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AIロボットスタートアップCloserに学ぶ、アクセラレーションプログラムの正しい使い方

アクセラレーションプログラムとは、スタートアップを短期間で事業成長させる取組です。
それぞれ主催する企業・機関の持つ資産やリソースを活用することから、アクセラレーションプログラムの目的や運営母体が、自らの事業の進むべき方向と一致しているか、個々に判断する必要があります。

スタートアップにとって、有益なプログラムの選び方や活用方法とは――。茨城県つくば市を拠点にAIロボットを開発するCloserの代表取締役 樋口翔太氏とHAX Tokyoディレクター市村慶信、岡島康憲によるトークセッションから紐解きます。

※本記事は2023年8月9日につくばスタートアップパークで開催したイベントの模様から、一部抜粋・要約したものです。


Closer創業から現在に至るまで

樋口氏:Closerは「ロボットを当たり前な選択肢に」というコンセプトの元、中小規模の工場や倉庫の作業を自動化するロボットパッケージを開発しています。自動車や電機・電子産業では自動化が進んでいる一方で、食品や化粧品など中小規模の工場では自動化が進んでいない現状があります。その背景には「スペースが確保できない」「少量多品種生産」「大型投資が難しい」という三つの課題があります。これらの課題を解決したのが当社のロボットです。

私が長岡高専を経て筑波大学大学院に進んだこともあり、オフィスは筑波大学発のスタートアップが入居する「産学リエゾン共同開発センター」に入居しています。

当初は安価にロボットを製造することを目的にロボットアームを開発していた時期がありました。その際につくば市の実証事業に採択されたのを機に、何度かのピボットを経て現在の事業に行き着いています。

岡島:創業期からここまでアクセラレーションプログラムを活用しているスタートアップも非常に珍しいと思います。その中でもCloserの良い点としては、NEDOや未踏アドバンスト、自治体の支援事業など開発資金が助成されるプロジェクトに、定期的に採択されていることです。

アクセラレーションプログラムの中身は千差万別で、壁打ちや座学にフォーカスするプログラムもあれば、NEDOのように開発資金を助成するプログラムもあります。採択される難易度は前者に比べると後者の方が高くなります。採択率の低いプログラムをパスできたのは、自分たちがやるべき事・目指す方向を、高い解像度でプレゼンテーションできたからだと思います。これまでを振り返って印象的なプログラムはありましたか?

樋口氏:創業間もない頃は事業の方向性を大きく左右する時期なので、どれも印象深いですね。とりわけ、全く何もない状況にも関わらず採択された「つくばSociety5.0」が無かったら、ここまで順調に事業を進められなかったと思います。

その当時、ロボットアームがコーヒーをいれる「ロボットカフェ」の実証実験をしていたのですが、構想中だったものを実際にやってみることで見えることが多々ありました。当初の目的としては、労力がかかる作業をロボットが代替することで、人間がやるべき仕事にフォーカスできるかという点と、実際にお客さんがコーヒーを買ってくれるのかという2点でした。

しかし、蓋を開けてみると、ロボットがコーヒーをいれるというパフォーマンスの部分に注目が集まりました。そこで自分たちが目指す方向性とのギャップを感じたので、ピボットを決意しました。

「参加したけど、何も得られなかった」を避けるために

岡島:プログラム期間中は、さまざまなメンターからのアドバイスや支援がありますよね。その中には参考になるものから、ならないものまであり、取捨選択する場面も多々あるかと思います。

樋口氏:事業について一番深く理解しているのは自分自身なので、メンターからの助言は半分信じて半分保留するというスタンスで進めていくのですが、後になって「あの時のアドバイスは当たっていたな」と気づかされる場面もあり、その都度軌道修正していました。

岡島:いい人過ぎると周りに振り回されてしまうし、我が強すぎると誰の意見も聞かずに、我が道を走って得られるものが無かったというケースも往々にしてある中で、樋口さんは非常にいいバランスを保っていたわけですね。

アクセラレーションプログラムの主な分類

市村:これまでの参加履歴を見ると、事業会社系のプログラムにも参加されていますが、行政や政府系のプログラムとは違う収穫があったのでしょうか?

樋口:創業当初はコロナ禍が始まったばかりで、ロボットが稼働する現場や工場への見学がなかなか実現しない時期がありました。実際にプログラムを通じて、工場に行くと前日と考え方が180度変わるような気づきがたくさんありました。また、PoCをメーカーと実施した経験は、次のステップに進むためのアピール材料になります。アクセラレーションプログラムへの参加を通じて実績を積み重ねることで、次のプログラムへの足がかりになったり、プログラム主催企業の同業他社やパートナー企業から声をかけられたりするケースもありますので、参加によって得られたものは多かったと思います。

市村:スタートアップ単体ではなかなか入れない現場に触れることができるというのは、メーカー系プログラムの利点ですね。現場の課題を知り、一緒に解決に取り組んで、次のステップに進みやすくなるというのは、スタートアップにとって大きなメリットになると思います。

自分にとって最適なプログラムを選ぶ基準


市村:アクセラレーションプログラムに応募する際、最も重視していたものは何ですか?

樋口:会社を存続させる意味でも開発資金が得られるプログラムには積極的に応募していましたが、全体を通じて重視していたのはプログラムの期間です。自分たちが目指している事に対して、プログラムの期間が合っていないと効果が得られないことがあります。

初期であれば、ビジネスモデルの方向性を決めるような支援が必要ですし、法人登記してからは顧客開拓につながる支援が必要になります。今であれば、ロボットをチューニングして現場で実証実験を行うことが目標になりますが、2〜3ヶ月のプログラムだと期間が短すぎます。自分たちの戦略と照らし合わせながら、中身と期間を確認して応募するのが重要だと思います。

市村:Closerのこれまでを振り返ると、法人登記前はビジネスの方向性を固めるためのプログラムに参加し、それ以降は開発資金が得られるものや、見込み顧客となる業界や開発資金が得られるものを組み合わせながら、事業を前進させています。その上で、さまざまなメンターからのアドバイスを半分は受け止め、半分は保留するというバランスを保ちながら、プログラムで得られた知見を血肉に変えている印象を持ちました。それぞれのプログラムに参加する上でのメリットやデメリットに対する理解も、短期間でかなり得られたのではないでしょうか。

樋口氏:事業会社系のプログラムは、その企業視点でのアドバイスになりやすい点は聞く側として意識しておきたい点だと思います。一方で開発資金が得られるプログラムは準備する書類の量が膨大なので、初めて応募する際は苦労するかもしれません。一度経験すると勘所が把握できますが、開発、営業、事務作業と頭を切り替えることだけでも、労力がかかりますので書類作業専門のアルバイトを雇うのもいいと思います。週に数日、1日あたり2〜3時間来てもらうだけでも、効果が実感できますよ。

岡島:最後にアクセラレーションプログラムの活用を考えているスタートアップに向けて、アドバイスをお願いします。

樋口氏:私の場合はタイミングにも恵まれつつ、さまざまなプログラムへの参加を通じて得られたものを消化して、事業を前進させることができました。これまでを振り返ると、自分の事業フェーズに合致したプログラムを選択することが、最も成長につながると思います。自分の目指している方向に向けて事業計画書を作成し、その書類を通じてプログラムに採択されることで、思った通りに進むというサイクルが実現すると、素晴らしい経験になると思います。

取材・文:越智岳人(シンツウシン)、写真提供:つくばスタートアップパーク


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