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北九州戦レビュー~原点と再構築~

<両者のフォーメーション>

・松本山雅

メンバーは2名変更。安東と出場停止の住田に変えて、野々村と住田に代わってパウリーニョ。サブは山田に代わって稲福が入る。

システムは前節の4-4-2から3-5-2に戻った。

GKはビクトル。後ろの5枚は外山・常田・大野・下川に加えて今季2試合目の先発となる野々村が右のCBに入る。
中盤のトライアングルはアンカーに出場停止から復帰のパウリーニョ。その前には菊井と佐藤が並ぶ(ベンチにIHの選手がおらず、やや手薄になっているのは気になる点……)
FWはルカオと横山の2トップというチョイスに。

・ギラヴァンツ北九州

対して北九州は藤原・中塩・六平・前川・中山に代わって河野・本村・前田・平山・上形と5人が入れ替わる。上形は加入後初先発、前田・平山は

<記録>

・ゴール数(28)

8:横山
5:外山
4:小松
3:住田、常田
2:榎本
1:菊井、宮部、下川、ルカオ

・アシスト数(17)

3:外山
2:常田、菊井、佐藤
1:ルカオ、住田、濱名、ビクトル、小松、横山、下川、野々村

・累積(36)

4:パウリーニョ<1>、住田<1>
3:常田、菊井
2:村越、佐藤、、榎本、大野、宮部、外山
1:米原、浜崎、安東<1>、横山、ルカオ、小松

<総評>

■ルカオ・横山の継続から見えるもの

・この組み合わせのメリットとデメリット

前節は鹿児島を相手に2-4で敗戦。2トップがそれぞれ上位のDF陣を相手にも破壊力を発揮し、2点先行されながらも同点に追いつく働きを見せたが、それと同時にスコア通り「守備崩壊」「終盤の火力不足」も露呈。

山雅に限らず、「火力のある、得点力のある2人を並べるのが最適解になるか?」と言われるとそうでもないのがサッカーだったりする。もちろん、他のパターンとの比較にもなるわけだが、そのパターンを試す時間もそう残されていない。横山が代表で木曜日まで不在だったこともあって、横山・ルカオの活躍を尊重しつつ、違うパターンを試すならこのタイミングと踏んでいたが、結果的に横山・ルカオの組み合わせが継続となった。

この組み合わせとなるとやることはシンプル。
裏抜けの推進力と個の突破力がある2トップをシンプルに生かし、周りはそれに合わせてフォローに入る。2人は周りを使わなくてもある程度突破はできてしまうし、"周りを使おうとしてもその成功率はあまり高くない"というのが正直なところ。シュートまで最短距離で突破していってしまうのでフォローに行く選手は"ロングスプリント"かつ"2人の良さを殺さないのを第一とする動き"が必要になってくる(このあたりは佐藤が抜群に気遣い上手で、横山・ルカオの2トップとともに出番が増えてきたのも納得感がある)

ルカオや横山の動きを見てフォローに入る形に

・スタッツにも表れた効率の良さと精度の悪さ

スタッツ的にも2トップに自分で行かせるのを許容したのでシュート数は上がった一方で、外山や菊井、佐藤あたりが良い位置に走っていても自分で完結してしまうので崩しは正直で決まる確率は高くないというのがこの日見られた。結局、決勝点を決めたのも野々村・常田の精度の高い落とし→シュートまでの流れだったので、本来であれば得点まで決めなければフォローに入る選手も浮かばれないようにも思う。

シンプルにやりきれて、シュートまでいけるので流れ自体は悪くなく、変な失い方で相手に流れを持っていかれるということもそれほど多くなかったが、2人が疲れるにつれてそのサッカーが継続できなくなっていくのはこの試合でも見られた。

この試合では25本のシュートを打てたが、13分に常田のゴールで先制後、第5Q~第6Q(60~90分)ではシュート5本に。戦略的な部分もあったとは思うが、横山の疲労が明らかで攻守に渡り、ルカオの孤軍奮闘の色が強くなったのも否めない。

この日の横山には特にこれ以上のハードワークを強いるのは酷なところでもあり、この試合のように相手も高澤・前川・六平とフレッシュで個の質を持った選手を相手が投入してくる中で、山雅もここから勢いを落とさない、もっと言うともう1段階ギアを上げるには次なる攻撃カードが出てこなければ厳しいところはあると個人的には思う。

■時間軸的なメリット・デメリットも

・改善の兆しが見えた攻守の距離感

次にこの2人を軸として置いていく場合ならば、目の前のゲームだけではなく、今後の試合についてもメリット・デメリットは考えていかなければならない。

この試合でも見られたメリットは試合を重ねることで生まれる攻守の距離感の改善。

例えば、攻撃であれば前節はルカオ・横山ともに相手の最終ラインで張り付いて横並びしてしまって後ろからのパスを受けられる選手がいない、仮に受けられても相方がパスを受けられる位置にいないということが多かったところが、この日の試合は縦関係や衛星役になって"2トップとして"攻撃を仕掛けていくプレーが明らかに増加。

ユニット(グループ戦術)の部分までは今年はなんとか手を付けられている感じがするのとルカオ自身のサッカーIQの高さがあるのが大きいように思う。まだ2トップを組んだ試合が多くないことを伸びしろと考えると、ここから2試合、3試合と続けていけばさらに形になっていく可能性も考えられる。

2トップで連携の取れた攻撃するという形ができることで、"相手が後ろに重たくなって他の選手が生きてくる場面""彼ら自身も3人目以降を使う余裕"もでてくるはずなので、周りとの相乗効果も期待しつつ、この2トップを軸にしたサッカーの成熟に賭けるというのも残り13試合を戦う1つの手としてある。

また、ボランチへのケアが疎かになっていた守備面も2人でしっかりと受け渡しをしながら監視することが前節よりもできていた。ボランチを経由させず、最終ラインを使って外回りでボールを回させると"縦ずれ・横ずれのスライド"も間に合いやすくなり、主導権を持った守備が行いやすくなる。

縦ズレ・横ズレは実は2トップの守備でいかに限定できるかが鍵を握っているので、この2トップでも最低限守備をさせるという修正を目に見えて行えたのは好材料。今後も続けていきたい。

・不安要素は「カメレオンとのバランス」と「アクシデント」

ただ、不安要素としては横山・ルカオを生かす組み合わせということから逆算すると、使われる選手は徐々に絞られてくる。

「カメレオン」と表現してきた誰も置いていかない戦略は維持しにくくなる中でどう競争力・チーム全体のモチベーションを維持していくか?は課題になってくる。

もちろん、これまでの方針を見ると他に調子の良い前線の選手が出てくればその選手を起用するはずで、それに連動して後ろの組み合わせも増え、再び色んな選手が起用されていくだろう。ただこれまで以上に出てくるためのハードルが高くなる可能性は高いので、監督の心を動かすだけのこれまで以上のアピールは必要になる。

さらに誰が出てくるか分からないことによって対策が難しかったのは山雅の強みとしてあったので、それが出しにくく、戦い方の幅も狭まってしまうのは武器を1つなくしてしまうことにもつながるため、そこのデメリットとはうまく付き合っていきたい。

また、そうはいってもまだ約3か月あるので怪我などの不確定要も多い。
この2トップを軸にチームを作ろうとした時に、どちらかが離脱すると他の選手の調子に関わらず、後ろの構造ごと再び作り直す必要がある

残り数試合でルカオ・横山がいる前提のサッカーから作り直しになった場合、"勝ち点3を取るためには時間がなく、シンプルにやるしかないが横山もルカオもいない"という事態になるとなかなかかなり苦しい。

横山が代表で離脱する可能性もどんどん高まっているので、不測の事態が起こる前に次に控える選手たちが次々と台頭して、あわよくばこの2人に割って入るような活躍をすることを期待したい。

■原点に立ち返る勝利

さて、試合全体のレビューというより2トップを中心にした考察になってしまったが、3戦勝ち無しの土俵際での1戦で、再び今年のチームが目指している「縦選択」「縦ズレ・横ズレ」「相手の嫌がることをやり続ける」「シュートへの意識」などシーズンの最初の頃にやっていたことを再び確認できるような勝利だった。壊れた物を直すのは容易ではないのは去年痛感したので、内容面もまずは前向きに1歩を踏み出せたのではないか。

北九州戦はチーム戦術としては新しいことは特に何もしていないといっても過言ではないが、今一度足並みを揃えて原点に立ち返り、自分たちの良さや失いかけていた自信をひとまず取り戻せたように思う。

これでようやくアウェイ連戦が終わり、9月末までは5戦中4戦ホームゲームと文字通り地に足をついて戦うことができる。今シーズンの昇格を目指すならばここでビックウェーブを巻き起こしていきたいところ。

さらに多くの人が待ち望んだ(?)夏の補強第一弾も発表。

甲府から育成型で加入した有望株・中山陸。

高いパス精度とゲームに変化を加えるセンスを持ち、これまであまりいなかったシャドーやトップ下系の選手として前線を活性化していける選手。菊井と同じ立ち位置になりそうだが、同時に彼の負担を減らすこともできそうなので加入による相乗効果を期待したい。

まずは8月ラストのホーム讃岐戦。ここ最近は結果が出せていないが、走力と球際の強さにこだわって粘り強く戦い、サイドの崩しから長身FWに合わせる形を得意としている

特に開幕戦で点を取られたFW松本はJ3でも屈指のゴール前での力強さを持っているので、そうしたシンプルな強さに屈することなく、逆にそこを使うのを躊躇させるような展開に持っていくのが理想。そういう意味では「中盤の球際での奪い合い」や「シンプルな強さを持ったFWへのお膳立てをいかにできるか?」など似たテーマを持ってるとも言える。

せっかくの久々の勝利を無駄にしないためにも、声出し応援でさらに士気を高めていくためにもしっかりと結果・内容を見せていきたいところ。出場停止明けの住田や中山が加わっての化学反応も楽しんでいきたい。

END

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