革命は正しい思想から


不穏分子からの逆流汚染を嫌って、思想再教育キャンプの2階層以深には、職員が生身で立ち入ることが禁止されている。
つまり、この手作りサウナには誰も来ない。

「おいエリス!!バカ、てめえ!」

おれはクソ女の襟首をつかんで揺さぶった。気付くと理三郎が息をしていなかった。

「ロボット三原則知らねえのか!やりすぎだ!」
「わたしはロボットではありません」
「アンドロイドでも一緒だ!バカ!心臓マッサージしろ、AED機能ついてねえのか!」
「テーザーアクションならできますが気が進みませんね」
「いいからやれ!」

今、理三郎に死なれると厄介なことになる。このクソ暑いサウナから出る電子鍵はやつの脳みその中だ。エリスがつまらなそうな顔をしてやつの胸に手を置くと、ぐったりしていた理三郎の身体が瞬時に背骨を折られた海老みたいにのけ反った。飛び散る汗とアーク放電が見える。

「加減しろ!クソバカ!」

エリスの頭を手桶でぶん殴ったが遅かった。完全に理三郎は死んだ。焦げ臭いにおいがする。

「クソッ、クソッ」

おれは狭いサウナの中を歩き回る。どうにかして別の方法を考えなければならない。クソッタレのアンドロイド、全裸のおれ、死体。厄介な"再教育スヌーズ"を止めるために、脳味噌自体を限界まで加熱するというアイデアは良かった。良かったはずだ。
ふと、何かの振動音が聞こえる。耳を澄ませるとそれは理三郎の下腹部からだった。リズミカルな振動音。

「ピンクローターでしょうか」
「バカ、携帯電話だ!」

おれは理三郎の臍に耳を当てた。ケツの穴をまさぐる時間はない。腹を思い切り殴ると、うまく通話が始まったようだ。やつの腸内からくぐもった女の声が聞こえる。

「……聞こえているかい、グリッター」

腸壁越しでも聞き間違える筈はなかった。その声は第六層に幽閉されているシスター・ヨーグルトソース。嬉しくなって俺は叫んだ。

「おれだ、聞こえるか?社会復帰の時間だぞ、シスター!」

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