今治戦レビュー~断固たる決意を見せ、いざ決戦へ~
<メンバー>
・松本山雅
前節、岐阜を相手に劇的な逆転勝利を飾った山雅はスタメンは2人変更。
DFリーダー大野が1試合で無事復帰してCBの中央に、前節初出場を飾った篠原は引き続き右CBでの先発起用となった。右WBでは宮部に代わって、下川が同様に先発に復帰した。
ベンチは2得点をあげたTPJやルカオ、安東らは変更なし。大野が復帰した分は橋内がメンバー外となった。安東や篠原の復帰によって前線以外のベンチ入り争いもさらに激化しているのがよく表れている。
・FC今治
いわき戦の勝利から4連勝と2位争いになんとか食らいついていたところでYS横浜に痛い敗戦。2位藤枝と勝ち点8差となってしまい、(暫定)4位の山雅との直接対決は逆転昇格を目指すためには実質的にラストチャンス。
そんな中、後半戦だけで6G2A、鹿児島相手にもハットトリックの大活躍をしたインディオがこの試合で復帰即スタメン。同じく後半戦で7得点取っているU-19のエース・千葉、今シーズン2桁得点を記録している中川らと強力な前線を組む。前回対戦と比較するとGK茂木やMF三門がJ2から新加入もスタメンとなっている。
<記録>
・ゴール数(39)
10:横山
6:外山
5:小松
3:住田、常田、榎本、TPJ
2:ルカオ
1:菊井、宮部、下川
・アシスト数(25)
4:外山
3:菊井、ルカオ、常田
2:佐藤、下川
1:住田、濱名、ビクトル、小松、横山、野々村、浜崎、安東
・累積(43)
5:常田<1>
4:パウリーニョ<1>、住田<1>、外山<1>
3:菊井、ルカオ、佐藤、榎本
2:村越、前、大野、宮部、横山、安東<1>
1:米原、浜崎、小松、野々村
<戦評>
■「1戦必勝」が伝わる両者の準備
・場をかき乱したインディオの復帰
スタメン発表時に最も大きなトピックスとなったのが「インディオの復帰」。今年は4-3-3が基本だった今治だが、インディオの欠場を機に千葉・中川を前線に置く4-4-2にシステムを変更。そのため、インディオが戻ってきた今節はDAZNでも4-3-3のシステムが予想されていた。
恐らくチームもインディオが復帰してきた時点で4-3-3を予想していたのではないか。5分もたたないうちに起こった失点シーンも4-3-3であればこのようにインディオが空くこともなく、なんなら佐藤もセカンド対応に回れたはずだが⇩
4-4-2だったことでIHを捕まえる予定だったボランチの周りに誰もいなくなり、CBの持ち運びに対して佐藤が出ていくことに。しかし、ここで裏を取られ、常田が競った後にそのままフリーのインディオに拾われて前向きで仕掛けられる。一時的に常田の前で1VS2の形を作られてしまう⇩
山雅の狙いと起きた経過としては
①ここ最近の前からアグレッシブに行く入り→②横山がGKまでプレスをかけることでCBがフリーに→③システムを掴む前でスライドがうまくいかずセカンド回収に失敗
④常田とインディオの1対1が発生→⑤「インディオは利き足の中切り」という約束事のため、縦に流す→⑥縦に行かせたものの、クロスを上げられて中で中川がフリーに
という流れになってしまった。山雅の狙いと今治の狙いが悪い方に噛み合ってしまう、立ち上がりらしい出会い頭の失点になってしまう。個人的には③もしくはそれが整う前なら②を事前に防ぎたかったような……
・給水前後での修正とデメリット
そして、この試合は「WBがSBに縦ズレを行う」というのを準備してきたようだが、前半はこの"ズレ"から失点したこともあり、前がうまくハマらずWBもなかなか前に行けず。FWがプレスに行くとSBが空いてしまうという時間帯が続く。
普段はこうした場合、このままHTや飲水タイムを待つか放置する場合が多いが、この試合では早々にシステムを変更。小松がシャドーの位置まで下りて、3人で横並びになるような陣形となる。
ただ前線に横山1枚だと今治守備陣相手に裏抜けもくさびも少し難しい。さらに小松も攻撃時にはシャドーの位置にいてボールを捌くシーンが多かったので、守備はハマるようになった一方で「ボールは通るし、コーナーまでは行くものの、シュートを打てる位置に人がいない」という問題はスタッツにも表れているように起こっていた。
このあたりは「まずは守備」というスタンス的な問題やカメレオンの弊害もあると思うが、焦りが見えていた数試合前までと比べるのであれば「後半に巻き返しが望める」が故の地に足のついた戦い方ができているともいえる。
■2試合連続の逆転劇
・今度は山雅がシステム変更で優位に
そして、1点を追う山雅は後半TPJを投入してシステムを変更。
中盤を3枚に厚くして、最初に準備してきた「SBへのWBの縦ずれ」を行えるようにする。CBが先制点と同じようにロングボールを蹴っても山雅の3+3ラインの空中戦&セカンド回収の方が優位性があり、地上戦でもIHとHVの関係性でSHを監視して、SB以降のボールを遮断。名波監督も今治のサッカーのポイントに挙げていた「どこかで縦パスのスイッチを入れてポイントを作って広いエリアに…というサッカー(監督コメントより)」の"ポイント"を作らせなかったのは大きかった。
そして、今度は今治がそのシステム変更を掴み切れてないうちに山雅が同点弾をあげる。前半は2ボランチ1トップ下だったが、後半になって1ボランチ2トップ下気味になったことでTPJが余る結果に。そこで横山に続いてTPJが良い形でドリブルを開始できた。
攻撃で違いを生み出せる菊井を外したのは予想外だったが、佐藤小松横山と相手のDFラインを押し下げたことでSHの山田がTPJの対応をすることに。左足は警戒していたはずだが、TPJの勝負強さと駆け引きが勝った結果に。
・生み出された逆転への方程式(?)
これで前節と同じような時間帯に同点に追いつくことに成功。相手のやりたい攻撃をやらせていなかった分、メンタル面でも優位に立ったのではないかと感じる。
その後はゴール前でのFKを互いに得るなど一進一退の攻防が続く。そして、最初に動いたのは名波監督。63分には小松に代えてルカオを、72分にはパウリーニョ・横山に代えて安東・榎本と攻撃的なカードを続々と投入。今治も67分にインディオから島村、79分に中川から高瀬にバトンタッチして互いに攻撃のスイッチを入れる。
だが、逆転弾はやはり「良い守備」から。
ルカオから奪ったボールを逆サイドに展開したところを佐藤がカット、そのボールをすかさず安東が拾ってサイドに残っていたTPJに展開⇩
そこから今治は前線の高瀬が戻って2人で対応する形を作ったが、TPJはそれを利用して中に侵入。そのフォローに島村が入り、左足を切りに行くもその裏のスペースを安東が突いてポケットに侵入。中の様子をしっかりと確認したうえでルカオにピンポイントでクロスを合わせて逆転弾を演出した。
ボールに直接関わっていた選手はもちろん、「ボックスに入り、4VS3の数的優位の状況を作った逆サイドの選手たち」や「カウンターのきっかけを作り、安東が攻め上がった後も代わりにアンカーの位置にフォローに入った佐藤」ら他の選手たちの働きもあって、ルカオがフリーとなって決定機を仕留めきることができた。
山雅にしては綺麗すぎる崩しだが、「ドリブラーがIHに入ったり、アンカーがボックスに侵入したりとキャラクターの変化による予測不能な動き」や「前に前に人数をかけて相手にエラーを起こさせるフィニッシュ」は今年のチームの色をよく表しているように感じる。
これでこの2試合でTPJが3G、ルカオが1G1A、安東も1Aと途中から投入された選手が大当たり。後半の流れを掌握し、先制された試合をひっくり返すという試合が2試合続いた。単純にシュートが当たっているというのはもちろんのこと、ユニットとして良い関係性が見られているのは好材料。全て先制して「先行逃げ切り」で積み上げた5連勝とはまた違った流れができつつある。
それだけ”前半攻撃が停滞してしまう”のは問題ではあるが、後半組の活躍に刺激を受けて前半から得点を奪っていければ残り4試合も優位に試合を進めていけるのではないかと思う。
・勝負を分けた「利き足への意識」
強力な個の力を持った攻撃陣を擁する2チームとあって、システム変更による錯乱や守備時のダブルチームなどこの大一番に向けての対策・準備が目立ったこの試合。中でも「利き足への意識の徹底っぷり」は勝負を分けたポイントだった。
例えば前半の横山のカットインからのミドル。対応したインディオは横山の一番得意なコースを空けてしまい、得意な形でシュートを打たせてしまった。さらに1点目は山田、2点目は高瀬が、TPJに対して左足でのシュートやドリブルを許してしまい、生まれている。
山雅も1点目はインディオの中を警戒して縦に行かせたところから生まれてしまってしまったが、その後は得意な左足でプレーさせないように中切りやダブルチームを徹底。チームとして意識は統一されており、対面の常田はもちろん、佐藤、外山、菊井もこの対応はしっかりとこの約束事を守れていた。
もちろん、チームによって対策するポイントはそれぞれなので、それだけが全てではないが、この試合ではチームが1週間、準備と落とし込みをして選手が徹底したポイントが勝負を分けることになったように感じる。
■さあ、ダービーへ
今節はいわきは愛媛に勝利したものの、藤枝・鹿児島がともに中位の宮崎・福島に引き分け、山雅との勝ち点差が2差以内に収まった。
泣いても笑っても残り4節……というところで次は信州ダービー。ホームで迎え撃つは同県の長野パルセイロである。今年は天皇杯とリーグ戦で、ホーム&アウェイ1戦ずつ戦って1勝1分け。山雅が勝ち越しているが、どちらの試合も内容としてはインテンシティの高い、激しい身体のぶつかり合いが繰り返されるゲームとなるので、結局この試合もそこの勝負を制することができるか?が勝敗のカギを握るはず。
ここ最近は3313のようなシステムで戦っているが、4-2-3-1や4-3-3など様々なシステムを採用。ただいずれにしろ、CBの乾、ボランチの宮阪、FWの山本がセンターラインに並ぶのが濃厚。前半戦は山本・乾はベンチスタートだったが、今回は山雅にとっては馴染みの深い選手たちが軸として出てくるだろう。
なにかを仕掛けてくるのであれば長野側になるが、それに早くアジャストして6試合ぶりの先制点を奪い、優位な雰囲気でゲームを進めていきたいところ。「昇格争い」と「ダービー」で少し毛色の違う試合になるが熱く、そして冷静に、審判にもリスペクトを持ちながら勝ち点3を掴み取りたい。
END