あなたの「メンタリング」はスタートアップに役立ってる?ーー事業を前進させるために必要な視点
「アイデアはあるが技術者がいない」「技術はあるがビジネス開発ができない」「エンジニアはいるが、どう製造したらいいかわからない」「作ったけど、どう売ったらいいかわからない」——スタートアップが抱えるさまざまな悩みを共有し、解決策を模索する手段の一つが「メンタリング」です。
アクセラレータやVC、大学など様々な組織に所属するメンターは、解決策を探る役割を担いますが、全ての答えを知っているとは限らないのもまた事実。共に歩みを進めるため、相談者は自分の悩みやスタンスをうまく伝えることも必要です。
スタートアップにとって本当に意義のあるメンタリングとは、いったいどのようなものでしょうか?HAX Tokyo ディレクター陣と、次世代支援としてスタートアップに関わる松山工業代表取締役社長の鵜久森洋生(うくもり ひろお)氏による座談会を実施し、そのポイントを探りました。
足りない部分に気づくためのメンタリング
——HAX Tokyoではカジュアルな壁打ち相談会を実施していますが、どのような悩みが寄せられるのでしょうか。
岡島:工場の探し方や事業の実現性についてなど、ある程度具体的な相談がほとんどです。しかし持ち込まれる相談内容と、私たちから見た本質的な問題にギャップがあることも少なくありません。
例えば工場を探すにしても、前段階で事業計画が固まっていなければ正しいアクションが起こせませんよね。まずは相談者の認識と実際の問題が合致しているかを確認し、そうでなければ原因探しから議論を始めています。
市村:メンターの役割はアイデアの良し悪しを判断することではなく、事業を成功させる方法を考えることです。「売れないからやめましょう」と言うことはなく、常に「どうすれば売れるか一緒に考えましょう」というスタンスで接していますから、メンターの口から直接的な答えが返ってこなくても、ゴールにたどり着くために必要な問いや助言として受け止めてほしいですね。
鵜久森:起業を通じて自己実現するためには、頑なに自分を貫くだけでなく、視野を広げる必要があります。自分と異なる言葉や意見に対しても「これをやらねばならない」と気付けるかどうかが、経営者としての資質の一つ。ハードウェアスタートアップ特有の高いハードルの数々を越えるためには、ものづくりにせよ経営にせよ、足りない要素を後からでも進んで学ぶ精神が欠かせません。
思いを語り、未来に備えるためにできること
——最初から全てに通じている起業家はいません。対話を通じて視野を広げ、足りない要素に気づいてもらうことがメンタリングの本質なのですね。メンタリングの場をうまく活用するため、スタートアップ側として準備すべきことはありますか?
鵜久森:私は起業前の段階から相談を受けることも多く、その場合はまずビジネスとして成り立つかどうかを問いかけています。初歩的なマーケティング手法であるSWOT分析や4P分析などを伝えると、ビジネスのノウハウがない人でも市場性を確認する第一歩になります。
岡島:エンジニア出身の経営者によく見られるのが、技術的に詳細な解説はできても、分野違いの人にはその価値やビジネスモデルが伝わらないケースです。自分の考えをうまく整理して相手に伝えないと、メンタリングの場でも本来得られる助言を引き出せない可能性が高くなります。
世の中にはビジネスモデルキャンバスなど、ビジネスの整理に使えるフレームワークが多く存在しますから、まずは目についたものを使い、自分の考えを書き出してから相談すると良いでしょう。
一方で、メンター側にはフレームワークに頼りすぎず、その裏にある相談者のモヤモヤや伝えたい価値を、対話を通じて掘り起こす能力も求められます。特にコンサルや金融業界出身のメンターは、一般的な情報や整理された図だけに頼らないアプローチを意識的に取り入れたほうがいいでしょう。
——相談に来る人はビジネスの経験やキャラクターも異なります。メンタリングを通じて良い関係を築くために何を意識していますか?
岡島:私がメンターとして関わるときは、相手の気質を確認するためのコミュニケーションを重視しています。いくら課題解決の手段で合意できても、その前段階のコミュニケーションに不和があると、同じチームとしては進めづらくなります。
ファンや仲間を増やしながら進むタイプや、強烈にスタンドプレイで事業を進めるタイプなど、起業家のスタイルも多様です。基本的には前者が多いですが、後者にはイーロン・マスクという成功例もある。起業家のモチベーションや行動原理は会社の戦略に大きく関わるので、早い段階で確かめるようにしています。
資金や時間、社会的な評判など、重視するポイントも人によって異なります。トラブルや失敗があったときに、会社として何を犠牲にできるのか、どこまで耐えられるのか。そのようなリスクへの耐性を早期から把握することも、事業の進め方を一緒に考えるためのヒントになります。
相談先を複数持ち、一人の意見に固執しない
——良いメンタリングを受けるための相談先は、どう開拓すればいいでしょうか。
岡島:起業家は相談先を一つに絞らないことが重要です。例えば大学の起業支援部門は技術に詳しくても、資本政策やビジネスモデルまではカバーできないかもしれない。同様にHAXのようなアクセラレーターや、スピード感のある成長を求めるVC、国や地方自治体の起業支援窓口など、それぞれの組織に立場と得手不得手があります。それゆえ、一つの組織だけに依存してしまうと、その利益構造に引っ張られた判断に陥る可能性が高くなってしまいます。
以前、資金ショートを回避するための相談に来た起業家と対話したところ、初期の資本政策に問題があることがわかりました。大学発ベンチャーとして創業したものの、大学から紹介されたある機関から紹介されたVCが株式の大半を持っており、この状態では資金繰りがうまくいくはずもありません。もし、大学の支援部門以外に複数の機関に相談できていたら、この事態は避けられたかもしれません。
「知財を守るためにNDAが必要」と思われがちですが、技術の中身を開示しなくても相談できることはたくさんあります。知財に触れずともビジネスや顧客の話はできるので、特定の組織に閉じこもる必要はありません。支援側も無理に囲い込もうとせず、自分たちがカバーできない場合は適切な相談先を紹介する必要があるでしょう。
鵜久森:起業件数を重視する大学や、収益性を求める事業会社など、組織によってスタートアップに求めるポイントも異なりますよね。セカンドオピニオンの確保は大事な視点だと思います。
市村:一人の意見を重く受け止めすぎないことも、意識したいポイントです。単純に考えて、二人よりも十人に聞いたほうが良い意見を得る確率は高まります。「この人しかいない!」と盲信することにはリスクもありますし、心理的ハードルを下げてカジュアルに相談できる相手を複数持つと良いですね。
岡島:系統の異なる複数の相談先を持ち、多くの人に話を聞いた上で、最終的には起業家自身での判断が求められます。「資本政策はAさんを信じよう」「製造はBさんの意見が腹落ちする」など、本人なりに納得できるロジックを組んだ上で決定を下しましょう。
選択肢は一つじゃない。自分に合う人や環境を探し続ける
岡島:起業家とメンターは立場が少し違うだけで、ビジネスのゴールに対して共に歩むフラットなパートナーです。もし馬が合わなければ、無理に関係を続ける必要はありませんし、その意味でも複数の相談先を持つことが大事です。
アクセラレータなどのプログラムに参加しているときでも、どうしても相性が悪いと感じたら、メンター本人ではなくプログラム運営に「こういったアドバイスが欲しい」「今の人とはここが合わない」と言語化して伝えてみましょう。運営側もそうした相談が起こることを前提として、起業家ごとに相性の良いメンターをアサインできるよう、コミュニケーションの状態や人間性を観察しておくことが求められると思います。
鵜久森:参加するプログラムや環境を選ぶこと自体も、起業家としての判断と言えます。企業として収益を上げることを最終目標とするならば、ビジネスコンテストやアクセラレータは数ある関所のうちの一つに過ぎません。ジャンルや地域も含めて広い選択肢があることを認識した上で、たくさんのご縁を繋げば、良い情報や関係に辿り着ける可能性が上がっていきます。
(取材・文:淺野義弘、シンツウシン)
スタートアップ向け壁打ち相談会(対面・オンライン)のお知らせ
HAX Tokyoでは、グローバル展開を目指すハードウェア スタートアップや、これから起業を目指している方向けのカジュアルな壁打ち会を実施しています。
HAX Tokyoのメンターが相談をお受けしますので、ぜひお気軽にご相談ください。
【相談できることの一例】
資金調達を成功させるためにピッチ資料を改善したい
開発 設計など製造面での課題があり相談にのってほしい
PoCの良い進め方、いいプロトタイプ(MVP)の作り方を教えてほしい
企業との事業連携や事業開発をうまく進めるためのコツを知りたい
なお、HAX Tokyoへのエントリーやお問い合わせも、こちらの相談会でお請けしています。詳細は下記サイトからご確認ください。
この記事が参考になったら、SNSへのフォローもよろしくお願いします!
Twitter: https://twitter.com/HaxTokyo
Facebook: https://fb.me/haxtokyo