逆噴射小説大賞2022 ライナーノーツ

はじめましての方はじめまして、こんにちはの方こんにちは。
諸兄のインターネットを豊かにする、でおなじみの白蔵主天狗です。

ついに逆噴射小説大賞も佳境、募集期間が終わって結果発表までわちゃわちゃするフェイズに入りましたね。わたくしは今年で参加が3度め。
各回、それなりに記憶には残っていられるんじゃないかなとは思いつつも、まだ一度も異国のビール飲めてないので、今年こそいけないかなって思ってます。

そんなわけで今回のライナーノーツです。

ひとつめ。

これは割合あっさり出来ました。

確か、素振りも含めて電車に乗って往復、2時間くらいじゃないかな。電車内で書くのはかどります。すごくオススメ。
ともあれレシピとしては、パルプとしては相性が悪いであろう「母」について書こうという気持ちでした。相性がよくない、難しいテーマというのは、誰もやってないってことよ、という話。虎ならそういうのに挑んだ方がかっこいいじゃろ。
ちなみに「母」についてといえば去年も、こんなの書いてます。

去年のこの作はだいぶいいんだけど、800字の中で、「次」に具体的に牽引する未解決が起きてないんですよね。なのでこれ、一次選考で落ちたんだと思ってます。レギュレーションでのミス。「次が読みたくなる」というのは、多くの人にとっての「こんなん、みんな好きだろ」を提示するのではなく、興味がなかった人も引き込み、この先どうなるんだろうってポイントを具体的に見せることなんだろうなあ、と思います。
しかし今読み返すと大分、「子供」のキャラクター造形がかぶってるじゃんね。今気づきました。でも別に同じ世界線の話じゃないです。

ともあれ。今回の「でも違うじゃん、偽物じゃん、とあなたは子供みたいに」については、ちょっとこねくりましたがシンプルに出来上がりました。
最初に書いたのはまさに冒頭「でもおれ、誘拐されてんだもんな。ウケる」。今回はこれだけ書いてわたしの仕事は終わったようなものでした。
時々、そういう仕事があります。以前書いた「隣人とお茶請け」なんかもタイトルを書いた時点で仕事が終わったな、という感覚がありました。

このところ、いわゆる「親のアクセサリー」として使われてしまう高知能の子供たち、いわゆるギフテッドチルドレンのかわいそうな面のことをよく考えていました。
知能が高くても、年相応に子供の部分を持っている。そういう存在に対してわたしたちは何ができるか。わたしなどは根が暴力的なので、彼ら彼女らに対して「適切に、捨てるべきであれば親を捨てよ」ということを迫ってしまいたくなるのですが、それは大人の論理なんですよね。親を捨てるというのは、「大人」にならなければできないことなんだと思います。

そんなこんなで、作中の「わたし」はおそらく、なんかの思惑をもって隼人を誘拐します。その思惑の中には、「こんな親子関係がいいはずない」みたいな青臭いものもあるし、彼の母親との敵対もありそう。
どちらかというと、この後の展開のことばかり考えながら書いてました。

Twitterなんかでもポロポロ書きましたが、隼人くんは計算ずくで話をすることが多いです。ただ、子供らしく前後を考えないで発言することもあり、余裕がないときもあり、そういうときには話しはじめに「でも」をつける癖があります。
これは冒頭の台詞でいえば「みんなおれのことを天才とかいうけどさ、でも」みたいなのが無意識のうちにあります。頭の中でいくつか候補を考えて、「でも」ってそこから掬い取って話し始めるみたいな感じ。
ちゃんと考えてから話すときは「でも」ってなんの逆接だよ、というセルフツッコミが機能するのであんまり出しません。

つまり、タイトルになっている「でも、違うじゃん、偽物じゃん」は彼の台詞です。このシーンを想像すると切ない。彼が何に対して、高知能の仮面をかぶらず「でも違うじゃん、偽物じゃん」って子供みたいに言うのかを考えるとまだ書いてないですがちょっと切ないです。

作中の話に戻ると、ヤクザがトランクに居てガツンってやってるのは無から出ました。このヤクザが生還するのかこのまま殺されるのか、殺されるとしたらどんな風に誰に殺されるのか、決めてません。
未来の自分が考えたら絶対面白いように進めるだろという信頼があります。

ふたつめ。

これは難産でした。

今回は「難しい題材で行く」というテーマが自分の中にあって、断然「笑い」で行こうというのがありました。それも、掛け合いの奇矯さとかそういうのではなく、構造的に、笑ってはいけないんだけどちょっと笑っちゃうよねみたいなやつ。
あと、勢いとノリで「エルフを出す」というのと「エロを取り入れる(ど下ネタでいく)」というのも自分で条件を足しました。なにしてくれてんのお前。

ぼんやりと、ただエルフがひぎぃって凌辱されるだけだと面白くない(逆噴射じゃないだろ)があって、最後のヒキのところだけ作りました。男は最後は願いを使って身を守るのか、温存するのか、みたいな分岐。だから一作目と作り方が逆です。
ぼんやり逆算して書いてみたらとにかく字数が足りない。2000字くらいになっちゃったのでワシワシ削りました。当初は異種婚譚に絡めて、エルフの入浴を狙って服盗んで、とかそういうのも入れてたんですが全部カット。エルフと生殖したいという人間側の事情が無から湧いて、対応してエルフ側も拒否したいんだけど強く拒否できない事情が湧いて、その時点でようやくある程度形になった感じです。
その時に出た感想は「よかった。ちゃんとエルフがカマ掘ろうとする動機が出来た」。小説書いてて、こんな感想抱くことある?

一週間かかった。

でもこれについてはちょっと悔いが残ってます。理詰めでやりすぎたせいで最も大事な「笑い」が抜け落ちた感があるのと、指摘されましたが確かにエルフを陵辱してない。文芸に限らず、細部の、遊びの部分にこそワンダーが宿るのよねということを、諸兄の作品を見ながら考えてます。

エルフの騎士は割と真面目で堅物で、ディルド操作なんかに習熟したくなかったとさめざめ泣くくだりを入れたかった。根が真面目だからいわゆるBL本を勉強して目覚めて、恋愛観がちょっとおかしくなるくだりも削りたくなかった。

そんなこんなでこれは、まあきちんと面白いんだけど二次選考通らんかもしれないなあ、というようなことを思います。下ネタ不利とか笑い不利とかのとこを暴力でねじ伏せたかった。

おわりに

総評としては、いつも通りわたしは虎だった。虎が鍛錬をするかね。そうさ。いつも通り、自分が面白いと思うことをして、自分が納得のいくものを仕上げた。
今回に関しては、前回の反省である「物語をちゃんと区切らない」ということを何よりも心がけた。この先どうなるんだろう、という強いヒキ。「あるやんけ、ヒキが!」と強く出られる物理的な記述。
面白さについては特に心配してない。僕が書くものがつまんないことなんかあるかよ。

ちなみにわたしは約束を必ず守る天狗で有名なんだけど、大賞取ったら必ず続きを書くよ。蘭之助と違って難解な方言みたいな懸念もない。二本とも受賞したら、ぶつくさ言いながら二本とも続きを書くよ。約束だ。

いいなと思ったら応援しよう!