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鳥取戦レビュー~この"最悪"を学びにしよう~
「最悪の試合」
結果としては勝ち点1を取れたので"最悪"はかろうじて免れたが、その言葉がふさわしいような低調な試合となってしまった鳥取戦。これまでも5試合「勝ちを逃した試合」はあったが、そのどれとも違う種類のもどかしさを感じた試合だった。
簡単な試合など1つもないがそれでも「自分たちの驕りによって自分たちで難しくしてしまう」というのは弱いチームがすることであり、これ以降は避けなければならない。これが分岐点となるように今一度チームは自分たちを見つけ直し、サポーター側もこの敗戦からできる限りのことは学んでいきたいと思う。
今回はこれまでの試合の流れに沿ったレビューとは違い、断片的な話にフォーカスして試合を振り返っていく。
<両者のフォーメーション>
・松本山雅
水曜に天皇杯・磐田戦があり、中3日のアウェイ戦となった今節。天皇杯からはスタメン全員変更、前節今治戦からは2名変更となった(常田・住田→安東・佐藤)。変更となった2人は第9節長野戦以来の復帰に。
GKはビクトル。4バックは左から外山・宮部・大野・下川。常田抜きでの4バックはリーグ戦では初めてとなった。
中盤は前節MOMの活躍をした前貴之をアンカーに置き、その前には安東・佐藤が並んだ。
そして、3トップは左から菊井・小松・榎本が並び、山雅がJ参入して以来初の3トップ(多分)となった。
・ガイナーレ鳥取
鳥取は0-2で敗戦となったいわき戦から2人変更。
左SHは怪我で戦列を離れていた快速・田村が初先発となり、右SBはしばらくボランチの知久が務めていたが今節は不在に、魚里が4試合ぶりの先発になった。
<記録>
・ゴール数
6:横山
3:外山
2:小松、住田、榎本
1:常田、菊井
・アシスト数
2:常田、菊井
1:ルカオ、佐藤、住田、濱名、ビクトル
・累積
2:村越、前、パウリーニョ
1:佐藤、米原、住田、浜崎、宮部、安東、菊井
<戦評>
■4123システムは悪手だったのか?
・前節との違い
「山雅が初の4123システムを導入」
(意外と知られていないが)キャンプや練習では試していて、オフのラジオで匂わせていた形とは言え、この試合の先発メンバーからは予想するのが難しく、山雅サポからするとあまりにインパクトの強い"ビックトピックス"だっただろう。
が、突拍子もない、無謀な策だったかと言われるとそれは否。
これまでも住田のSH・WB起用や試合中の下川の右HV大移動、天皇杯での田中想来起用など表にはあまり出ない中で色々仕込んで本番に挑んできているので、蓋を開けてみると……そしてこうして試合を振り返ってみると「意外と大きな変化ではない」というのが見えてくる。
最初に分かりやすく前節後半の初期配置を比較しても
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後ろの枚数を削り、連戦となった住田が不在の代わりに中盤の構成をいじる。これくらいの変化を想定していたのではないか。
では、具体的にどのような意図で4123にしたか。
今年の可変システムは"守備的な発想から来ている"ことから考えても、一番重視していたのは「プレス時」と「ネガトラ時」。
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これまで突かれがちだった「SB問題」の1つの解を今治戦で示したという話を以前レビューでもしたが、鳥取戦ではそこをさらに強化。守備時は4141だったが、WGとIHといった(守備時の)2列目の選手たちが躊躇なく人に行けるような陣形にして相手のボランチ・SBから即時奪回するようなシーンは序盤特に多かった。
そして、そのリスク管理をするのは前。中央に構える典型的なアンカーではなく、あくまで2列目からこぼれた時の掃除役。この日もアンカーというよりは守備のフリーマン的な立ち位置になり、危ないところをいち早く潰しに行くことで輝かしい活躍を見せていた。
ちなみに榎本は本来このポジションの選手ではないが、前節も541ブロックのSH役をやっているので、これに関しては今節突然試した形ではない。
・対鳥取戦での攻撃の狙い
そして、この日、疑問に思った人も多いであろう攻撃面での狙い。
「鳥取はセンターバックにそんなに大きさがないので、小松ひとりで深みをつくれるんじゃないかというところでいくと、菊井にしても佐藤にしてももちろん榎本にしても、背後から出ていったらチャンスがあるんじゃないかと。」
と名波監督も話しているように鳥取のCB長井と石井はサイズの面では176㎝と172cmと高さをウィークポイントとしているので、1トップで時間が作れると想定(自分もここは相手が最も嫌がるマッチアップだと考えていた)。
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今治戦のように①右のシャドーの位置から榎本が小松の背後に向けてダイアゴナルに飛び出して得点を狙うというのがこの配置での1つの狙い。
そして、そのためにどうクロスをあげていくか?②左には佐藤が顔を出して、ハーフスペースの菊井、大外の外山とともに旋回するような狙いが序盤は特に見られた。
また、相手がFW2枚で追ってくるのはこれまでの試合からも分かっていたので③かなり早い時間からアンカーの前が最終ラインまで下りて3枚でゲームを作ることで、相手のFWをおびき寄せ、④442の3ライン間が間延びしやすい鳥取の弱点を炙り出し、裏やボランチ枠を突こうという狙いがあった。
■どこに反省点を置くべきか
・「行ける」という自信が過信に
では、反省すべき点はどこにあるのか。
この試合では違うシステムを試した後、今季最悪の試合になったということで問題点がボカされがちだが、序盤押し込めたのは対鳥取を想定した4123がハマっていたというのが要因の1つとしてあり、それはピッチ内でも手応えがあったはず。攻撃面で自分たちで色気を出すまではシステムの優位性は出せていた。
そこで手応えを感じて、ポジティブにプレーをするのは悪いことではない。ただ、今年のテーマでもある「縦選択」「ゴールに直結するプレー選択」「追い越す動き」はなりを潜め、足元足元で繋いで、名波監督風に言うと「綺麗に崩してやろう」という欲は改めて振り返るまでもなく、画面を通して見えてしまった。
「いつもと違うシステムだから」という意図のズレでもなく、それとは関係ない、どんな相手、システムでも変わらないはずの「根底にあるコンセプトの部分」で明らかに違うことをしてしまっていたというのがこのゲームの大元の問題点だったと感じる。
・誰も左に運べない問題
ただ、「致命的な構造的問題」があったのも見逃せない。
この試合では常田、住田が揃って欠場。米原も怪我で離脱中なので(試合に絡んでいる選手で)後ろから組み立てられる左利きの選手が揃って不在の中での試合だった。
左利きの選手がいないというのは就任当初からビルドアップに取り組んでいた名波監督のサッカー観からはなかなか考えられないような選択だが、今年に関して言えば守備に重きを置いてきた山雅のスタイルに寄せていることがあり、「ビルドアップの利き足の問題」よりも「守備の戦術理解や強度」に重きが置かれているのでこれまでの序列から順当に宮部・大野の組み合わせになったが、これによって保持時に後ろの選手たちがことごとくボールを右に置き、配給も右に集中。
本来描いていた①のフィニッシュの形を作る前に、ボールが来ないので②の流動性も失われていき、クロスをあげるために高い位置を取っていた外山までボールは届かず、左の幅を使えないため相手のズレも生み出せない悪循環に。元々は佐藤が低い位置を取っているので、密集&左の深い位置でクロスをあげる人が誰もいないという状況になってしまう。
本来であれば小松の裏の榎本、もしくはSHの裏の外山にボールを送りたいところだが……⇩
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ボールが来ないので外山や菊井が下りてくることに。ただその分、敵の視界に入りやすくなるので、相手も同時に近づいてきて前に進めない。
逆サイドに行くと、下りてきて起点になるのは得意なタイプな下川がいる点と左よりもスムーズにボールが運ばれてくる点で、右の低い位置を起点にして下りてくる小松や飛び出しの得意な安東、そして逆サイドの菊井までもがハーフスペースに侵入してくる。
ただそれで割を食う形になったのが榎本。右の高い位置を取る選手がいないので中央からどんどんと大外にポジションが追いやられていく。その結果、なぜか右の深い位置でクロッサーと化してしまうのだった。
・流動システムでは起こりうる采配
という点で「4123を選択したこと」自体はそれほど問題もなく、突拍子もない采配ではなく、選手が戸惑っていたとは試合内容・その後のコメントからは感じられなかった。
これまでの試合でも様々な並び・配置を試してきたが、攻守で可変したり、そのポジションでの一般的なタスクとは違う動きをしていたりと「ポジションについての概念はこれまでと違う」というのを念頭に入れていかなければいけないだろう。
「チームが誤った方向に進んでいる時に、風呂敷の広げ方が大胆なこともあってうまくそれを整えることができなかった点」や「(結果を見ると)HTになる前に手を打っておくべきだった点」については監督・スタッフ側に落ち度もあるとは思うが、「カメレオン戦術と言って様々なシステムや組み合わせを試すトライ」や「違うポジションで選手の可能性を広げる起用」はキャンプ時点から行っていることで一貫性は持てているので、今日に向けての思い切ったプラン形成や自分たちの可能性を広げる積極的な采配自体はこれからも続けてほしいし、それがなければ今季のサッカーは成立しなくなるような気がしている。
■まずは自分たちの戦いを見つけ直すことから
こうして後半は思い切ってプランBへと振り切った山雅。ただ天皇杯もあったので対鳥取という点ではそれほど深められてなく、「最悪ではなくなった」ということ止まり。そんな今季最低な試合の中で後半にも大チャンスは訪れたが、それすら不発。それまでのチーム状況が悪かったこともあって時間が経てば経つほど鳥取側が優勢になるのは必然だった。
なんとか勝ち点1を取った試合となったが次節の相手は藤枝。現在5戦負けなしと絶好調で、J3らしい尖り切った癖の強いサッカーをしている強敵との試合となる。
こうなるとどうしても相手に矢印が向きがちだが、まずは何よりも自分たちがキャンプからやってきたこと、自分たちの強みを見つめ直すことが重要になってくる。そうしなければ同じ土俵に立てない。
そして、次から次へとリスクをかけて前線に人数を送り込んでくる藤枝に対して、ネガティブなスタンスで受けに回ってしまうと相手の思う壺。絶対に気を引き締めないといけない中ではあるが「勝たないといけない」が焦りやネガティブさに傾いてしまう展開は避けたい。
ただ、試合の雰囲気作りについては山雅も特徴的なクラブ。
非常にふわっとしたまとめにはなってしまうが「サッカーはエンターテイメント」という言葉を掲げる須藤監督の率いる藤枝に対して、スタジアムにいるサポーターも含めて山雅のサッカーを楽しめるか、相手に気持ちで負けないような展開を作れるかは精神論ではなく、試合を左右すると考えている。
個人的には藤枝戦ではその点にも着目しつつ、堂々と自分たちのサッカー・スタジアムの雰囲気を見せつけられるような楽しい試合にしていければと思う。
END