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不審なお義母さん
著者:杏ワイルダー
お義母さんの不審な行動に最初に気づいたのは、たぶん私だ。
2カ月ほど前だったか、一人暮らしをしているお義母さんが、家のカギを部屋に忘れてドアを閉めてしまったと、私が持っているスペアキーを借りにきた。
数日後、お義母さんに「スペアキーを返して」と言うと、「あ、忘れちゃった」と。この会話が何回か繰り返されて、「もしかして返したくないのでは」と思った。とつぜん私たちが部屋を訪れたらまずいことでもあるのか。
しばらくしてお義母さんがグリーティングカードを持ってきて「この前は助けてくれてありがとうって英語で書いて」と。義母は韓国で生まれ育った。英語は話せるが、書くのは苦手だ。
相手の名前は書かないのか聞いたら、少し考えてから「R」という男性の名前だった。「ローカルの人?友だち?」と尋ねると、「ちょっとだけ知ってる人。この前助けてもらったの」と、もう新人俳優が初めてもらったセリフを読んでいるようなぎこちなさだった。なんか怪しい…
それで「あ、そうだ。カギ返してくださいね。スペアキーも部屋に忘れてロックしたら一大事ですよ」と、強い態度でのぞんだら、実はカギを無くしてスペアキーを使っているので「渡せない」って。
ますます怪しい。「お義母さん、恋人でもできたんじゃんじゃないの。私たちがとつぜん訪れたら困るから、カギ返してくれないんでしょ」と冗談っぽく言ったら、明らかに動揺した様子で、辛ラーメンを完食せずに帰ってしまった。
それから何日か経ったある日、お義母さんが娘を学校に迎えにいってくれた。義母の携帯電話が鳴ったので娘が取り上げると発信者に「R」という男性の名前。「この人だれ」と訊ねたら、電話を娘の手からもぎ取り「人のものをいちいちチェックしないの!」と怒られたという。いつも優しいおばあちゃんの豹変ぶりに「こんなこと初めて〜」と娘は驚いていた。
「きっと彼ができたのよ」と私と娘は確信していたが、一人息子の夫だけは「それは絶対にない!」とキッパリ。もうすぐ80歳になる母親が恋人とデートでもするっていうのか。想像しようと頑張っても、想像できない!
で、その数日後、夫は「私に恋人ができたらどう思う?」とお義母さんから告げられたそうだ。
ここからは夫から聞いた2人の会話(かっこ内は夫の心の叫び)
母:仮の話よ
夫:事実だろ。相手は誰?(どこのどいつだー!?)
母:ガラージセールで知り合って、最近一緒にガラージセール巡りしている。ずっと前に離婚していて、息子が1人。彼は私より10歳ぐらい年下。
夫:…。(ゲッ、マジ。年下かよ)
そして結婚はもちろんしないが、一緒に食事に行ったり、買い物に行ったりする「仲良しのお友だち」ということだ。
夫は「自分の人生だから好きなようにして、楽しく過ごせばいいんじゃない」と頑張って告げたそうだが、家に帰ってくるなり「どう思う?自分の母親だったら、絶対いやだろ!?」と大混乱の様子。もうすぐ1週間になりますが、いまだ動揺しており、今週末は父親のお墓参りに行って(励まし合って)くるということだ。
ちなみにティーンエージャーの娘は、祖母の彼が10歳近く年下と知って「クーガー(年下男性を好む肉食系女子)か。さすがおばあちゃん、やるな」とえらく感心した様子だった。