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ひのえうまの迷信は、現在の基準で言えば、マタハラである

私は小学生のときに、五島勉氏の「ノストラダムスの大予言」という大ベストセラー本を読んだことがあります。
ノストラダムスは、今から500年ほど前のフランスに住んでいた医師で、予言者として有名でした。

ノストラダムスは、詩集を残しており、その四行の詩には、未来が書かれてあったのです。
その的中率は99%で、1999年7の月に空から恐怖の大王が降ってくるという詩があり、これは地球滅亡の予言だと言われていました。
この本を読んだときは1974年でしたので、あと25年あまりで死ぬのか、と恐怖のどん底に落とされました。

恐怖の大王とは何なのか。
五島勉先生は、核戦争や宇宙人の襲来などの説を紹介しておりました。
さらに、ノストラダムスは、四つの頭のある奇形児の誕生など恐怖の大王が襲った後の地球も予言していたのです。
恐ろしさで夜も眠れなくなりました。
親に相談しても、「そげなことがあるか」「売るためにむちゃくちゃなことを書いとるっちゃが」と子供の話に向き合おうとしません。

私にとっての味方が登場しました。
推理小説家の高木彬光先生が「ノストラダムス大予言の秘密」という本を書いていたのです。
高木先生は、占い師が「本を書け」と言ったのを真に受けて作家になって成功を収め、「白昼の死角」などがベストセラーとなりました。
占いを信じている先生ですが、ノストラダムスの大予言の的中率が九九%ということに疑問を抱いておられました。

そこで、ノストラダムスが残した詩集の1番から50番までを原文から翻訳して、本当に99%かどうか読者に判断して欲しいと提示したのです。
最初の50編が的中しているかどうかを調べたところ、甘めに見積もっても3~4割くらいになると高木先生は書いておりました。
高島易断を創設した高島嘉右衛門と同じくらいだと評価しておりました。

高島嘉右衛門を知っている人は少ないかもしれません。
横浜の地に名前が残っている実業家です。
明治政府が新橋横浜間に鉄道を建設したときに、横浜の海岸の埋め立て工事を請け負いました。
その場所は、現在の高島町です。
易の研究家でもあり、占いの世界でも有名です。

江藤新平、西郷隆盛、大久保利通、伊藤博文という政府の要人の死期を予言したと言われています。
なかでも伊藤博文とは親しく、「危ないので出張は取りやめた方がいい」と忠告したのですが、伊藤は聞かずにハルピン駅で暗殺されました。
それ以降は、易の研究をやめてしまったそうです。

東京虎ノ門にある江藤新平遭難の碑

私は、この高木先生の本で安心することができました。
例えば、「99%の確率」であれば、予言された事実からほぼ逃れることはできません。
しかし、詩の実際の原文の翻訳と複数の解説文を読んで、どうどでも解釈できそう気がしたのです。
そもそもノストラダムスの詩は、場所も年代も記載がほとんどないので、これはフランス革命を予言したものだと言ってもロシア革命だといっても区別がつかないのです。
ノストラダムス研究家はたくさんいて、翻訳者によってかなり詩の解釈が異なっているという現実も判りました。

そういったあいまいな文章で3~4割の的中率というのは、下駄を投げて明日の天気を占うようなものだと、子どもながら極めてリアルな判断ができたのです。
高木先生は、占いの世界には「当たるも八卦、当たらぬも八卦」ということわざがあるともありました。
たとえ明日に世界の終わりが来ようとも、今日私は林檎の木を植える」という文章が最後にありました。
これで私は、ノストラダムスの呪縛から抜け出すことができました。

ノストラダムスの大予言の五島勉氏は、高木彬光先生を目の敵にして、それでも大予言は当たると、続編を書いています。
惑星直列が起こる、原子力衛星が軌道から外れて地球に墜落する、地球の火山が爆発する……。
もはや、私の胸に響くことはありませんでした。
そして結局1999年7月には、何も起こりませんでした。

我が国の公衆衛生の黒歴史に「ひのえうま(丙午)」というものがあります。
60年に一度回ってくる干支のひとつで、この年に生まれた女性は気が強く、夫を食い殺すという迷信がありました。
1966(昭和41)年は、ひのえうまの年でした。

この迷信を日本人は信じたのです。
この年の出生数は、136万人。
前年は182万人で、翌年は194万人と増えています。
ひのえうまの年は、前年比25パーセント減。
実に4人に1人は産み控えたのです。

週刊誌などのマスコミは、興味本位にひのえうまを書き立てました。
親や姑、周囲の人が心配していると、女性の不安をあおりました。
ある村の村長は、迷信を払拭するための勉強会などを行っています。

さて、これから2年後の2026(令和8)年は、60年ぶりのひのえうまの年です。
マスコミは騒ぐでしょうか?
親や姑、周囲の人が心配するでしょうか?

平成元年に我が国は、昭和41年のひのえうまの合計特殊出生率(1.57)を下回り、「1.57ショック」と呼ばれました。
それからは、「毎年がひのえうま」です。
いや、ひのえうま以下の状態です。
さらに、何年生まれであろうが、気が強い女性などそこらじゅうに○×△……。
不適切な内容があったので、公開に当たっては削除しています。

このように、ひのえうまの迷信は、現在の基準で言えば、マタハラに該当します。
ノストラダムスと同様に、ひのえうま伝説は、消え去っていくと思います。

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