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ラハイナのピアス
著者:杏ワイルダー
8月8日。
あの日は私の誕生日だった。
夕食後に、バースデーケーキのろうそくの火を吹き消しているときには、あの美しいラハイナの町が、激しく燃え上がる炎に包まれているとは、夢にも思わなかった。
30数年前、私の誕生日のお祝いに、当時ボーイフレンドだった夫が、サプライズでマウイ島日帰り旅行に連れていってくれた。
朝6時前にとつぜん「出かけるぞ〜」と迎えにきて、私は化粧もせず、急かされるままにショルダーバッグに財布だけ入れて、家を飛び出した。
車をホノルル空港の駐車場に停めると、また急かされて空港ロビーへ。そこでマウイに行くことを知らされた。(なお、こんなロマンチックな行動は、結婚前だけであったことをここに明記しておきたい)
日帰り観光バスツアーの参加者のほとんどが、米本土から来られたシニアカップルで、20代の若者は私たちだけ。ハレアカラ山やイアオ渓谷など、観光名所をあちこち巡り、最終目的地がラハイナの町だった。
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ところが参加者が高齢ということもあり、バスの乗り降りからトイレ休憩、食事など、とってもスローペース。ラハイナの町には予定を大幅に遅れて到着したため、短時間しか滞在できなかった。
木造の可愛らしい建物が立ち並ぶ、海辺のノスタルジックな町、ラハイナ。急いでお土産屋さんに入り、私は彼にコップを買い、夫はなぜか大きなオウムのピアスを買ってくれた。
「ありがとう」の笑顔がひきつってしまうほど、それはそれはセンスないピアスだった。「つけてみて」というので、当時まだ素直だった私はピアスを袋から取り出し、大きなピンクのオウムをゆらゆらさせて、ラハイナの町を後にした。
久しぶりに引き出しの中の“使わないけど捨てられない物”の小箱にしまっておいたピアスを取り出してみた。胸がギュッと締め付けられた。
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あの日、日帰り観光ツアーバスに乗り込むときに「次回はゆっくりラハイナを散策しよう」とリベンジを誓ったのに…
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その後に1度、仕事でマウイを訪れたがラハイナには寄れず…
火災発生から10日が経過した。被災された人たちの苦しみ、絶望感は、私には想像すらできない。
家族の幸せ、健康を祈ってバースデーケーキのろうそくの火を吹き消していたあの日…
マウイ島の、ラハイナ地区の住民は突如、平穏な日常を奪われた。
*ハワイ州政府発表の最新情報とマウイ支援窓口のリストはこちらのサイト(https://dod.hawaii.gov/hiema/august-2023-wildfires/)で閲覧できます。