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沼津戦レビュー~呪縛の先に成長あり!?~

4勝1敗1分、前日の結果により暫定5位で迎えた3度目のホーム戦。
アウェイでは4戦全勝なだけにホーム3連戦の頭でいい加減(?)勝利が欲しいところだったが、大勢のサポが見守る中、結果は無失点というおまけ付きの1-0勝利。

開幕2連敗の後、直近で3勝1敗と上り調子だった沼津からしっかりと勝ち点3を掴み取った。さらにこの結果によって順位表でも首位に浮上。まだまだリーグ戦は長く油断もならないが、この勢いのまま、序盤戦を突っ走っていきたい。

<両者のフォーメーション>

・松本山雅

スタメンは変更なし。

GKはビクトル。DFは左から下川・常田・大野・前。
ビクトル、下川は開幕から6試合フル出場。常田がその後を追う。

中盤、DHは住田・パウリーニョが続けてコンビを組む。右に菊井・左に佐藤も継続。

FWは代表合宿帰りの横山が早速スタメンに。小松と2トップを組む。

ベンチには安田・外山に代わって、今シーズン初のメンバー入りの吉田、4試合ぶりに米原がメンバー復帰した。

・アスルクラロ沼津

メンバーは前節から2人変更。
左WGで瓜生→鈴木、IHで鬼島(負傷)→徳永。

直近の天皇杯からは2人変更。
GKで三井→野村、左WGブイゴックロン→IH徳永(鈴木がIHからWGに)。

離脱者が多発しており、それほどメンバーを変えずに連戦を戦っている。

<記録>

・ゴール数

6:横山
3:外山
2:小松、住田
1:常田、榎本

・アシスト数

2:常田、菊井
1:ルカオ、佐藤、住田、濱名

・累積

2:村越
1:佐藤、米原、パウリーニョ、住田、前、浜崎、宮部

<戦評>

■仕組んできた沼津対策

・共有された狙いどころ

序盤15分でスコアが動きやすい傾向のある沼津に対して、まずはリスクを回避して失点しないことを重視するか思い切って繋いでプレスを剥がしていくか。試合の最初のポイントになると個人的にはあげていたが、この試合の分岐点はコイントスから始まっていた。

まずはこの勝負を取った山雅は迷いなく風下を選択。序盤はリスク回避の前者の入り方で、セーフティに相手の手前で止まるようなボールを狙って入れていく。

ただ闇雲に蹴っていたかと言われるとそういうわけでもなく、これまでのように中に絞った菊井や佐藤、もしくは小松が相手のアンカー脇を狙い、幅を取ったSBに展開する形で序盤の戦いを優位に進めていく。

そして、だいたい15分(第1Q)を過ぎたあたりから山雅は最終ラインからラフなボールを蹴るのを辞めて、試合をおちつけることに。

この時、沼津は徳永をあげて4-4-2で構える。

附木×→篠崎〇

このままではミラーゲームになり、2枚のFWが山雅の2ボランチを背中で見ながらプレスをかけることができてしまうが、当然ここは想定内。

住田がボールを受けて後ろは3枚の形を作りつつ、SHがアンカー(ボランチ)脇を狙い、ビルドアップの逃げ道として下りてきて、ボールを前進させる⇩

附木×→篠崎〇

沼津が得意とするハイプレスに対しての保持は4バック時は比較的スムーズに展開できていたと思う

そして、相手が密集を作ってスペースを埋めようとしてきたあたりから、もうひとつの狙いとして常田・住田のレフティコンビを中心に、逆のSB・前への展開は何度か見られた。

附木×→篠崎〇

これは風も含めた不安定なピッチコンディションによってうまくつながらなかったが、名波監督も「分散」という言葉を使っているように、3バックにしろ、4バックにしろ、サイドのレーンにいる選手の立ち位置は常に意識されていたように思う

・同時に抱えていた問題点

ただ、沼津も同様に山雅対策を行ってきた。
山雅が守備で抱えた1つ目の問題点は「SBへの対応」。山雅の4-4-2は守備時も4-2-2-2のような形になりがちで中締めを重視するあまり、サイドは薄くなりがちな傾向にある。

それでも十分間に合っていたし、ハメれるようなシーンはあった。この試合ではそれほど大きな問題にならなそうだったが、サイドバックに持たれた際にFWのどちらかが監視するはずのアンカーが空いてしまうような場面が何度か見られ、そこから逆に展開されると密集は意味をなさない。片方のサイドに圧縮してる分、スライドが間に合わないというシーンは改善が必要だと感じた⇩

さらにもうひとつはIHの抜け出しに構造上対応しにくいこと。SBにもたれ出すとそれが顕著になっていく。山雅の対応はマンツーマンではなかったので、CB-SB間にIHが抜けられると誰にも受け渡せないという状況が生まれやすい

相手の精度に助けられたり、出された先で対応はできていたが、ひとつの岐路になりかねないような展開になっていた。

■システム変更は突然に

・なぜそこに下川

しかし、この日はベンチの動きが目に見えて早かった。

この試合のターニングポイントとなったのは前半のポジション変更。映像を見返すと20分頃から菊井から指示を出し始め、23分、ボール回しをしている最中に突然下川が左WBの位置から右に大移動を始めている(常田のこの試合最大の凡ミスもミスはミスなのだがオンプレー中に左隣の下川が突然いなくなり、パスコースが中しかなかったのでただの凡ミスと見られるのは少し気の毒な気もした笑)。

「なぜそこに下川が!?」と思った人が多かったのも無理はない(自分もそうだった笑)。これまでもスライドによる配置変更、俗にいう「可変」はあったのだが、まさかの「大胆なシステム変更」に出た

俯瞰で見てても混乱しそうだったことを考えると、相手が山雅の配置を掴むのに時間がかかったのは想像に容易い。特に右の下川がボールを持ち出すとSBが突然2人に増えたような状態になっていたため、ハイプレスをかけたい沼津の「行くのか?行かないのか?」の判断を鈍らせていた

さらにこのシステム変更によって生まれた下川の持ち出しの流れから横山の先制点も生まれる。この大転換による得点をチームがどれだけ狙っていたかは定かではないが、相手の配置転換によって後手を踏むことが歴史的にも多かった山雅がチームが、逆に手数の多さを見せて先制点を奪うことができたのは1つ成果が出たと言っても過言ではないかもしれない

・守備の改善には成功

ただ攻撃面より意図としてあったのは先ほどの項目にも上げた守備の問題点の部分

システム変更により、これまでFWが見ていたアンカーの濱に対しては菊井が監視するシーンが増え、SHが後追いしていた相手のSBに対してはWBが縦ずれで対応するようになる

裏にIHが抜け出してきても大野や左右CBが受け取ることができるので前半システム変更以降は組織として混乱するようなことはなかった。大胆ではあったが前半の守備を安定させる修正・仕込みとしてはかなり好手だったと感じる。

・3つ目のシステムへ

そして、前半終わり際からは再びベンチと中の選手とのコミュニケーションで3-5-2へと2度目のシステム変更。

相手にボールを持たせる代わりに、菊井がマンマークしていたアンカー・濱のマークを再びFWに任せ、中盤・最終ラインに厚みを持たせることに。最終ラインだけではなく、中盤でも数的優位を作ることで球際・セカンド回収の面でも有利に試合を運ぶことができた。

■苦戦の要因とシンプルだった解決策

・守備はFWから始まっている

後半も追い風の山雅が序盤は攻勢をかけていく。
48分の下川のインスイングのクロスから菊井・横山と飛び込んでいったシーンや50分のCKで小松のヘッドがクロスバーを叩いたシーン、51分佐藤和の反転から住田の鋭いアーリークロス、53分CKからのパウリーニョのミドルなどボックス内外からであわや1点と言うような攻撃を繰り返すことができており、「ここで1点取れてればもっと楽だった……」という点は大きな課題としてあげたい

そして、試合が怪しくなってきたのは60分(第5Q)少し前あたりから。
前線の2枚が相手の2CB+アンカーに完全に剥がされて、左CBに運ばれてしまうというシーンが象徴的で、横スライドで対応していた3ボランチのうちの1枚が1列前に出て対応しなければいけない&最終ラインも縦ずれをする時間がないために、IH1枚(特に菊井)で2人、3人に対応しなければいけないという4バックの時と同じような問題が発生してしまう⇩

結果、相手に運ばれるのはある程度許容するしかなくなり、後ろに重くなってしまうという悪循環が生まれた。

この状況を打破しようと、この後投入された吉田が無理やり縦ずれを試みるも組織として物理的に間に合っておらず、相手は余裕をもってボールを回せていた。体力は有り余ってた吉田ですら間に合わなそうだったのでやはり2トップで行く場合は「最低限前線のフィルターがかかっていないと後ろがしわ寄せを食らって剥がされるor後ろに重くなる」というのがうまく行ってない時の共通の問題だったと感じる(布体制の時もあったような気がするが……)。

・シンプルだった改善策

一応、代表帰りの横山、前半のプレーで痛めていた小松という2人なのでこの時間で動きが鈍くなっていたのは仕方ない気もするが、その問題点に対してのベンチの動きも今日は早かった。

2トップを両方ベンチに下げて、榎本・村越の2枚を投入。名波監督就任からこれまで、出来に満足していなそうな様子でもFWの2枚替えというのは行っていない(多分)のでそういう意味でも思い切った交代だった。

それまではアンカーを使われて最短距離で展開されることが多かったところで……⇩

攻守にアグレッシブだった榎本・村越の投入により、カウンターの勢いが出たのはもちろん、積極的なプレスによって相手のボール回しもより外回りになっていき、SBに対して縦ずれで対応できるようになっていく

高いラインを取り戻してからは、榎本のキープや嫌がらせのような村越のプレスなどで相手の時間を作らせないような試合運びに成功。結局最後の6Qは相手に1本もシュートを許さずに試合終了。

■無失点がもたらすものに期待

お互いに満足はいかないという試合内容で、どちらかが格段に良かったかと言われるとそうでもなかったというのが率直な感想だが、それでも"準備してきたシステム変更がスムーズに行えたこと"や"一度後ろに重くなってしまったところから再び押し返せたこと"など苦しいながら収穫もあったと感じる。

また、代表帰りの横山がまたひとつ格をあげるような活躍をしたり、吉田や村越といった新たな戦力が奮起したりと個人に焦点を当てても今後が楽しみになるような点も多かった。

そして、何より「無失点勝利」という去年からの宿題、呪縛と言ってもいいような悪い流れをこれでクリアにしたことでまた1つチームも選手も前に進めたらと強く願っている

次節以降、北九州・長野とホーム連戦が続くが、ここでもしっかりと勝利して「アルウィンでの強さ」を再び取り戻し、確かなものにしていきたい。

END

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