山口戦レビュー~期待と不安の新シーズンの幕開け~
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新たなシーズンの開幕戦。
昨シーズンからお世話になっている方々、新たにこの記事を目にしてくださった方々、間違えて入ってきてしまった方々、まずはこの一文に辿り着いていただき感謝致します。昇格にむけて大挑戦を始めたチームとともに、自分自身も読んでくださる方の時間を無駄にすることのない良質な記事を書いていけるよう精進していこうと思います。改めてよろしくお願いします!
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いざ新シーズン!期待と不安のドロー決着
コロナの状況は収まるどころか、昨シーズンよりもさらにシビアになっている昨今。まずなにより開幕戦を無事迎えることができたことは何物にも代えがたい。Jリーグのある週末の充実感は改めて味わえた。
が、そう悠長なことも言ってられないのも今シーズンのJ2であり、松本山雅である。まだまだ開幕戦なので「新加入が多いので時間がかかる」というフォローもできるが、それを踏まえた上で……いや、むしろ「これだけの入れ替えをしないと目標達成は難しい」とあえて入れ替えた選手も多い訳であって、高く設定した目標とそれにむけた今オフの動向を考えた場合、"チームの完成度がまだまだな理由"にはなっても"勝ち点をとりこぼしていい理由"にはならないだろう。たとえ完成度は低くても最低限以上の勝ち点は拾っていかなければならない。
また、これだけ高い目標設定やこれまでとは違うサッカーを目指しているため、SNSでの声を見てもサポ内でのチームに対する視点は例年以上に多種多様。
チームのアプローチに対してもそうだし、この結果にも当然賛否両論があるのは必然であり、自分の中にも山口戦をどう捉えるか、「84」をどれだけ意識するのか、どちらともつかないような曖昧な感情は出てきている。決して一概にダメともこれでいいとも振り切ることのないようにできるだけ広く試合を振り返っていきたいと思う。
<個人的MOM>
MOM:圍謙太郎
開幕戦からビックセーブを連発し、昨季不安定だった飛び出しもこの試合では安定感を見せ、GK陣のレベルの高さを示す。無失点はDF陣の硬さというよりも圍個人の頑張りが大きかったように思う。
次点:前貴之、横山歩夢
・攻撃の時の的確な攻め上がり、守備でのスペース埋めなどクレバーな動きで攻守を機能させる。コンディション自体も悪くないように見えた。
・プロデビュー戦で最多シュートの4本を記録。まだまだ粗削りさはあったが、そこもまた今のチームにとっては魅力的だった。ここからは数字にもこだわっていきたい。
<戦評>
■昨季をベースにした先発
開幕スタメンは大方の予想通り352システムに。後ろの圍・大野橋内常田・佐藤セットは去年のまま。今年の新加入だと左の表原、IHの安東、FWの鈴木国が開幕スタメンを勝ち取り、去年からのメンバーが8人、新加入が3人という去年のメンバーをベースにした布陣となった。
対して、基本フォーメーションすらも情報があまり流れていなかった山口は蓋を開けてみると442の並びに。ちなみに新加入選手は関、澤井、渡部、石川、島屋、佐藤謙、高木大、草野の8人。島屋や高木大は帰ってきた選手なので全くの新加入とは言えないが去年からのメンバーという点では山雅とは真逆の3:8の内訳となった。
冒頭でも触れたように大量入れ替えがあったので山雅は1からのスタート感が強いが、去年からの違いは山口の方が多く「メンバー・監督の継続というアドバンテージ」がこの試合であったのは山雅側だったことには触れておきたい。
■キャンプでの取り組みが出た両者のビルドアップ
序盤はシーズンの初戦とあってお互い敵陣にボールを早めに送る攻撃が目立つ。形という形はどちらも作れなかったがこちらは中央が厚く、CBと中盤の回収役に3枚ずつ選手が割り当てられるため単純な蹴り合いでは分がある。スタッツ的にも前半15分までは保持率は五分、シュートも3-0でこちらが多く持ち込めたように試合を優位に進めていた。
・渡邉式ポジショナルプレーの入口に立つ山口
そこから徐々に山口の保持が増えてくる。まだ352の布陣とプレススピードに慣れていなかったのかパスがズレるなどのミスも多かったが、山雅もIHのプレスは自重気味で自分達からうまくハメたという形はほとんど作れなかった。
具体的に山口が見せたビルドアップは、保持時になると必ずと言っていいほど佐藤謙がCBに入るサリーダの形になり、安定したボール配球。
(しばらく島屋と高木の左右が逆です……)
これに対して、山雅は少なくとも最終ラインの佐藤謙からボールを奪うのはほぼほぼ諦め、左右のCBに出たところでプレスを開始。去年からの532ブロックで待ち受けてスペースの穴がないように管理、ミスが生じたところで奪取し、手数をかけずにカウンターで仕留めるという狙いはそこそこハマっていた。
山口側は自分たちのミスからのショートカウンターに一番失点の可能性を感じていたはずだが、5レーンに基づく位置取りは崩さず。距離感を取ることによる技術的なミスやパスコースに入るタイミングなど連携面のミスが起こる可能性は出てくるものの、去年までは悪い時間帯に選手の距離感がバラバラになっていた山口がこの試合では最後まで効果的な位置取りを保ち続け、最終的に山雅の前線の運動量を削った要因の1つにもなっていたように感じる。
・やりたい形は示した山雅
対して山雅。最終ラインからのビルドアップをじっくりと行う回数は決して多かったわけではないがキャンプで仕込んだのであろう、最終ラインに佐藤和が下りての4枚でのビルドアップに挑戦。
見えたメリットとしては最終ラインでの繋ぎの安定化、WBの押し上げ、パスルートの変化など……。これから戦っていくうちに効果的に使える日も恐らく来るだろう。
「こういう形がやりたいんだろうな」という今年の補強段階から見えていた狙いは1つ出そうとはしていた。
・相手を無視しては自己満ビルドアップにしかならない
ただし、この試合において効果的にビルドアップを行えていたかとそうではない。
実際にはほとんど保持時はうまくいかず、相手が向かってくることでやむなくボールを離し、ロングボールに頼ってしまうシーンが多く見られた。
もちろん開幕戦なので技術的なミスや連係ミスは仕方ない点ではあるが、そもそも4枚にすることで相手のDFを困らせることになっていたのか?という根本的な部分は致命的に欠けていた。
それどころか、こちらの最終ラインが4枚になることで山口の前線4枚は対面の相手が明確化。
本来山口のSBが見るのかSHが見るのかを惑わせられるはずの松本の両WBは高い位置を取ることで、SBが監視しやすくなり、実際昨シーズン見られたような佐藤和からのサイドへの散らしはほとんど見られず。
ミラーゲームのようなわざわざ相手が捕まえやすいような陣形に変えてしまったように思う⬇
もっというと大野・常田の位置が2トップが間に合わないような高めの位置取りをしていなかったことで、最終ライン4枚の繋ぎは山口の2トップだけで十分対応ができるようになっていたのも繋ぎがしんどくなった要因としてある。
これを見兼ねてか前が山口2トップの間に下りて4132のような形を作ろうとするも4バックでのボール回しが上手くいかないため、結局前線に放ることになり、かえってセカンド回収の人数が減ってしまうというケースもちらほら。
もちろん1つ上の項にも書いた通り、やりたいことを示したのはポジティブ要素である。が、攻撃を組み立てるのには相手がどう出てくるかに応じた形を取らなければ意味が無い。
キャンプでやった4枚での組み立てをやりたいがために相手を楽にしてしまっては自分よがりな可変ビルドアップと言われても仕方なく、この試合ではCBの繋ぎ・運ぶ技術以前に「何のための可変なのか?」「何のためのビルドアップなのか?」という根底の部分は開幕戦ということは関係なく、疑問に残ったままだった。
■532を崩す山口の狙い
そして、時間が進むにつれて山口側の"対山雅の532崩し"の狙いが見えてくる。
1つはCBからのフィード。
相手のCB3枚に対してこちらは2トップで追走していたので特に両脇の楠本・渡部のところからはフリーでフィードを放つことができていた。
あるサイトのデータによると、右CB楠本の縦方向への"成功した平均パス距離"はなんと30m以上という設定しているMAXの数値を記録。前線へのロングボールをかなりの確率で成功させていたことが分かる。
もちろん楠本のキックの質がそれだけ素晴らしいというのもあるのだが、その先の2トップの抜け出しがこちらのCB陣を困らせた。
山雅の3CBはHV(左右CB)が前に出ての潰し、強力な相手CFとの対"個"の対応には昨年から手応えを得ているものの、選手間に侵入され分断されるとまだまだ弱い。
元々渡邉晋監督はCB間にFWをポジション取りをさせ、その間を抜け出させることを重視させることもあってこの動きは仕込んできていた。
高さがない相手に対してロングボールからピンチを招くシーンが何度か発生し、いわゆる"事故りそうになる"シーンも少なくなかった。
相手に持たせてショートカウンターを仕掛けたかった山雅にとってはこのロングボールが収まると中盤3枚も下がらざるを得ず、文字通りひっくり返される展開となる。
もう1つはハーフスペースのIH、HV裏のスペース。
右サイドは主にSHの島屋(池上)がボールを散らしながら常にIHの後ろを狙い、
左はSH高木が外に出たところを左SBの石川がインナーラップするなど
試合を通してとにかくIH(前・安東)が振り回されてしまった感がある。
このポジションで山口側がボールを持つとHV(大野・常田)がそこを潰しに行くので次はそこのスペースが空いたところを誰かが走りこんで……と狙いははっきりしていた。
そして2トップ(草野・高井)はサイドに流れることはあまりなく、それ以外の選手がスペースに走りこむことが多かった。そうなると付いていくのは532の3(前・安東・佐藤)になるので余計に運動量を消費&前線へのフォローの減少に繋がっていたように感じる。
■堂々たるデビューと横山に頼るサッカーへ
・規格外の新星・横山歩夢
そうした状況を受けて後半の早々に動く。今更多くを語るまでもないとは思うが、この日の横山のインパクトは大きかった。
一番ゴールの予感させるプレイヤーだっただけではなく、あまり見られなかったサイドチェンジを試みたのもこの横山。誰よりも開幕戦の固さを感じさせなかった男と言ってもいいだろう。山雅サポにとっては大きな希望となった。
と同時に前線と後ろを繋ぐのに効果的な動きをしていた鈴木国から裏への動きを繰り返す横山に変えたことで、チームとしては前線と後ろの乖離は顕著に。IHは消耗して攻撃でのフォローも苦しい状況だったため、阪野と横山で攻撃の時間を作らなければいけない状況になってしまう。
それだけの大きな期待と信頼感を得ているという表れともいえるが、それこそムバッペのように独力で相手のDFをぶち抜き、ラインを戦況をひっくり返すような働きを求められるなら彼に設けられるハードルも高くなる。勝ち点84を取りに行くならなおさら求められるものは大きくなっていきそう。
・押し込まれた状態で正しい交代策だったのか
横山の投入のタイミングがハマっていなかったことについては数字にも表れている。
後半13分に横山・外山とスピードのある2人を投入したが、なかなかボールを奪うことはできず。奪ってもすぐに奪われるという時間が続き、山雅がシュートを放つ27分までに実に14分かかっており、流れを変えるのに効果的な交代だったとは言い難い。
横山が作ったチャンスももう1人2人追い越す選手が出てくれば……ともったいなさも感じた。
個人的には疲労の色が濃かったIHのところに平川や小手川を投入する、もしくはその2人の守備に不安があるのならば鈴木国の代わりにIHの助けになれる小手川をFWの一角に置くのが流れを変えるのに理にかなっているように思う。
もちろん後から言うのは簡単で、怪我でベンチに入れられなかった選手もいるかもしれない。あくまでこちら側から見た感想に過ぎないが、昨年からベンチワークには課題を抱えるのでここはこれから改善していきたい。
・キャンプ疲れがあったならば……
そして個人的にこの試合で最も疑問が残ったのは「体力的な疲れ、精神的な疲れ」という監督コメントである。
確かにコメント通り、コンディションは整っているとは思えなかった。気温の部分や想定しているよりも相手にボールを回されてしまったという部分もあったかもしれない。
「試合前に大風呂敷を広げたなら100歩譲ってそうだとしても試合後すぐにそれを言い出すのは無しなのでは……」という率直な感想は意地悪でもあるので置いておくとして、仮にコンディションの面で不安があるならば前がかりな交代カードだけではなく、その想定でベンチも組んでおくべきではないかと今後に向けての課題としてあげておきたい。
チームが身体が動けていない状態だった場合でもずっとイケイケで試合を勧められるほどJ2は甘くない。後ろに重くなって2トップが孤立してしまう、サイドも高い位置を取れないという今回の山口戦のような状況は正直十分考えられるシチュエーションなので、「(IHで平川や小手川を投入するのに不安がある場合は)戸島や榎本など前線で時間を作るのに長けている選手を入れる」「3421にして経由地を作る」など劣勢になった時を想定した策はいくつか持っておくべきであった。
結果的に山口に押し込まれた状態で、交代カードはドリブラーばかり、CBに投入してわずか9分の下川を回さなければならないというあべこべな采配になってしまっていたので、どこか窮屈さを感じるベンチワークになっていたように思う。
■勝ち点1を次に生かす
そうして後半はほぼ山口の時間でゲームは進み、終盤のナイスジャッジなどもありつつ、最終的には勝ち点1を持ち帰ることに成功した。ここまではマイナスな話ばかりになってしまったが、そうしたアウェイ試合で勝ち点1を取れたのはポジティブに捉えたい。
横山だけではなく、鈴木国友、表原、安東ら新加入組も持ち味を発揮するシーンは随所に見られ、山雅の新たな武器として力を発揮してくれそうな可能性は大いに感じられた。
もちろん「勝ち点84、84得点」という目標を考えた場合……そうでなくても昇格を考えると内容的には物足りなさも感じるが、来週にはもうアウェイ京都戦がやってくる。
今の状態からどう改善していくのかは試合後のコメントからははっきり言って全く汲み取ることはできなかったが、「コンディション」に問題を抱えているのならばその部分は1週間でどうこうなる問題ではない。
「最終的にどうなりたいか」だけではなく、「今のチーム状態でどういうサッカーをしていくのがベストなのか」もこの試合から考えて最適解を打ち出すことで勝ち点を拾っていかなければ目標には届かなくなってしまう。
今はまだ苦しい時期なのは間違いないが、どんな形・内容であれ、前評判の高い京都を下せば風向きは変わるはず。
ここで強敵が相手となることをプラスに変えて今季初勝利をものにしたい。
END
(画像は松本山雅公式より)