鹿児島戦レビュー~ロマンと現実の妥協点は…~
準備期間が限られた中でホームで痛恨の敗戦を喫した八戸戦、アウェイで何とか凌ぎ切って勝ち点1を拾ったいわき戦と苦しい試合が続き、週半ばにはキャプテンの前が移籍とまさに激動の3週間を過ごしてきた山雅。
コンディション面も不安視される中、長距離アウェイ3連戦の2戦目となるこの試合も今季ずっと上位を争ってきた強敵・鹿児島が相手と一筋縄ではいかない激しい戦いが予想された。
そんな中、今後に向けても嬉しいトピックスと言えば山雅にとっては2年ぶりとなる声出し解禁。サポーターからの熱い声援にも支えられ、選手・スタッフも前半戦の敗戦のリベンジに燃えていたであろう、この1戦。結果は望むようなものではなかったが、この試合で何を狙いとして持って、何がうまくいかなかったのか。改めて考察していきたい。
<両者のフォーメーション>
・松本山雅
野々村、小松、そして出場停止中のパウリーニョに代わって、住田、佐藤、古巣戦となるルカオが先発に。ベンチには今週山口に移籍した前、山本に代わって宮部、浜崎、山田、2種登録の田中(想)が入った。
システムは第12節の藤枝戦以来の4-4-2スタート。
GKはビクトル。
4バックは左から外山・常田・大野・下川。
中盤は菊井・住田・安東・佐藤。SHは右に菊井、左に佐藤が入ることが多かったが今回は逆になっていた。
FWはルカオ・横山に。開幕戦、第2節以来のこの組み合わせだった。
・鹿児島ユナイテッド
砂森、野嶽、米澤に代わって、栃木から今週加入の小野寺・16節の怪我から久々の復帰となった中原・17節からなぜか不在だった五領が復帰。ここ数試合は主力組が離脱して勝ち星が伸び悩んでいたが、復帰や新加入選手で戦力が整った感がある。その一方、チーム得点王の米澤だけがこの日は不在。
システムはいつも通りの4-2-3-1。
GK白坂は変わらず。
4バックは、CBに本職不在でSBの砂森が起用されてきたが実力者の小野寺を加えてむしろ強固になった印象がある。
ボランチには経験豊富な木村・中原コンビが揃った。
2列目は中央にロメロフランク、右に五領、米澤の代わりにはチーム5年目になる牛之濱が入った。
前線には有田。ここまで全試合出場している。
<記録>
・ゴール数(27)
8:横山
5:外山
4:小松
3:住田
2:榎本、常田
1:菊井、宮部、下川、ルカオ
・アシスト数(16)
3:外山
2:常田、菊井、佐藤
1:ルカオ、住田、濱名、ビクトル、小松、横山、下川
・累積(34)
4:パウリーニョ(1)、住田(1)
3:常田
2:村越、佐藤、前、菊井、榎本、大野、宮部、外山
1:米原、浜崎、安東(1)、横山、ルカオ
<総評>
■悪い流れの中での今季最速被弾
・重点を置いていたピン留め対策
この試合を迎えるにあたって、山雅がかなり重要視していたのが前半戦も苦しんだ「ピン留め」の対策。正直、名波山雅になってから取り組んでいる山雅の縦ズレ・横ズレの狙いと鹿児島のWGを起点にした攻撃の狙いは相性が悪いと言っても過言ではない。
前回対戦でも米澤・五領のところでWBがピン留めされて前や外山がSBへ縦ズレできない、さらにWGとHVのマッチアップ(特に宮部と米澤のところ)で苦労したのが記憶にも残っている。
チームもその時のイメージは強かったはず。
ただこれまでやってきたことや攻撃面を考えると3バックで真っ向から勝負するという選択肢もあった。左右のHVは晒されやすくなるのを許容して縦ズレ、横ズレをするか、5バックでガッチリ構えるという手もなくはなかっただろう。
ただ、前回対戦で純粋なドリブラーではなく、オフザボールの駆け引きも巧みな米澤のところで宮部が手を焼いていたので今のチームなら下川をマッチアップさせるのが最も適任になる。
が、右のHVに下川を入れた場合、次は右のWBに入れる選手がベンチにもいなかった。
外山を右に回した際、左のWBに入っていた住田もパウリーニョの出場停止でボランチで使わざるを得なかったので、自由にシステムを選べる状態では正直なかった。いくつかある選択肢の中で最終的に4バックが選ばれたと考察する。
4-4-2でハメるには、まず鹿児島の中盤3枚に対して山雅は2ボランチなので「2トップがしっかりボランチを消す」というのは必須となっていた。
そのうえで山雅のSBがピン留めされて前に行けなくても、SHが出ていくことでサイドで数的不利を作らせず、同サイドで挟み込むようなイメージ⇩
そして、やはりエース米澤のいる左サイドは警戒していたように感じる。
ここ数試合は左は米澤が個でも違いを生みだしていた一方で、右サイドは五領がここ数試合不在で消化不良感はあった。先ほど書いたように佐藤と菊井がいつもと逆だったのは守備面の負担を考えて左サイドに佐藤を置いたのではないかと思う。
・らしくない失点
こうして現状の手駒の中で4バックでのピン留め対策に行きつき、メンバーを選んできたわけだが、試合はそれとは関係ない流れから動く。
前半7分、セットプレーの流れから、両チーム合わせて1本目のシュートがそのまま決まってしまう。
山雅は今シーズン、この日の失点も合わせてセットプレーからわずか3失点しかしていない(直接は除く)。しかも、他2点はYS横浜戦、八戸戦ともに味方が被ってしまったような形から。完全に競り負けてフリーで叩きこまれるような形は初めてだった。最初に競った新加入の小野寺のお膳立てがとにかく大きかったが、この日1本目のCK、もっというと加入してから初のCKだったこともあってマーカーからすると難しい対応になった。
どちらかというとその後をしっかり拾いたかったが、押し込んだ広瀬についていたのも安東、すぐ側にいたロメロについていたのはルカオで、若干ミスマッチ感もあった。いずれにしろ、山雅側の隙を見事に突かれた感は否めない。
そして、これまでもレビューで触れてきているが、今シーズン試合開始から15分以内での失点は初めて。開始早々で失点したことで先行逃げ切りのパターンは難しくなった。
因果関係があるのか、単なる偶然かは分からないが「激震の3週間だったので、払拭するには勝利こそが良薬」という指揮官の言葉とは裏腹に、負の流れを引きずるような先制被弾になってしまう。
■ズレ始めるゲームプラン
・ロマンを追い求めるか……
早い時間に先制したことで鹿児島には余裕が生まれ、山雅にボールを持たせるような形を作る。守備からしっかりと入り、相手を引き込んだところでできた裏のスペースをルカオ横山が突くというのを基本線としている山雅にとってはほぼ真逆なゲーム展開になった。
2トップが深さを作り、それによってできた中のスペースをSHが自由に活用してボールを引き出し、大外でSBが追い越すという基本形は良くも悪くもこれまでと変わっていなかったが、この日見られた問題として大きく感じたのがルカオと横山の動きの噛み合わなさ。
これまでの試合、横山の裏抜けがうまく決まる時は2トップが縦関係で段差を作って最終ラインでズレを生んだり、時間差で裏に抜けるような工夫があったのに対し、
この日は単発での裏抜けや2人が同時に裏抜けをしてしまうようなシーンが目立った。
その結果、裏抜けよりも菊井や佐藤が自由に動き回って中盤で時間を作る攻撃が主体となったが、カウンターでのリスクも大きくなり、山雅のスタイルを考えると中盤でこねくり回すことになるのは好ましくはない。
2トップのどちらが悪いというわけでもなく、どちらも囮になって相方を生かすというプレーよりこの手の裏へのボールは追いかけて収める方が圧倒的に得意としているので、シンプルに2トップの良さを生かそうとすると起こりうる問題だった
本来であればどちらかをベンチに置いて違うタイプを入れるか、どちらかの個性を犠牲にしてでもタスクを限定するかした方がうまく回りそうな気がするが……
実際、ゴール前での強さ、勝負強さはこの試合で2人とも証明して見せたというのもまた事実。先発に値する働きは十分見せている。
采配ミスともいえない2人の存在感はあるので、2トップの個性かぶりを許容してゴール前での個々の強さを残すか、連動性を取って他の組み合わせを探し出すか。今後の選択に注目したい。
・乱れる攻守のサイクル
また、この試合展開によって守備もハマらない。
先ほども書いたように、少なくとも前半は自陣で構えたところからルカオや横山を軸にした縦に早い攻撃を仕掛けようとしていたのに対して、
・自分たちで陣形を崩して攻撃しなければいけなくなった
・2トップが二人とも深い位置に走り込んでしまった
などの事象が起きて、4-4ブロックと2トップが間延びしてしまう。
加えて、前線が2人共前線に残ってしまったところを鹿児島がクイックリスタートで突いてくる。
鹿児島は4バックの3人で2トップ裏抜けを処理すると、一度GKに戻す。逆のSB(特に薩川)は素早く幅を取って、フリーでボールを運ぶというリサイクルができていた。ゴールキックなどの際もクイックリスタートでSBが貰って運ぶというのがチームで決まっていたように思う。
仮にSHがプレスをかけにいっても中盤が数的不利で、ボランチに逃げられるので行くことができず。2トップもサボっていたというよりは2人で裏に抜けることで攻め残っていた感が強いので、もう少し2人で深い位置で時間を作るか、ネガトラ時に取り残されないように縦関係を作るような動きが必要だった。
・2失点目の致命的な欠陥
また、2失点目も前線と2列目の間延びから生まれたズレを使われる。
この時間帯は鹿児島はボランチを1枚落として縦関係になっていたが、前半のうちに1点返したい焦りからか、山雅の2トップはかなり前がかりになっていた。
2トップが高い位置、そして距離が開いた状態だったため、相手のボランチ・中原へのパスコースは空いたままに。最初に書いたがこのかみ合わせでやる上でこれはNG行為である。
そのため、その穴埋めで安東が1列前に出ようとし、佐藤は中へのパスコースを消すために中央に絞る。すると大外の薩川が空いてしまい、フリーでクロスを上げられてしまうことに。
結局、そのしわ寄せを最終ラインも喰らい、大野・常田の2人で挟むべき有田のところで1対1を作られ、ゴールを決められてしまうことになった。
ルカオが頑張って2度追いしていたにも関わらず、2トップがボランチを消すという鉄則が甘くなったことで致命的なズレが生じてしまったので、本来は2トップのもう1枚がしっかりとそこを消すか、できていなければボランチが前の選手を動かすべきだったように思う。
勝つためには前半の内に1点返す、という気持ちは理解できるが、それでも追加点を先に決められてしまったことでこの試合の勝率をさらにガクッと低下させてしまった。
■逆転も見えかけたが……
・奇襲となったシステム変更
だが、2失点目を取られたことでSBがより高い位置を取り、リスクを冒して攻め込むようになる。
横山の先制点もルカオがクロスを上げた際に佐藤・住田・外山がボックス内に侵入したことで、横山がエリア外で浮いた状態になっており、そこまでの時間ではなかったような分厚い攻めができていた。
FWの2人の強みが生きた得点ともいえるが、ルカオはサイドで、横山はミドルで仕事をしているので、それだけ他の選手がボックス内に入っていなければ生まれていない。ルカオはサイドに流れてクロスをあげることも多いので、もう1人はクロスに対して合わせるのがうまい選手が欲しい気もしてしまうが……。
そして、後半は佐藤に変えて橋内を投入。
するとこちらの保持で、常田を起点とした左サイドのトライアングルができるようになり始め、相手のプレスにズレが生じるように。
星が外山までスライドするとその裏を横山に突かれ、五領が外山を気にして下がってくると下りてくる菊井にボールを持たれるという狙いどころを掴みづらい状態に。
こうして2トップの裏抜けのための時間が生まれ、そこに頼らないでも効果的な前進ができるようになっていく。
・良い守備から生まれた同点弾
押し込めるようになったことで守備でも良い循環が生まれる。
起点ができて、高い位置を取れるようになってきた左サイドはそのまま外山が高い位置を取り、SBにプレスをかけるように。同点弾の少し前には相手が思わず面を食らうような見事な奪取からのショートカウンターも見せた。
同点弾までの流れはしばらく山雅の攻撃が続き、鹿児島が自陣から脱出できなくなっていた流れからだったので、その直前の外山や大野のアグレッシブな守備から生まれたと言っても過言ではない。
加入から1年半、そして第20節にして待望のルカオの初ゴールが生まれたのは今後の戦いにむけて大きなポジティブな要素と言えるだろう。
守備の話に戻ると、右はそれほど下川が縦ズレする機会は多くなく、ルカオが低い位置まで守備に戻ったり、バランスを取って残ることが多い住田がサイドまでスライドするという設計に。
かなり警戒して固めていた鹿児島の左サイドを相手に、こうした無理が多少は効かせられるようになったのも、独力ではがしてくる米澤が欠場だったことや有田へのマークを任せられる橋内の投入は大きかったのではないかと思う(もちろん牛之濱は牛之濱で中に侵入してきて良さを出してきていたので厄介だった)
・露点した交代後の強度
このまま畳みかけたかった山雅だったが、その後はチャンスというチャンスは作り出せず、鹿児島とともに膠着状態が続く。
その後は鹿児島はドリブラーの圓道や山本、木出、山雅は小松や山田、田中(想)など、攻撃のギアを入れ、リスクを冒してでも勝ち点3を取りに行く選手交代を行う。
山雅的には山田から小松へのスルーパスなどが交代選手の特徴が生きた面白いシーンだったが、試合を決める決定的な仕事をしたのは鹿児島のプロ2年目のSB木出。
大一番、そしてあの場面で決して簡単ではないプロ初ゴールを奪った木出は「なぜこれまでそんなに出番がなかったのか」と思うような見事な仕事をしたが、その直前、山雅側は中央にあっさりと縦パスを通されてしまい、その後の対応で後手を踏むなど交代後の守備強度の保てなさは露点してしまった。
勝ちにいかなければいけない状況、「2-2でOKとしない」というスタンスでの攻撃偏重の采配だったので交代自体は理にかなっており、浜崎・山田・菊井のトライアングル、小松・田中(想)の2トップというハマればロマンが感じられる起用だったが、結果的には守備が破綻してそれが裏目に出ることになった。
■クラブとしての分岐点に…
その後も相手の圧に屈した形でPKを献上し、2-4で敗戦。
3戦勝ち無しで首位いわきと4差、昇格圏の鹿児島と3差の4位に。愛媛・富山・長野・今治などの射程圏にも入っているという状況に。
勝ち点4という勝ち点差は諦めるにはあまりにも早すぎるが、それでもこれ以上離されると他が崩れるのに頼らざるをえないというのも現実としてある。次節・北九州戦を乗り越えれば次からは5戦中4戦をホームで迎えられ、ここ最近の激動の流れを少しは落ち着けることができるだろう。昇格を目指すという意味で、中断明けからの負の流れは何としてでも止めたい。
また、今季最長の3戦勝ち無し、チームの再構築が求められる中で次節どのような戦い方をチョイスしてくるのか。
依然として厳しい状況には変わりはないが、選手・スタッフだけではなく、クラブ全体が一丸となって生き残るための底力を見せたい。
END