記録>
・ゴール数
6:横山
4:小松
3:外山
2:住田、榎本
1:常田、菊井
・アシスト数
2:常田、菊井
1:ルカオ、佐藤、住田、濱名、ビクトル、外山
・累積
2:村越、佐藤、前、パウリーニョ、菊井
1:米原、住田、浜崎、宮部、安東、外山、榎本
<戦評>
■自らの良さを取り戻す最初の戦い
・スタメン考察は完璧と思ったが…
並びや戦い方ははっきりしている藤枝に対して、前節は初めて4123をお披露目、今日のメンバーのまま352、3421にすることも可能だったので、相変わらずスタメン発表時に並びが掴めない山雅。
個人的には、TPJが2トップの右に入る可能性が高いと思っていたため、後ろは守備も考えて右に住田、左に菊井と、いつもよりは自信満々を持ってメンバーを並べることができ、試合が始まった直後は"難解なパズルを完成させたかのような優越感"にほんの少しだけ浸っていたが、それすらも「過程の段階で読み違いがあった」ことが後々分かる(詳しくは後述)。もしかするとスタメン発表を見ただけで自信満々にメンバーを並べられるのは今日で最後になるかもしれない。そんなことも密かに感じた。
・取り戻したシンプルな入り
序盤は相手が山雅の出方を掴み切っていなかったこともあり、山雅が攻勢に出る。山雅が4-4-2の場合、"システムの噛み合わせ自体は互いに良くないこと"や"藤枝のボランチが積極的に前に出てくること"もあり、「ロングボールからのセカンド回収→二次攻撃」がハマる。
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図のように小松の周りをTPJが衛星役になることもあれば、TPJに直接ロングボールを当てることもあったが、小松はもちろん、それほどそういうプレーを得意としていないTPJの方でもボールが収まっていて、ターンを決めていたこともあったので状態の良さを感じられた。
そうして、「菊井住田が中に絞ってセカンドボールを拾い、その間に大外のSBがサイドを駆け上がり、シンプルにクロス」といういつも通りのやり方で、クロスまでの再現性のある形を何度か作る。
至ってシンプルで、その分相手も構えた状態でクロスには対応できていたが、前節の立ち上がりを踏まえると、まずは「シンプルに、ゴール方向を意識して」という自分たちのやってきた攻撃に立ち返るという意図は感じた。
・理想と現実とそこからの切り替え
しかし、藤枝もそれに慣れてくると保持の安定感を見せ始め、GKを使いながら徐々に自分たちのペースを取り戻していく。
序盤の勢いをそのままに前線でボールを奪いたい山雅だったが、11人目のFPとなるレフティーGK内山の存在と相手の5トップ化により、前線から囲い込むのが難しくなり始める。
奪われたらゴールががら空きになるリスクをかけている分、藤枝の自陣での数的優位は絶対的なのでシステム的にも噛み合わない山雅は撤退を選択。しかし、下がり始めると生きてくるのが5トップになる前線。
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「3-4-2-1」→「4-1-5」のビルドアップは「4-4-2殺し」ともいわれるミシャ式を連想させるかのような前目に人数をかけた形で、”局面で数的優位を作ってフリック”というのもそれっぽさはあった。
山雅としては最終ライン4枚のスライドでこの5枚の前線に対応するのが理想だったが、そこは1つ飛ばしのパスなどJ3でもトップレベルのスピードと精度を誇る藤枝。ドリブルが得意なWBの榎本・久保に対して後手を踏むと一発で縦に突破されてしまうというシーンが出てくるようになってくる。
それをさせないためにSHが下がり気味になったり、ボランチが最終ラインのケアをしたりと試行錯誤は見られたが、藤枝はそれに乗じてさらに前にリスクをかけてくるチームなので2トップの守備範囲がどんどん広げられるように……。
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カウンターをしようにも守備で前線が走らされてうまく持ち込めず、藤枝の得意パターンが見え始めてきたところで、山雅ベンチが大きな決断を下す。
■成熟を見せ始めたシステム変更
・2つ目、3つ目の手を持つ利点
具体的に動いたのは25分あたり。最終ラインが大きく幅を取り、秋山が想定以上に前線に顔を出してきたということで山雅は布陣を5バックに変更。
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上図のように並びを変えることでこれまでのシステムのズレが生まれにくく、藤枝の前線のマークも明確になった。
もちろん最初から3412にしていた場合はズレは起きにくくなっていたが、相手の出方も変わってくるはずで秋山、小笠原がもう少し低い位置(SBのあたり)で起点となるような攻撃を行っていたはず。
なので「4バックで入ったのが誤りで5バックが正解」というわけではなく、「2つ目、3つ目の手を仕込めていて、かつそれを早めに出せた」ことがこの日の流れを変えたのではないかと思う。
前節のレビューで、采配の面では「(結果的には)4123を引き延ばしすぎた」というのを反省点としてあげたが、それを受けてか「きょうは早く判断しようと自分で決めていたので、迷いなく変えられました(監督コメントより)」と自己反省と修正を加えてきた。
前節、表向きにはしっかりと選手を𠮟責していたが、自分自身にも明確に変化を加えてきたあたりは名波監督らしいと思う。
・強かさが見えた先制点の前後
そして、そこから10分もしないうちに試合は動く。
得点自体はPKからの押し込みだったが、「PK奪取はそれだけゴールに迫り、足を振りぬいた結果」というのもまた前節からの変化を感じられた。
ただ、それまでの流れも実は力任せの縦ポンではない。
少し巻き戻すとPK奪取の流れが始まったのはFKから自陣でビルドアップを開始したところから。
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少し前に4バックから5バックにシステムを変えていた山雅だが、保持時は再び4バックに可変。これに対し、藤枝のマークはまだ明確ではなかった。
住田が最終ラインの左に下り、常田がライン際まで開いたことで外山は1列前に。WBの久保はこれまで通り、大外の選手(ここでは常田)にプレスに行こうとしていたが、それにより背後の外山が浮いた状態に。
山雅のやり方だと外山には小笠原がスライドすることになるが、スライドする前に住田からの裏へのロングボールが来たことで中のカバーに入っており、どちらも外山に付けないという状態になってしまった。
単なる縦ポンのように見えて、実は「システム変更」からの「縦ずれ可変」という今季実践してきたことをシステム変更後もスムーズに行えたことがPK奪取に繋がっている。
先制後はさらに布陣を変更。システムを3421にシステム変更し、前線を3枚にして相手にボールを持たせに行く形にシフト。
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シーズン開幕直後は前線がボールサイドに圧縮することが多かった山雅も、この日は前3枚が動きすぎず、各々が要所を抑えることで相手に縦のボールを刺しこませない。特に小松のカバーシャドーは秀逸で、ほぼ背中の相手を使わせず、相手の最終ラインがコンドゥクシオン(運ぶドリブル)をしてきても間に合うようなポジション取りを愚直に繰り返した。
前線で5枚並べたい藤枝に対して、山雅は後ろ5枚がぴったりと突き、マーカーがポジションを離れても安東や住田が常に足を止めることなく、そのカバーに走りまわる。
先ほど書いたように特に藤枝の5トップ化→フリックはミシャ時代の浦和を彷彿とさせるような対応の難しさはあったが、それに対しても集中力を切らさずに対応し、危ないシーンはごくわずか。
途中、中断時間もあったとはいえ、これだけ持たれても終盤まで交代カードを切ったのは戦術的な理由で入れた宮部のみ。相手よりむしろ迫力を持ってカウンターを行えていたことからも、精神・肉体ともにそれほどストレスなく、守備を行えていたことが分かる。
・いい準備ができていたTPJ
そして、「うまく守備が行われていたので終盤まで交代が行われなかった」というのはTPJも例外ではない。
記事の序盤で「過程での読み違いがあった」と書いたのはまさにこのTPJ。ここ最近は2トップの1角として計算されていたことから「攻撃面は問題なくても守備の面で、藤枝相手にサイド起用されることはないのではないか」と予想していたが、この日は結局、2トップの1角よりもシャドーとしてプレーする時間の方が長かった。こうなってくると次回以降はシャドーやWG起用……なんてことがあっても不思議ではない。
今日は相手の決定機阻止や小松からの絶好のパスを決めきれなかったことで、惜しくも得点することができなかったが、「想像以上に良かった」という意味では守備面の方が今後にむけては明るい材料になったように思う。
次節からは似たようなラインとして計算されているであろう横山が帰ってくるので立場がどうなるかは読めないところだが、彼の不在時に新たなオプションを増やすことができたのは間違いないように思う。
■大一番でしっかりと勝ち点3
・強固になっていく要塞
話を試合に戻す。自陣を固めて奪ったところでカウンターを発動させる山雅に対して、藤枝も早め早めに手を打ってきていた。
57分には土井に変えて、狭いエリアでも仕事ができるファンタジスタ岩渕を投入。61分にはなんとCBを2枚(秋山・小笠原)に替えて、住田の大学の先輩で足元に長けた左CB・鈴木、ガンバでは"ポスト遠藤"と期待されていた中盤の芝本を投入。水本を一枚下げてビルドアップをテコ入れする。
それでもどうにも動かないので、74分には最後のカードとしてWB河上、中盤の鈴木惇に変えてFWの大石を投入し、システムを変えてより攻撃的に攻撃的にカードを切り、山雅が1枚もカードを切らないうちに5枚全ての交代を使いきった。
対して交代も動かないのが山雅。先ほども触れたが、守備固めとして最初に宮部を入れたのが78分。藤枝のチーム得点王・WB久保のサイドに宮部を入れ、大野・常田・住田とともに左の攻撃を徹底的にドリブルをシャットダウン。
84分には榎本・佐藤・山本の3枚を変えて前線を活性化。90+1分に安東に変えて稲福を投入。時折、カウンターで陣地を回復して危なげなく試合を締めた。
・今季を左右したかもしれない試合を制す
ここ5戦、北九州、岐阜、いわき、沼津、福島を相手に負けなし中だった藤枝相手に、「前節は消化不良のままドロー」「負けたら順位が入れ替わる」という簡単ではない立場だったが、複数得点&無失点としっかりと勝ち点3を勝ち取った。
悪天候での中断などもあり、名波監督風に言うと「なかなか経験できない」シチュエーションでの試合で内容・結果ともに良いものにすることができたのでまたひとつ、チームが大きくなるような試合になったのではないだろうか。
そして、次節は怪我人も複数人帰ってきて、横山も代表から戻ってくる中での愛媛戦となる。ここ最近復調気味で、アウェイで長野相手に追いついてドローという悪くない結果を得たということもあるが、相手の状態や順位関係なく、四国のアウェイ戦は今も昔も「鬼門」。コンディション調整も含めて戦いになってくる。できれば今治戦、藤枝戦のように早い時間に先制点を取って楽に試合を進めたい。
また石丸監督を始め、山雅と関わりの深い選手も多い。山雅サポ得なマッチアップも多くあると思うので、そうした戦いの中でぜひとも相手を上回るパフォーマンスを発揮して欲しいところ。
藤枝戦でまたひと段落とならないように、これから先も挑戦者として。いい形で勝ち点3を持ち返りたい。
END