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RapidXは一生をかけて「火災ゼロ」に取り組む

HAX Tokyoではハードウェア/ディープテックを中心に、さまざまな組織形態のスタートアップを支援しています。数人で創業するスタートアップに限らず、大学発スタートアップや大企業内の新規事業プロジェクトなど、これまでもさまざまな支援事例をnoteに掲載しました。

本記事では副業として社会課題の解決に取り組むスタートアップ支援の事例を紹介します。RapidX(ラピッドエックス)はAIを活用した火災予兆検知システムの研究・開発に取り組むスタートアップです。創業者の正留世成(まさる・せな)氏とHAX Tokyoディレクター陣(市村慶信、岡島康憲)に創業の経緯からHAX Tokyoでの支援内容、今後の展望についてインタビューしました。

家族を亡くした事故から、火災ゼロを目指す

―まず、RapidXを立ち上げた経緯についてお聞かせください。

正留氏:2014年に広島の実家で火災が起き、弟を亡くしたことが起業するきっかけでした。事故の後、火災のことや亡くなった弟のことをずっと考えていて、「火災ゼロの世界を実現できないか」と考え始め、一番下の弟(正留世紀人氏)と2021年にRapidXを立ち上げました。

法人化する前年にDMM.make AKIBAの創業支援プログラムに採択され、AIやIoTを活用した火災報知システムの研究・開発がスタートしました。HAX Tokyoに採択されたのは法人1年目の頃ですね。その頃はデバイスの開発や市場選定、ビジネスモデルも確立していませんでした。HAX TokyoではDMM.make AKIBAの紹介で知ったのですが、ハードウェアスタートアップにフォーカスした支援プログラムだったこと、海外とのネットワークがあることに興味を持って応募しました。

RapidX創業者の正留世成氏(右)と正留世紀人氏(左)

市村:当時のRapidXはハードウェア開発に長けた人材が当時いなかったので、「どういった製品が開発できるか」「誰がどのように買うか」というヴィジョンが不明確でした。アクセラレーションプログラムの期間中は、プログラム期間中は火災が起きる前と後に、どのような企業が関わるのか、フローの中で発生する課題を洗い出し、火災に関わるあらゆるビジネスモデルを検討しました。その中にはハードウェアが関わらないSaaSも含まれていて、あらゆる選択肢を壁打ちしながら考えていましたね。

正留氏:いろんな方向性を話し合った最後に「でも、本当にやりたいのは、火災を未然に防ぐことだよね?」という話を市村さんがしてくれて、そこから個人向けだけではなく、法人向けのサービスとしても可能性を模索しようという話にシフトしました。

市村:当時のプロセスが正しかったどうかはわかりませんが、色々な選択肢を出し切った上で本当にやりたいことを明確にしたことで、正留さんにも迷いが無くなったと思います。

AIを駆使して火災を検知する「IoT火災報知システム」


現在開発中のIoT火災報知システム(写真提供:RapidX)

――現在、研究・開発に取り組んでいる火災報知システムについて、詳しく教えてください

正留氏:煙や温度だけでなく、一酸化炭素や二酸化炭素、臭気などをセンシングして火災の予兆をいち早く検知・通報する仕組みを開発しています。手のひらサイズのセンサーを大学と共同開発で進めながら、現在はAIのアルゴリズム開発と学習データの収集に注力しています。

一般的な火災報知器は煙がセンサー内に侵入して内部の光が乱反射するとアラートが動作するといった仕様なのですが、煙の成分や時系列の推移が追えないものが大半です。また、地域によっては火災報知器が鳴ったとしても持ち主が外にいたり、近隣の住民が気づかない距離にいて、発見が遅くなるというケースもあります。火災を未然に防ぐべくデータを日頃から収集・学習し、いざというときはインターネットなどを経由して必要な相手に通知する仕組を提供することで、火災による事故を無くしたいと考えています。

――ビジネスモデルを確立するきっかけとなったのが、HAX TokyoのSpeed Datingだったそうですね。

Speed Dating
スタートアップと企業が10分ずつのお見合い形式で打ち合わせするネットワーキングイベント。まず企業側から自らの課題やニーズを伝え、それに対してスタートアップ側からは解決案を提示し、最後に次のステップに進むための課題やタスクなどを議論。10分ごとに交代し、参加した企業と総当たりでディスカッションする。
詳細:https://note.com/hax/n/nf2a9e46fe7ed

正留氏:はい、Speed Datingで大手ゼネコンの方と知り合えたことが大きな転機でした。建設現場では溶接作業の火花やくすぶりが断熱材に引火するリスクがあることを知り、現場にセンサーを設置して火災予兆を検知する実証実験を行いました。作業時の火花やくすぶりのタイミングでセンサーが反応し、そのデータをAIが学習する形です。

――実証実験の成果はいかがでしたか?

実際の現場でデータを収集できたのは、大きな収穫でした。屋外活用の有効性も確認でき、既存の火災報知器との差別化に繋がると考えています。この実証実験は今後も継続し、他の火災リスクがある現場でも検証を進め、精度の高いシステムを開発したいと思います。

三足のわらじで取り組む理由

――正留さんは会社員、個人事業主としても働きつつ、RapidXを経営していると伺いました。複業で取り組む理由について教えてください。

正留氏:火災をより早い段階で検知したいというアイデアはありましたが、スタートアップとしてどのように人財や開発環境、資金を確保していくか模索していました。ただ、「火災ゼロ」はその時々の状況や壁を理由に諦めきれないテーマであり、「一生かけて取り組みたい」と思うようになりました。元々はデジタルマーケティングが私の専門分野でしたが、防災業界の会社に飛び込んだのもそれが理由でした。国内外で火災だけでなく、あらゆる災害・危機が毎日のように発生しているのを見ています。そこで得たドメイン知識はRapidXの事業にも活かされています。そして、事業や開発のフェーズに伴い、今後は働き方が変化していくことになるとも思っています。

市村:HAX Tokyoに応募した当初、正留さんは焦っているような印象がありました。ただ、「火災を無くしたい」という強い思いと粘り腰で進める気持ちの強さが前面に出ていたので、HAX Tokyoとして支援したいと思ったのを覚えています。

岡島:HAX Tokyoでのプログラム終了後も一歩ずつ着実に進んでいて、決して歩みを止めないのが印象的ですね。何が起きたとしても絶対に諦めないというメンタリティーは、これまで支援したスタートアップの中でも非常に強いと感じています。

火災ゼロを目指す

――最後に今後の展望について教えてください。

正留氏:現在はさまざまな企業とPoCを回しながらデータを収集しているところですが、建設現場だけでなく工場や倉庫、発電所、そして森林の火災防止まで、さらには、原体験でもある住宅や既存の建物向けのサービス開発も視野に入れています。ゆくゆくは巡回ロボットに搭載して、自律移動で監視を行うサービスにも繋げていきたいと思います。

市村:HAX Tokyoに採択される前には漠然としていたステップが見え始めてきましたね。おそらく、ここから先のどこかでアクセルを踏んで加速するタイミングが来ると思います。そのタイミングを見誤ることなく、追い風が吹いている状況を自分のものにしてほしいですね。

岡島:事業の進め方、歩むスピードは人それぞれですが、周りの意見に流されることなく、自分の現状と課題を冷静に見据え、これからも確実に成果を積み重ねていってほしいですね。その先にある成功を掴んでほしいと願っています。

取材・文:越智岳人

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