「思考」するときの落とし穴の話

こちらに端を発してやってます。思考には割と「穴」があるよねということに気付くきっかけとして、面白がってもらえたらなあという話です。
発端としては「明らかにそれ無理あるだろ」とか、「ちょっと考えたらダメだってわかるのになんでやっちゃうのキミ」というようなアレを目にしたことが発端ですね。

まあ発端の話はおいておきましょう。
今回のワークショップは人間の推理がどのように進むかというところからスタートします。
もちろんですが、これは「この質問の仕方は賢くない」というのを指摘することを目的としているのではなく、人間の自然な思考には「傾向」があるということを再認識してもらうためのものです。
そんなわけで今回、参加してくれた皆様ありがとうございました。

では、ここであげた「1-3-6」という数列、どんなふうに考えますか?

シンプルには、最初に2個増え、次に3個増えてます。
ということは次、4個増えるかもしれませんね。
このルールに乗っ取ると、最初の数が105だった場合、「105-107-110」になるかもしれません。

あるいは、三倍され、六倍されるという可能性もあります。
そうなると最初の数が8だった場合「8-24-48」になるかもしれません。

三倍され、次に二倍されているという見方もできます。
こうなると、最初の数が5だった場合、「5-15-30」というのもあり得ます。

パズルが好きなひとなんかは、凝った作り方をしているに違いないと思って、「前の数の和と前の数との差を足す」と考えるかもしれません。一つ目と二つ目の数字は任意で、その二つの数字が決定した時点で自動的に三つ目が決定するという考え方です。こうなると最初の数が21で次の数が23だった場合「21-23-46」になるというのも十分ありうる話です。

一般には、このクイズを出された人は「自分で仮定したルール」に沿った数列を出題者に問いかけます。これは普通のことです。
そして出題者から「合致してます」という答えを受け取り、手ごたえを感じます。
回答者はもう一つサンプルを提示し、「合致してます」を受け取って
そしてそれを十分に繰り返した後、法則はこれに違いない、と「解答」のステップに進むわけですね。

ですが、ほとんどの場合思いついた法則は「間違い」です。
(n、n+2、n+3)
(n、n*3、n*6)
(n、n*3*1、n*3*2)
(n、m、(n+m)+(m-n))
どれも、出題者が想定した法則からは外れています。

これがクイズ講座なら、ではどんな法則だったのでしょう、というステップに進みがちなのですが、この思考トレーニングは法則を導き出すためのゲームではないんですね。
これは「どのように質問するか」という話なんです。

わたしが回答者の行動のどこに注目しているかというと「該当しません」という反応を狙って試行しているかという部分を見ています。
逆に言うと、自分の考えた法則に沿った例を何万個積み重ねたとしても、それは実は「考えが正しかった」ということを保障してくれないという話です。

上記の4つのどれかみたいなルールだと仮定したら、あえて、そのルールに外れている数字で問いかけてみるんです。
「4-12-48」。
返ってくるのが「合致しません」であることは、「合致します」よりも情報が多いんですね。「問いかけた数列が法則に合致する」ということは法則を推測するうえで、正しさを何ひとつ保証しません。

ただ、先ほどの「4-12-48」の答えは「合致します」です。

大抵の人はここで混乱します。嘘でしょ?合致するはずないじゃん。
これが面白いとこですね。

そしてもう一度考え直し、うまく別の法則を見つけ、再び問いかけます。
とまあ、そんな感じでこのトレーニングは進んでいくんですが、絶対に合致しないだろう、というものに対しては割と「合致しません」が返ってくるのに対して、基本的にはほとんどの数列に対して「合致します」という答えが返ってきます。

何度か「嘘だ!」「そんなはずない」「えええ?」などのプロセスを経て、やがて細かいヒントなんかによって最終的にはたどり着き、これが「面白いクイズ」ではなかったことを理解して、なるほどね、と釈然としない顔になる人がほとんどです。

なぜか。
この問題が想定していた法則は「左の数字より増えてゆく」というきわめてシンプルな法則だからです。

思考するうえで色んなケースを想定することは大事なことですが、「あなたは正しい」という答えが返ってくることに安心してはいけない、という話でした。
ひとは自分が「正しい」と信じることを疑うことがとても苦手です。

こんな施策を考えたんだけど、の先には「こういうケースでは素晴らしく機能します」「このケースではこんなひとを救います」、一方、機能不全を起こすであろうケースには目を向けないんですね。最近、そういう法令とか提言、結構見ますよね。

いわゆる「考える」ということにも実は訓練がいるというか、簡単なステップを踏むだけで結構変わるんよなというのを実感してもらえると幸いです。

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