『百合のスケバン、足立区地獄変』

「だからァ!処女膜から声が出てねェっつってんのよバーカ!」
誰かがあたしを嘲り、ゲラゲラと笑い声が響いた。足立区土着の、舎人スケバンは全員処女だという。だからなんだ。あたしは震えている男の子の肩を抱いて、連中を睨み返す。
「なんだィ、嵐、相変わらず品のねえ連中じゃないかィ」
濃紺のセーラー服を婀娜に着こなし、胸元にちらりと覗く真っ白な晒し。目尻に少しだけ紅を引いた崑崙山柊子はあたしを呼んで斜めに構える。
あたしは勇気を振り絞り、片方残った足で立ちあがった。折られた義足はまた作ればいい。ここは足立区だ。自分の足で立ってらんないようなのは百合スケバンどころか、女でだっていられない。

「どうせ一代限り、おんなじ里で一緒に滅びを待つ身じゃねえか。どうして仲良くできねえんだ」
「いいからそいつを渡しな!そのガキンチョに、たっぷりヤオイ穴開けてやるんだからよォ!」
「話し合いで分からねえなら仕方ねえ、嵐、やるよ」
「承知!」

姐御があたしの手を取り、ぐっと抱き寄せる。その胸元の匕首は晒しの隙間からあたしの唇、左手、最後に義足のアタッチメントに収まり、回転するあたしたちがひとつの独楽になった。
繋いだ両の手の必殺刃、百合大旋風が舎人スケバン達を切り裂き、一人残らずツンツルテンのミニスカートに仕上げてやった。さっきの威勢はどこへやら、メソメソ泣いてやがるがザマアミロだ。

「あたしらの安息の地だっていうからはるばる来てみりゃ、なんでィ、足立区、治安悪すぎじゃねぇか、なあ」

あたしは返事をしない。薄々分かっていたことだった。政府はあたしたちの幸せのためにここを用意したんじゃない。あたしたちが殺し合い、この街と一緒に滅亡することを望んで放り込んだのだ。

この時はまだ、あたしはようやく見つけた捕獲対象の男の子、山吹正太郎くんを政府に引き渡すことに少しも迷ってはいなかった。
【続く】

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