『いつか、龍を背負う』
「ここまでの話をまとめるとさ。泥棒はそこのハゲの人か、ハゲのいつメンってことでいいんだよね」
耳打ちのつもりだったのだろうが、部屋中に丸聞こえの声量でおれに話しかけたのがミカ、三果五峰寺太夫だ。
犯人は中国マフィアだということにして片比良木の面子を守り、立場と恫喝でおれたちを黙らせようという、苦狭間の思惑がパァだった。
本来、驪珠の在処さえわかればよかった。最低限の目的は果たしていたのに、残念なこいつの声は、メチャクチャ、通る。
おれは腹を括った。
「決めつけるな。皆、立場がある。あとアレはハゲじゃなくてオシャレだ。剃ってる」
「そっか!?ごめん!アッハ!」
寸毫の思考を挟んだとも思えない、心も一切こもっていない、ただしクソみたいにデカいバカの声量に、耳がくゎんと鳴る。
浅黒い肌、長い黒髪を片側で結った姿は、慣れたおれたちでさえ「龍」だとは受け入れ難いものがある。とはいえ、三果五峰寺太夫は正真正銘の黒龍だ。龍は六百余年の眠りから醒め、僅か数日で現代の言語体系と文化・文明に適応した。そもそも龍神は水神、基本的には女性形の姿を取るものであり、財貨宝石を好む。
鱗もなく知恵も劣る人類を積極的に愛でるその性質に最もふさわしい現代での依代が「ヤクザにも優しいギャル」なんだそうだ。
そういうわけで龍は小娘に化けた。ミカってよんでいいよ、じゃねえ。
当然、ハゲが吠える。
「なんじゃ餓鬼コラァ」
「あたしのピアス、驪竜頷下の珠。ヤクザくんたち、価値わかんないでしょ」
「誰が泥棒じゃコラァ」
「アレ、あたしが持ってないとヤバいんだよ。横取りしにいかついのが来」
言い終わる前に障子ごと、ハゲが前のめりに吹き飛んだ。明らかな襲撃だ。
土煙の中、ミカが倒れたハゲを担いだ。世界に戦争を引き起こす龍の秘宝、驪珠。ヤクザだって戦争は嫌いだ。止められるなら止めたい。
おれたちはハゲを拉致して海へ向かう。
(続く)
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