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2年連続の解任劇とこれから<下>

去年の柴田体制発足から今季の戦い、そして解任。現在の名波監督・三浦コーチの就任までを振り返った前編。

後編ではもう少し踏み込んで、名波監督が磐田時代に監督としてどのような戦いをしてきたのかというところから、松本山雅でこれからどのような戦い方をしていくのかを分析・考察していきたい。

■引退から監督就任に至るまで

引退した直後にA級ライセンスを取得したという名波監督。レジェンド選手がすぐに現場を任されてそのまま監督の経験を積んでいくケースは世界的に見ても珍しくはない。名波監督もコーチや監督のオファー待ちで、実際にそんな噂は頻繁に飛び交っていた(11-12年オフに山雅もお断りされた経験があるというのも有名な話……)。

しかし、ただ監督をできればいいというわけではなかった。S級ライセンス取得年のインタビューでも

クラブの監督にもしなることがあれば、勝敗の影響は自分にだけではなく、選手、スタッフ、クラブ、サポーターやスポンサー全てに及ぶことになる。強化を考え、補強や選手の発掘にアンテナを張る必要もあるし、メディアとの信頼関係を構築することも重要になる。だから、終了認定を受けた時、今の評論家としての立場から監督への助走期間とでもいえばいいのか、これからの時間でじっくりサッカーを見て、改めて学ばなくてはいけないんだと強く感じた。(サッカーキングのインタビューより)

このように語っているように選手としてではなく、監督いう役職に対して思慮深さが分かる。

また、コーチをするにもレジェンドならではの苦悩はあったよう。せっかくなので詳しくは播戸さんのYoutubeで⇩

(ステマじゃないです笑)

そのため、スクールで若者たちにサッカーを教えることはあっても、監督・コーチ経験は全くないまま、いきなりJ2で昇格争いをしていた磐田の監督に就任することになる。

■監督就任からの4年半を振り返る

・就任1年目<J2・4位>~監督初挑戦~

チャンスが回ってきたのは2014年の9月。
磐田はこの時点で3位。シーズンを通してみるとそれほど悪い成績ではなかったが、「自動昇格という目標設定」、「後半の失速により2位山雅との差が8に離れたこと」などで前任のシャムスカ監督が解任。

前半戦は13勝4分け4敗と健闘したが、他クラブに研究された後半戦は3勝4分け5敗と低迷。システムも4→3→4バックと短期間で変更し、一部選手から「自分たちが何をやるか、そのスタイルがない」との声も上がっていた。(スポニチより)

結局、解任数試合は調子を取り戻したものの、勝ちきれない試合も多く、この勝ち点8差は埋まらないどころか4位でフィニッシュすることに。POでは山形戦でGK山岸にロスタイム被弾を喰らい、長年監督をしていたとしても一生味わえないであろう劇的な幕切れで初のシーズンを終える

この後、初戦を控える山雅的になんといっても気になるのは就任後の変化。こちらは後ほど…。

・就任2年目<J2・2位>~外国人部隊襲来と昇格~

オフには主力の前田(→F東京)や山崎(→新潟)、白星東(→鳥栖)がJ1に移籍。シャムスカ監督時代に主力だったポポ、フェルジナンド、チンガらブラジルトリオも退団した。

しかし、その分を上田(→大宮)や川辺(→広島)、太田(→仙台)で穴埋め。
さらにこの年加入したジェイ・カミンスキー・アダイウトンが揃って開幕スタメンに名を連ね、1年目から大活躍。ジェイは20得点で得点王、アダイウトンは17得点、カミンスキーもリーグNo1のGKといっても過言ではない力を発揮した(※外国人選手の前所属は省略させてもらいます)

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この年のJ2は大宮・磐田・福岡の3強状態。
厳しい見方をすればJ2では突出していた個の力で勝ち抜いたという側面もあるが、大宮は"家長ムルジャ泉澤ら同じく突出した個"、福岡は"堅守とセットプレーとウェリントン"と他の上位陣を見ても今より個とセットプレーの暴力が横行していたリーグだったので良くも悪くもそこに沿ったサッカーで、個の力を生かして結果を残した。

また、選手を束ねる力はこの年から早くもとびぬけていた。選手とのコミュニケーションを密に取り、劇的な試合をモノにすることも多い。

さらに来日1年目で力を発揮できない外国人も多い中、序盤からこれだけ力を発揮させることができるのは当たり前ではない。監督経験約3か月となると尚更だ。ジェイ・アダイウトンは後に日本の他クラブに移籍したが、名波磐田時が一番輝きを放っている。

・就任3年目<J1・13位>~J1初挑戦~

J1初挑戦となるこのオフの入れ替えは最小限に。
駒野(→F東京)や伊野波(→神戸)は去ったが、縁のある大井・山本康(レンタル復帰)をJ1新潟から加えた他、中村太(→千葉)・齊藤和(→熊本)などを補強。昨年に比べたら小粒にはなったが、新加入選手たちからは「名波監督のチームでプレーしたかった」という声も挙がっている。磐田派閥の選手は特にそうした想いは強いのかもしれない。

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J1初挑戦となるこの年は「J1残留、勝ち点40以上獲得」を目標に掲げてシーズンをスタート。1stステージは8位と躍進するもその後失速。勝ち点は36と目標には届かなかったものの、最終節に辛うじて残留を決めて13位に。

シーズン途中には小林祐の途中移籍。

「祐希のトップ下のプレーが10点満点で6だとしたら、2か3の選手をこれから育てていかなくてはいけない」(サッカーダイジェストより)

名波監督が抜擢、その後もチームの核となっていた選手を欠くことになったが、小林祐と同様にそれまではボランチが本職だった川辺をトップ下に抜擢したり、この年から導入した3バック(3421)を併用するなど新たな一面も見せている。

充実のシーズンとは言えないまでも、名波監督自身がJ1とJ2への違いを肌で感じ、現実路線にシフト、翌年の上位進出にむけての伏線となる1年となった。

・就任4年目<J1・6位>~最高のシーズンへ~

名波監督パワーで驚きの加入が起こるかもしれない
そういう声が聞かれることも少なくないが、それを象徴するのがこの年のオフだろう。

なんといっても1番のトピックスは横浜Fマリノスのレジェンド・中村俊輔の加入。マイナス面でJ2からエースとして君臨し、前年も14ゴールを叩き出したジェイの退団もあったが、川又(→名古屋)・ムサエフ・高橋祥(→神戸)・松本昌(→大分)らを加え、大きな転換期を迎える。

この年には名波監督は慣れ親しんだ4231から基本システムを3421に徐々にシフト(相手によっては4バックの併用もしていた)。

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結果、このスタイル転換がハマり、J1の6位に躍進。
特筆すべきは守備面。残留争いをしていた前年の50失点から30失点と大幅減。この年のリーグ最少失点であるだけでなく、(チーム数が18チームとなった)06年度以降磐田が記録した最小失点数も記録した。

昇格初年度である昨年は名波監督が考える"J1仕様のサッカー"について問われた際に

高い位置からボールを奪いに行き、奪った瞬間に、まず前(へボールを入れる)。でも、前の選択肢を相手に消されるから、そこでわざと密集を作って、広いところに(展開する)っていうのが、自分はJ1のサッカーだと思っています。下がって守備をして、長いボールをボンッと蹴るチームが半分以上あるJ2との差。

と述べていた名波監督だが、これまではアクション命でジェイやアダイウトンら前線の個が躍動していた反面、高い位置からボールを奪うことに関しては中途半端なまま進んでいた。そこでこの年はそこを割り切ってプレスの位置を下げたことで間延びしがちだった陣形はコンパクトに。前線のユニットをカウンターでシンプルに生かすことで安定した戦いに繋がった。

良く言えば現実志向に、悪く言えば自らが言っていた”反J1仕様のサッカー"寄りの戦いに割り切ったということになるが、J1挑戦2年目での上位進出はサプライズと言える。

また、このスタイルだが、長年山雅が続けてきた反町サッカーにも通じるところはあり、J1で前プレがハマらない時は割り切って、自陣で構えてカウンターを狙うという戦いは戦略としては近い
2度の降格で「反町サッカーではJ1は戦えない」と考える人も多いとは思うが、この年の磐田の例を見ると少なくとも"J1残留"に関しては無理ではないと思う(もっともJ1用に補強した選手を戦力化できないと論外だが)。

ちなみに名波監督就任が発表された当初はこの年のサッカーをモデルにして、近い形になると予想していた。その後、三浦監督が参謀になったことでそこにも変化が出るかもしれないが、指揮の傾向としてはこれくらい割り切ったサッカーをしても不思議ではない。

・就任5年目<J1・16位>~狂った歯車~

途中就任+4年目と長期政権に突入。解任する理由もないということなのかもしれないが、前年が躍進で驚きを与えた年ならば、今年は低迷で一気に順位を落とす誤算の年になる。

昨年の順位を受けて「トップ5入り」を目指してスタートしたこの年だが、多くの広島サポすら名波監督が育てたと認める川辺がレンタルバックで広島に帰還。カウンターの核となっていたアダイウトンや中村の離脱、ムサエフも長期離脱と主力が解体状態に。

田口や新里の補強はあったものの、INが新卒含めて合計5人という背景もあってチーム力は明らかにダウン(加入組の1人ギレルメにも色々があった)。

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前年は上手くハマったこのサッカーだが、武器だったカウンターとセットプレーで脅威が出せないと攻守に好循環は生まれない。Wボランチ・2シャドーを欠くことになったのはその点で痛かった。

新たに3511を試したり、大久保を夏の補強で連れてきて自由を与えて攻撃に専念させたりと色々試したが、結局順位は16位でPOに回ることに。降格危機に陥ったが東京VとのPOでは名波体制では異例の完全非公開練習を実施、自身は退任を伝えて挑んだ試合で、2-0で完勝。

その後も辞任の意志は変わることはなかったが、服部強化部長との熱いやりとりで最終的に続投を決めた逸話はJリーグファンの間では有名である。

『来年、このチームを好転させる自信がない。"自信がない名波浩"なんて、これっぽちも魅力がない』という名言(?)もここで生まれた。

・就任6年目<J1・18位>~挑戦と終焉~

服部強化部長の説得もあり、この年も継続となった名波体制。そうはいっても監督初挑戦で、サイクル的にもピークは越していたこの体制がここから盛り返すには選手補強は必須だったはず。

だが、加入は森谷(→川崎)、中山(→山形)、ロドリゲスとレンタルバックの石田(→金沢)のみ。この時からすでに補強は酷評されていた。

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<開幕戦 松本山雅戦>

一旦、リアクションサッカーに振り切って結果を残し、低迷も経験した名波監督も個に頼らない形で得点力をあげるべく、キャンプからビルドアップの練習に時間を割く。

世界的にトレンドになりつつあった偽サイドバックで松本・高橋を中盤化させ、アダイウトン・ロドリゲスを大外レーンで勝負させたり、大久保の0トップ化などを取り入れ、保持で違いを見せるために様々なチャレンジはするも「形」の域を超えない。その形を作ることが目的化して中盤が渋滞してしまうなど落とし込みは不完全なまま。

それでも結果が出ないとみると3バックに回帰したり、決して扱いやすいタイプではなかったロドリゲスをフィットさせる方法を模索し、15試合5得点と新たな得点源として確立させたが、新たな武器となった6月頃には早くもロドリゲスはディナモ・キエフに移籍。山田大記、川又堅碁、大井健太郎といった軸になる選手も怪我に苦しんだ。

結果、17節を終えて3勝しか挙げられなかった名波監督は2度目の辞任を表明。その後、鈴木ヘッドコーチの内部昇格を挟み、新監督に就任したフベロ監督のもとで成績が一度上向くも及ばず、そのまま降格。

解任後には徳島・リカルド監督、札幌・ペドロビッチ監督のもとに練習視察に行くなど戦術の幅を広げることに関しては努力を怠っていない。

磐田での5年間は毎年のように戦い方を変え、非保持→保持へのチャレンジも行っており、経験的にも戦術的にも監督初挑戦と考えられないほど多くの経験をした。(「戦術がない」という言い方自体そもそも個人的にはそんなに好きではないが)問題を提示し、頭の中でイメージしているもの自体は非常に理にかなっており、ビジョンもある

ただその落とし込みのところは課題として事実残しており、そのノウハウ、チームのコンディション管理との兼ね合いの部分は足りていなかった。結果、戦術○○的な力技、現実策(=戦術がない的な解釈)に落ち着きやすいということだと思う。

■名波監督就任でどうなるのか!?

・前回途中就任時はどうだった?

では、後回しにしていた就任後の変化について。正直な話、前回の就任初戦の試合(第34節 磐田-愛媛戦)は全く見れていない。データや情報ベースの話にはなるが、今現在持ちうるもの全てを使って考察していこうと思う。

まずはスタメンの変化。

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シャムスカ監督から名波監督に指揮官が代わった際は1日、2 日しか次の試合まで準備期間がなかったそうで、今回よりさらに短かった。

その中でこのような変更やコメントがある。

・3人の選手/6つのポジションが変更(チンガは水戸戦で負傷?)。
・そこまで全てボランチ起用だった22歳小林祐希をトップ下に抜擢
(藤田もボランチ、松井は左SHに。後に宮崎もボランチ起用に)
・「不調な選手同士をくっつけてもいくら相性がよくても上手くいかないでしょうから。今日は上向きの選手を使った」とコメント。
・落とし込んだのは大きく4つ。攻守の切り替え。セカンドボールの予測。コミュニケーション。シュートの意識。
・立ち上がりは微妙だったが、最終的にシュート数は15-2と圧倒
・岡田の投入で試合を“クローズ”させる
・「キャプテンマークは90分間出るであろう人間が巻くべきだと思う」
ジュビロ磐田公式より>

7年前の監督1年目時代の話なのでどれくらいアテになるのか微妙なところだが、修正点を4つに絞っている点既存の概念にとらわれない点などは恐らく本質的な部分なので変わらないであろう。

前回の中1日2日での調整よりも余裕があるので、もしかすると大幅な入れ替えやコンバートはあるかもしれない。少なくともかなりの確率で「これまでの組合せ」を壊してくるのではないかと思う。

個人的にはシステムはこれまでの2つから崩さないとは思うが、紅白戦では3バックと4バックを試していると報じられている(中日新聞より)。単なる琉球対策かも?というのも覆されるかも。

・キッカーの地位があがる?

2017年、名波監督は「FK(セットプレー)はキッカーで7割が決まる」ということを話している。実際この年の磐田の得点は32%がセットプレー。

しかし、そのために徹底的に練習を積み重ねてきているかと言われるとそういうわけではなく、「セットプレーの練習をしたのは3週間ぐらい前。キッカーの質でほとんど決まると思っている」という持論で、練習を沢山すれば良いとは考えていない。

若干、飛躍した解釈にはなるが、逆に言うと「それだけ準備期間がなくても(優れたキッカーさえいれば)得点が取れる」と考えている可能性も。

キッカーを務めていた前に満足していない場合、最も計算できる浜崎、長崎戦でいいキックを見せた田中パ、未知数だが山田真夏斗あたりが抜擢される可能性はあるか。

・後ろからチームを支えるリーダーは誰に?

「リーダーがいないっていうのは強く感じていて、チームを鼓舞するような激励的な声がたくさん出てくるようなチームに変貌させたい」

これまでにこうした趣旨の発言は多く聞かれる。磐田でいう大井健太郎役は誰になるのか?は今後を考えても非常に重要である。この先、選手の復帰や補強があるとは思うが、琉球戦に関しては今いる戦力でやっていくしかない。

最終ラインの大野・星・常田(・下川)の中で誰かがその大役を任されるのか?誰かが抜擢されるのか?

ここでその役を任されることがあれば名波体制ではシーズンを跨いで確固たる立ち位置を確立させる可能性が高い。

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名波監督に関する考察は以上です(本当は序列の上がりそうな選手や予想される布陣なども深掘りしたかったですがまた次の機会に……)

また追加情報やスタメン発表があればその際にあれこれ追記するかもしれないのでもし良かったら何卒。
https://twitter.com/yamaga62 

琉球戦後にみんなであれこれ喋る会(仮)もするのでこちらも合わせてよろしくお願いします。同じサポ同士あれこれ語りましょう。
https://twitter.com/yamaga_tactics?s=20

今年ずっと調子があがらないチーム。
正直、今上がっている4つの課題が今年のうちに目に見えて改善されるだけでもかなりの進歩だと思います(そうなれば恐らく残留は可能でしょう)。

特に怪我人が多発している状況でアウェイ・琉球戦。かなりきついです。
名波監督の言う「過度な期待は禁物」というのもわりとリアルなところだと思います。

この数日でできることは名波監督の慧眼と直感力による選手起用の見直し三浦コーチの今期の分析データによるプランニングで、結局それを背負った選手が期待に応えられるかによる部分が大きいです(戦術的な部分では恐らく5月に対戦した三浦監督が主導になるのではないでしょうか)。

ただ"ブーストをかけるチャンス"を掴めるかどうかも『これまでとは何か違う自信や期待感』が膨らんでいる、ここ数試合にかかってきます。それが柴田監督や西ヶ谷コーチのためにもなります。まだまだスタジアムを満員にできるご時世ではないですが、今度こそ同じビジョンを共有した中で結果を残し、選手・サポーター・スタッフみんなで喜び合いましょう。

絶対ここから這いあがろう!OneSou1!

END


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