鹿児島戦レビュー~この失敗を繰り返さないために~
2連勝という結果を引っ提げて迎えるホーム開幕戦。
ここまで滑り出しは良かっただけにアルウィンでその勢いを加速させたかったが多くのサポーターの前で久々の勝利を届けることができなかった。アウェイの2戦でも戦術的な拙さはあったのでその点は仕方ないとは思うが、何よりも自分たちが気持ちを新たにし、構え直したはずのファイティングポーズが取れていなかった点は素直に残念だった。
ただまだトライ&エラーの時期である。戦術面も積み上げていけばいいし、メンバー的にもまだまだ打つ手はある。結果は最低限拾っていきながらも続けることや芯を持つことを忘れてはいけない。
特別楽観視することもなく、悲観的になることもなく、最終的に「ここでの失敗があったおかげで良い形で終われたよね」と言えるような試合にしたい。
<両者のフォーメーション>
・松本山雅
山雅は3-5-2とも3-4-2-1とも取れるシステムからスタート。並びについては人によって捉え方が違ってきそうだが、ただ時間とともに3-4-2-1(5-4-1)寄りになっていった。
後ろはGKビクトル、左から下川、大野、宮部の組み合わせ。サイズはないが鹿児島側もそこを突いてくるチームではなく、サイドからの崩しを警戒しての組み合わせだと思われる。大野は今シーズン初出場。
左右WBは外山と前。前は第2節は欠場したが早くも復帰となった。
ボランチは稲福・パウリーニョ。パウリーニョは3試合連続キャプテンとして先発、稲福は念願のプロ初先発となった。
シャドーは左に佐藤、右に菊井。菊井も満を持してプロ初出場に。佐藤は山雅でシャドーとして先発するのは初?となる(はず)。やや見慣れない形にはなるが、2人ともこのポジションは本職に近い選手である。菊井がやや前め、佐藤は3枚いる相手の中盤を監視しながら後ろめでプレーしているのが特徴的だった。
最前線はここ2戦のルカオ・横山の2トップが難しくなり、小松が山雅で初先発に。前線の攻撃の起点としてはもちろん、保持を得意とする鹿児島への守備のスイッチ役としても期待されていたはず。
・鹿児島
先発はここ3戦ほぼ変わらず。右SBの星が先発に復帰。
<記録>
・ゴール数
2:外山、横山
1:小松
・アシスト数
1:常田、菊井、ルカオ、佐藤
・累積
1:佐藤、米原、パウリーニョ、住田
<戦評>
■なぜチームは3バックを選択したのか?
・(本当は)共通している守備の狙い
これまでの4バックとは違って3バックでの戦いになった今節。
中央は相手の3枚の中盤に対し、佐藤が中寄りに入ってボランチをケア。小松は右CBに、菊井は左CBに牽制をかけており、前線から相手を捕まえるためのタスク分担は事前に整理されていたと思う。
後ろも「(前節の)相手のWBにSBが出て一時期的に3バック化する」のが「相手のSBにWBが出て一時的に4バック化する」というスライドの仕組みは変わっておらず。鹿児島の攻撃的な両SBは高い位置を取るのが特徴なので山雅は後ろ5枚の縦ずれ横ずれでWBが迎撃して、中盤3枚は常に挟み込めるようにして奪うという狙いがあった。
つまり、鹿児島用に新たに準備してきたやり方というよりはここ2戦とベースは変わっておらず、チームの取り組んできた「縦ずれ・横ずれ」や「中締め」、攻撃では「システムのギャップ(ずれ)を突く」という大枠のコンセプトは変わっていなかった(はずだった)。
この守り方をするリスクとしてはWGにライン際に立たれているのでスライドが遅れればそこに繋がってしまうし、WBは疲弊しやすくなるが、縦ずれでWBが遅れても後ろは4枚で余るし、ベンチにWBができる選手は多く準備させていたのもここを見越してのように思う。
・違いは「システム」より「選手の特徴」
ただここ2節と違いがあったのは起用された選手の特徴。
ボランチの米原→稲福、左CBの常田→下川の変更からも「自陣でのビルドアップ」よりも「敵陣からのプレスや機動力を重視していた」のは明らか。特に去年から継続して起用され、セットプレーでの第一ターゲットになっていた常田をベンチスタートにしたのは大きく振り切ったと思う。
現段階では戦術的な理解度が高くなく、偶発性の高いサッカーにおいては試合中こうもうまくいかないシーンは多いため、WGの米澤や五領にライン際で持たれるリスクももちろんあったが、そこのケアとしてSBの対人性能にも優れている下川・宮部を置き、その勝負が生じても対応できるメンバーを配置。
さらにこの試合では監督がスピードは随一と認める大野をCBの中央に起用したことからも「ラインをいつもよりも高く設定し、前から積極的にプレスをかけていき、縦ずれで左右のCBが晒されても1対1で対応できるようなプラン」を立てていたのは明確。このメンバーを起用しているからにはWGを気にして動きが鈍るくらいならばライン際の勝負は積極的に受けて立ってほしかったとすら個人的には思っている。
ここからも基本的にはベースのやり方は一貫させて、(少なくとも序盤戦は)起用する選手を固めず、違いは選手の個性で作っていくことになっていくと思うが(なぜそうした方向性かはスペースでも頻繁に話しているが今回はそこが本題ではないので割愛……)、その起用意図・プランを選手は理解する/選手に理解させる必要がある。
そう、これがこの試合の前半、何よりも重要だった。重要だったのだ。
・攻撃の狙いもあったはずだが……
そして3バックにした際の攻撃の狙い。
①システムの嚙み合わせ上、大外のWBが空くというのに加えて、
②鹿児島は両SHはライン際に張っているため、2列目まで帰陣しきれないことがある点
③ロメロフランクが1列前に出てくるので一時的に424のような形になる点
が特徴的で、ここを突いていこうという狙いはあった。
と、ここまではメンバー選考や監督コメントから考察できる攻守での狙いである。しかし、現実にはうまくいかなかった……というよりは早々にこのプランから遠ざかり、どんどんと異なる方向へと進んでいってしまう。
■プラン放棄によって生まれた不和
・引いてしまった守備網
この狙いをすぐに察知した、もしくはメンバーが出た時点で事前に想定していた鹿児島は10分足らずでSBの位置を下げてWBに捕まりづらいような位置を取り始める。それに伴い、WG役の五領・米澤もその背中を取るようなポジショニングに。
ただ見方によっては鹿児島もストロングであるボランチを使うことを辞めさせ、相手の攻撃的なSBのスタート位置を下げさせることに成功したともいえる。
ハマらないなりに相手の狙いを1つ阻害したと捉えても良かったが、これを受けて早くも「5-4-1のようなブロック守備」に守り方を変える。
縦ずれ・横ずれを捨てた代わりの利点は
①SBへはシャドーがプレッシャーをかけやすくなる
②それぞれが前向きに相手を監視できるようになるなど
これで簡単に裏を取られるということは(噛み合わせ上は)なくなった。
が、この541がブロックとしては実に中途半端だった。
サイドを気にするようになった分、中央の5人の守備網は広がっていき、挟めるプレイヤーが物理的に小松のみに。その上、前線からボール保持者を追い回していたことにより、鹿児島のボランチが自由にボールを触れるようになる。
特に左へは小松がかなり深くまで追っていくことが多く、そちらに第一網(小松)が寄せられたことで、菊井サイドが数的不利を強いられ、かつ菊井は1stプランにあったCBへのプレスも捨てきっていなかったため、2度追い、3度追いで対抗することになってしまう(余談だが小松の左寄りのチェイスから自分は3-5-2からの後ろのスライドで4-4-2がこの試合の可変の基本形だったのではないかと思っている)
本来、ブロック守備であれば動いてはいけない、プレスにいくのであればチーム全体でプレスのスイッチを入れなければいけないというのは基本中の基本だが、そこが中途半端な状態。前線の選手は常にボランチの選手を牽制できるような位置にいなければいけない。
さらに一度5-4-1で後ろに重たくなった重心をひっくり返すのは前に相当のエネルギーと勇気、さらにチーム内での共有がいる。もしくは一度敵陣まで陣地を挽回してラインを設定し直すことが必要になってくる。
そのため、5-4-1ブロックを選択する(そうなってしまった)場合、物理的に後ろに重くなった状態からのスタートになり、かなり割り切った守備になってしまうことが多いが、「わずか開始10分で本来の狙いを捨て、割り切った形を取らなければいけない試合展開だったのか?」というのは大きな疑問として残る。
その結果、異なるやり方に切り替えていた鹿児島が本来の姿を取り戻し、山雅はどっちつかずな状態で戦う構図になってしまった。
・根本的な問題
だが、ブロックの組み方やシステムの切り替えは戦術上の話でまだこれから高めていけば良い話。
ただ大きな問題は『チーム内で戦い方が統一されていない』ことにあった。よりこの試合に当てはめて言えば『プレスに行く選手とブロックを組む選手の両極端に分かれてしまった』点が去年を彷彿とさせる試合展開になってしまったように思う。
チーム全体でそこに問題意識を持って、コミュニケーションを取ること、そして誰かがイニシアチブを握り、最後ラインの選手を前線に行かせるのか、下げてブロックを組ませるのかを決断しなければいけなかった。
ホームで絶対に失点してはいけないという意識か、去年の失敗がフラッシュバックしてしまったか、単に自分たちの力を信じきれなかったのか……内部のことは分からないが、自分たちのやってきたことや準備してきたプランを投げ出して中途半端な戦いをしてしまうならばまだ成長途上であっても自分たちの貫くべきものを貫くべきだったし、「たとえそれで負けても……」的な話ではなく、現実的にそれで互角以上に戦える構造だったと個人的には思っている。
このままではシステムを弄ろうとも、ポジション修正を加えようとも去年のように意味をなさなくなってしまう。せっかく新たなチャレンジをやろうにも踏み出せないままではより単調で、勝ち点を取るための力技のような策を取らざるを得なくなってしまう。
そうならないために、次節は「結果を掴み取る」こと、そしてそれ以上に「自分たちがチームとして方向性を整える」ことがポイントになってくる。
・良い守備ができなければ良い攻撃はできない
話は試合に戻る。トランジション特化の戦い方をしているからには守備がうまくハマらなければ攻撃は思い描いたようにはいかない。
実際にはうまくいかなかった理由は、
①効果的に相手を挟みこむことができず、カウンターが発動できなかったこと
②相手に押し込まれすぎて攻撃に移るまでに手数が必要だったこと
③先制したことで相手が即時奪回に来なかった=両SHの攻め残りが少なくなったことなど
さらにそれにより、④最終ラインの構造的な問題が露点することになった。
⇧本来では左から組み立てていくことの多かった山雅のビルドアップも最終ラインの時点でスライドで追いつかれてしまい、パスを通そうにも右足ではひっかかる恐れがあり、WBを使えない。外山が下がって貰いに行っても相手とのシステムがある意味がなくなってしまうのでまたやり直しに。そして、逆のWBの前や上がっていった宮部へのロングボールという確率の低いプレーを選択することに。
逆を狙う意識自体は悪くなかったとはいえ、この日のメンツでは運べる・独力で勝負することに優れた外山のもとにそもそもボールが回ってこないというのはなかなか悩ましかった。
■荒療治の代償
・振り出しに戻した後半の選手交代
そして、後半は稲福・外山に変えて米原・横山を投入。
①自陣からの攻撃で特徴を出せる選手を入れるため
②先制したことで鹿児島がボールを持たせてきたため
③後ろに重くなってしまった守備陣形を無理矢理前に置くため
など狙いがあった。
さらに息詰まっていた左からのビルドアップも活性化。
特に米原からパスルートが生まれるようになっていく。
鹿児島は非保持時に前線4枚のチャレンジ&カバーの関係が整理されないまま、(直接この形とは関係なかったが)CBと横山で1対1を作られてPKを与えてしまった。
選手交代と選手の特徴を生かして3試合連続で投入選手が結果を残したという点はポジティブで今年の1つの強みになってきそう。
多くの代償を払って、前半の「後ろ向きな戦い方になってしまった山雅」と「余裕をもって相手にボールを持たせていた鹿児島」という構図を壊すチャンスを得ることができた。
・チャンスをフイにしてしまった2失点目
しかし、その後もイマイチこの構図は改善されない。どころか14分で再びリードを許してしまう。
大野がライン際のボールを残したところで相手に拾われ、一時的に相手の前線4枚に対して山雅の最終ラインは3枚に。クロスは下川がブロックし、パウリーニョが急いで大野の穴は埋めるも、その間にゴール前に流れていた五領に前が引っ張られ、2対1になっていたところを米澤に決められてしまった。
局地的に見れば大野含めて1CB状態になることへの危機感をもっと感じておくべきだった。もちろん常時から全力でやっているとは思うが、ロメロのドリブル突破、星に拾われてのクロス、五領のオフの動きなどどこかで流れは止めたかったし、ミドルの可能性を捨ててでもより失点の確率の高いゴール前は埋めなければいけなかったように思う。
ただ、試合の流れまで見ると3バック→4バックにしたことにより、後ろの枚数が減ったことでもしかすると選手間の認識や距離感に微妙にズレが生じていたかもしれない。そのあたりも準備していたプランから外れてしまい、荒療治に出るしかなかったことによる代償といえる。
・結果を求めてパワープレーに
そして、安田投入あたりから常田を前線にあげてのパワープレーに出る。
戦術的には
①佐藤・前・菊井あたりの疲弊&交代
②ロングボール&フィニッシュ時の小松の負担を減らす
③横山を警戒して相手がラインを下げていたなど
の意図があったはずだが、
①強風で後ろからのロングボールの精度が悪い
②事故を起こすだけ迫力がなく、相手を押し下げられなかった
③あまりにも単調すぎて相手が対応しやすかった
ため、効果的なシーンはほぼ皆無だった。
次にパワープレーを選択したことに対する意義。
見てる側としては逆風だったこともあり、「やってほしくなかった」というのが本音だが、それは監督にとってもそうだったはず。
ただ直近2試合でも後半に入ってからはより勝ち点に特化したパワープレー気味のサッカーに切り替えて勝ち点を積んできているので、(結果が出なければ批判されても仕方がないやり方ではあるが)ここ3試合をトータルするとこうした割り切りにも一定の意義はあるように思う。
(今回は起用できる選手が限られていたのかもしれないが、やり方とやらせる選手だけは再考してもらいたい笑)
■失敗を繰り返さないために
こうして1-2のまま敗戦。
2戦続けて勝ち点3以上の価値がある勝利を繰り広げていただけにこの敗戦は実に悔いが残る。
戦術面の成熟度がまだまだこれからで、その差で敗れてしまったならともかく、自分勝手に用意してきたプランを投げ捨て、選手としての強みを生かせず、周りとの調和もとれないならば去年1年は、J3降格はなんだったのか?という話になってくる。
相手がいて勝敗がある以上、負けてしまうことはある。が、その域にも達さない状態で結果も残せないのはもうこの試合で最後にしたい。
何よりもそれができる選手たちなのだから。
次節は因縁の相模原戦。今一度自分たちの力を、チームメイトの力を信じて、監督のプランを信じて、そして僕たちもそんな松本山雅を信じて。
失いかけていたものを取り戻しにいきたい。
END