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鹿児島戦レビュー<4度目の正直>

<スタメン>

・松本山雅

スタメンは前節から1人変更。
右SHで出場時間を増やしていた國分に代えて新加入の野澤がいきなりスタメンに抜擢。リーグ戦ではFC東京、相模原ともに全て途中出場だったので、プロ入り後初の先発出場となった。

ベンチは篠原、龍平、渡邉に代えて喜山、そして特指・樋口が琉球戦に続いて2試合目のベンチ入り。

・鹿児島ユナイテッド

スタメンは前節から2人変更。
ボランチは木村に代わって新加入・千布が初先発。右SBには星に代わって野嶽が先発に。ベンチには圓道、ロメロ、そして怪我から復帰の有田が久々のベンチ入りを果たす。

<記録>

・ゴール(35)
15:小松
5:菊井
3:村越、滝
2:パウリーニョ、野々村、鈴木
1:榎本、山本、渡邉、藤谷(、OG)

・アシスト(24)
5:菊井
3:小松、下川
2:山本、滝、常田
1:鈴木、野々村、榎本、住田、渡邉、村越、米原

・警告・退場(34・2)
5:菊井<1>
4:野々村<1>
3:安永
2:山本、パウリーニョ、滝、藤谷、常田
1:小松、住田、榎本、下川、喜山、渡邉、安東、村山(武石C<1>)
0:村越<1>

<総括>

■3連敗は避けたい両者

・共に絶不調、重要だった試合の入り

山雅は直近5試合で1勝3敗1分け、鹿児島は1勝4敗。
2.0ペースで争っていた昨年のようなシーズンは送れていないながらも、連敗は最大"2"まで。なんとかしがみついてここまで戦ってきた。

これまでの対戦時はシーズン序盤や昇格争いの真っ最中だったことで、序盤から飛ばしての撃ち合い上等の展開が多く、点差も山雅らしくないほどのハイスコアの結末が多かったが、その時とは対照的で連敗中で不調の中での対戦。勝ちは当然必須ながら、これ以上ずるずるといかないためにまずは3連敗を阻止する、"負けないこと"も重要だった(まだ上位に踏みとどまっている鹿児島側は特に)。

そんな山雅はいきなりFC東京からレンタルの野澤がスタメンに。

夏の移籍で来てもらったので、まだ名前も顔もわからない選手もいたり、戦術的にはもうぶっつけ本番な部分もあります(一部省略)ぶっつけ本番だろうがなんだろうが、シンプルに彼の特徴を全面的に出してくれれば、必ず僕らの力になると思っていました。

と霜田監督も話す通り、戦術理解よりも本人の素質や能力を見込んでの大胆器用。当然対戦相手にとってもあまりデータのない不気味さはあったのではないか。

対して、鹿児島も宮崎時代に山雅を翻弄した千布をスタメン起用。ベンチには木村が控え、さらに藤本・有田の大物ストライカー2枚も同時に並べて、90分をかけて仕留めきるような意思を感じるメンバー構成となった。

・鹿児島のプランを崩した奇襲策

試合が始まると、"両WGが高い位置を取って起点となる鹿児島"に対して"相手を引き込んだ状態でその裏をサイドの選手が狙い、相手を間延びさせる山雅"というような構図になる。

安永加入後は保持時に中央にいる彼にボールを集めながらしっかりと繋いで前進する試合が多かったが、この試合では入りから米原が左の脇に下りてきてボールの抜け道になっていた。前節は中央に残ることが多かった米原のポジションがかなりサイド寄りに変わっており、あらかじめ準備・修正してきたものと思われる。

これによりSBは押し出される形で高い位置に。特に藤谷は印象的で、米原が左に下りてくる際には逆サイドで高い位置を取って相手の4バックの大外でボールを受けるようなシーンが2度3度あり、先制シーンも同様の狙いから得点に繋がった。

この試合で見られたこの展開、試合後には「アタッキングパス」という独自ワードも出てきたが、これは対鹿児島にむけて準備してきたワードや攻撃の形ではなく、恐らく今年のキャンプから……もっというと霜田監督が率いた山口・大宮時代から常に狙っていたシーンであり、霜田サッカーにおける代名詞の1つとなっている。

以前作ったものだが……アタッキングパスの図解

逆サイドにいる相手のSBが絞っていたら、その大外の位置で、同じ高さでレシーバーが受けるイメージと霜田監督も定義付けをしているが、まさに藤谷が受けたのは相手の左SB・薩川の大外、同じ高さ。

それによって相手は下がりながらの対応を余儀なくされて、不利な体勢になっていた薩川との1対1が生まれた。試合前のツイートにも書いたが、「鹿児島は最終ラインが下がるのが早いのに対して2列目の戻りはそれほど早くない」のを利用して、カットインに対して2人目のフォローが間に合っていない内に藤谷が仕掛けて足を振り切ったことでゴラッソが生まれた。

■すれ違いの攻防

・鹿児島と同じ弱点を抱えた山雅

そこからも20分頃には国友のクロスを小松がゴール真ん前でヘディングで合わせるもこれはGKの好セーブに遭い、ゴールネットは揺らせず。あわや追加点というようなシュートを作れていたが、ここからは鹿児島の流れが続いていく。

SBを高い位置にあげることでサイドで優位性をつくっていた山雅だったが、ここはWGがサイドに張って幅を取る鹿児島にとってもカウンターでは狙いどころ。

山雅のネガトラ時(カウンター時)はSBが空けたこのスペースは狙いどころに。試合が徐々に落ち着くにつれて、鹿児島のカウンターが脅威となっていたのとスタミナ面の問題でSBは上がれなくなっていき、WGの単騎攻撃が目立つようになっていく。

そうなると次第に「ネガトラ→非保持時」も高めの位置を取っていた山雅の両翼が裏目に出て、その裏を使われるようになっていく。

鹿児島の保持では、ボランチの一角に入るルーキーの山口が左の脇に顔を出して、そこから運ぶこともできるので、山雅の2トップのプレスラインを超えて野澤を引き付けたところで米澤や薩川にボールを供給し始める(木村や中原とポジション争いをしているだけある……)。

そこから米澤・薩川と藤谷の2対1を易々作られてしまっていたので、下手に寄せることもできず、クロスをフリーで上げられるのも致し方なしの状態だった。

ボランチが戻ることで数合わせをしていたが、ヘソの位置に入る千布の監視が次は難しくなり、そこを経由して逆サイドでも同じような形を作れられていたので安永・米原ともにサイドまで守備に回る時間が続く。

本来であればSHのポジショニングやパスコースの切り方が重要になってくるところだが、国友・野澤ともにSHの守備に慣れているプレイヤーではないのでそこまで求めるのは酷だったかもしれない。

WGのポジションの高さ、攻撃意識が故にサイドに常態的に穴ができて、SBが入れ違いのような状態になる」というのは山雅・鹿児島に共通する弱点としてあった。

・消せない弱点と良い若さを出した野澤零温

このサイドの弱点を消すために「①最初のように攻撃で優位性を作って押し込む」、「②SHのラインを下げる」、「③SHの人選を変える(もしくはシステムを変えて中盤を厚くする)」などの手段が考えられたが、そこには直接的には手を加えず。そのまま野澤と国友のプレスバックとゴール前の守備陣のクロス対応に託すという選択肢が選ばれた。

案の定、サイド攻撃からのクロスは雨のように浴びたが、前半は何とか無失点で終えたのもまた事実。

SBに対してはスタートポジションでは遅れを取っていた野澤が走力でその差を埋めて、間一髪のところでクリアしたようなシーンもあった。慣れないポジションながらSHがアップダウンで奮闘できたのも、国友・野澤がここで使われた理由であり、勝因の1つだったように感じる。

また、野澤は攻撃面でも主にオフ・ザ・ボールで、持ち前のスピードや攻撃時の積極性を発揮するシーンも何度かあった。村越離脱後は特に裏へのスピードがある選手、抜け出す選手がSHでは欠けていたのでそこが買われて一気に定着する可能性はある。逆にボールを持った際の仕掛けや選択肢はまだまだ伸びしろがある部分なので同ポジションの國分や村越、榎本、場合によっては滝との競争になってきそう。

■割り切りの勝利

・大きかった追加点

後半に入ると運動量を取り戻した山雅が一時的に勢いを取り戻す。48分には下川のカットインをGKが好セーブ。そのこぼれをペナ内で藤谷が拾い、二次攻撃を仕掛けるなど再び両SBが高い位置を取っての積極的な攻撃が見られるように。

この時のマッチアップも相手の右WGの五領。もしかすると下川にはこの時の良いイメージが、五領には悪いイメージが残っていたのかもしれない。直後の52分にはショートコーナーの流れから再び五領とのマッチアップに。ここで完璧な股抜きでの入れ替わりを見せて、PKを奪取。かなり焦りは見えたが、綺麗に入れ替わられたので抜かれた時点で勝負ありだったように思う。

これを小松がしっかりと決めて2点差に。
1点差では守り切るのはやや心許ない点差だったが、ここを境に山雅は徐々に締めを意識する余裕ができ始める。

62分には野々村の負傷で橋内を投入したのと同時に左右SHを交代。自陣に人数をかけて固めていたことやSHを本職の滝と國分に代えたことでサイドの関係性を生かした鹿児島の崩しはかなり限定的できていた。一番の懸念点だったのは途中から投入されたドリブラーの圓道と疲労が目立っていた藤谷のマッチアップ。だが、ここもここは終盤まで藤谷や安永、國分を中心に良く粘り切った。

鹿児島はロメロ、有田、藤本と中央に力のある選手を次々と投入していたが、途中から投入された橋内や住田が鼻を利かせた守備もあり、そこに届けるまでに苦労していた。終盤には立て続けのビックチャンスを迎えたが、これも山雅の魂のブロックに阻まれる。この時間になると山雅は完全に割り切って自陣ゴール前を固めていたので、終盤を迎えるにあたって2点のリードを得れていたのがとにかく大きかった。

・強敵去ってまた強敵

昨年から3戦全敗&全て複数得点負けと苦しめられてきた強敵を相手についに完封勝利。特にサイドの藤谷・下川は悔しい思いをさせられてきた相手なので、その2人の大活躍で2得点を挙げて勝利を手にできたのは大きな自信になるだろう。

そんな次節も上位の今治。対戦成績を見ると3戦全勝で"対鹿児島"とは対照的だが、これまでの対戦を振り返っても主導権を握っていた時間が多いのは今治側。特に今年の前半戦では支配率6割、シュート約20本と今治側が圧倒。鹿児島戦の終盤のように「守るしかない」という試合を余儀なくされた。

最近の動きを見ると、夏にドゥドゥや中川は移籍したものの千葉や阪野、土肥が加入して早速メンバー入り。千葉は5戦4発と早速結果を出している。セランテスや櫻内のような補強の目玉級の選手も復帰して戦力は上がりつつある状況に。

一方、成績面は思うように上がってこない。
直近3勝5分けで髙木監督を解任後、工藤監督の内部昇格に踏み出すも岐阜・讃岐に連敗。2度目の連敗となった上に、前節は枠内シュート1本で、今治らしくない(ゴール期待値・枠内数1位)敗戦を喫してしまった。これで順位も富山と7差の6位に。10位の山雅とも1差なので、今治にとっても崖っぷちの中での負けられない試合となる。

インディオ、千葉、阪野ら強力な攻撃陣を擁して、攻撃的なスタッツ、特にシュートに関するスタッツは軒並み上位でそちらの印象が強いが、被ゴール6位や被チャンス構築3位、被ゴール期待値3位と守備面のスタッツも上位。ここは守備の時間自体が短いのも影響しているはずだが、点を取るのが容易ではないのも今治の1つの特徴となっている。

前節の鹿児島と比べると3バック・2トップの3-5-2システムを採用しているのも1つの違い。今年の山雅は対3バックの明暗がくっきり分かれており(勝利した試合はYS横浜・八戸、敗北した試合は長野・福島)、プレス面がうまくハマらない試合はビルドアップも封じられ、抜け出せなくなる試合を経験している。

守備時も5バックで構えてくるのでシンプルに裏を狙っても前節のような優位性ができなかったり、奪った後には常にカウンターで2トップが一刺しを狙っていたりと全く違う振る舞いになるので、成功体験を生かしつつ、引っ張られ過ぎないことが重要になってきそうだ。

試合結果次第では最高で4位、最低で14位もありえる大混戦のJ3リーグ。鹿児島に続き、今治を撃破して上昇気流に乗ることで、再び昇格前線に顔を出していきたい。

END


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