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Speee人事部長・岩澤氏に聞く、セールス&マーケティング思想を取り入れた強い採用チームを作る秘訣とは
競争が激化する採用市場において、セールス&マーケティングの手法を採用現場に取り入れることが注目されています。セールス&マーケティングの考え方をいち早く採用に取り入れられている株式会社Speee社の採用活動や、強い採用チームを作る上で取り組むべきポイントについて、人事部長兼広報部長 岩澤啓史氏 (以下、岩澤)と、採用イネーブルメントSaaS 『RekMA』を運営するHaul代表取締役の平田と対談を行いました。
プロフィール:岩澤啓史(株式会社Speee 人事部 部長 / 広報部 部長)
東京都立大学を卒業後、大手教育企業へ入社。新卒2年目で支社長に抜擢され経営と事業開発を学ぶ。2社目の外資生命保険企業では社長杯入賞の成績を上げながらも、まだ創業2期目のSpeeeにジョイン。当時のWebマーケティング事業部にてセールスマネージャー、事業部長/執行役員を歴任後、海外事業部長としてインドネシアにて新規事業立ち上げを行い、PT.SPEEEのCEOを務め、ゼロから同国内最大級の求人サイトへ導く。同海外事業を現地企業にEXITした後、社長室長として、新規事業戦略やエグゼクティブ採用、広報など幅広いミッションを担う。現在は主に全社の人事戦略や広報戦略、および同領域の執行責任を負っている。
セールス、マーケ、事業責任者を経て人事部長へ
ーーまずは岩澤さんの自己紹介をお願いします。
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岩澤:大学を卒業後、教育企業と外資生命保険企業を経験し、2008年に創業2期目のSpeeeにジョインしました。当時のWebマーケティング事業部にてセールスマネージャー、事業責任者を経験したほか、海外事業部長としてインドネシアで新規事業の立ち上げも行いました。現在は人事部と広報部の部長を務めています。
平田:岩澤さんはSpeee社に16年在籍されていて、海外事業のCEOを務められた経験もありますよね。これまで手掛けた事業はどのくらいあるのでしょうか。
岩澤:私がリードしていた事業は3つ、スターティングメンバーとして関わった事業が3つ、プロジェクト単位で事業化せずに終わったものも含めると合計10個ほどです。
WebコンサルやWebマーケが1番得意なので、Webマーケティング事業部の2代目事業部長を任されたことはキャリアとしてわかりやすいと思います。あとは、インドネシアで新規事業の立ち上げを行い、PT.SPEEEのCEOを務めました。加えて、10年ほど新規事業開発責任者を務めているので、新規性の高いビジネスアイデアの創出から、0→1や1→10段階の事業セットアップなどさまざまな事業に携わっていました。
ーー事業責任者もグループ企業のCEOも務めた岩澤さんが、事業サイドではなく人事担当になられたのは、どんな経緯があったのでしょうか。
岩澤:Webやコンサルセクター系企業の経営のドライバーの1つが採用や人事であることを考えると、時期によっては人事責任者の方が事業責任者より大事であるという基本的理解が経営側にも私自身にもあり、事業か人事の2択の中で人事側を選びました。
平田:岩澤さんのような最高の人材を人事に据えることができる会社ってなかなか少ないと思います。Speeeさんには創業2期目でジョインされていますが、当時から代表の方が人事責任を配置する意向があったのか、それとも途中から組織の重要性を感じられるようになったのでしょうか。
岩澤:おそらく両方だと思います。初代CEO兼ファウンダーが久田哲史で、現CEOの大塚英樹がずっと採用マネージャーを務め、私の前任まで人事部長機能を兼任していました。そういう意味では、元々経営層が人事の重要性を理解していました。
加えて、WebやIT系企業で推進力になる要素は「人を増やすための採用」や「採用した人を根付かせ活躍してもらうための組織開発の人事」だということを実感しています。その意味でも、元々理解していた部分と途中から実感した部分の両方だと考えています。
平田:私自身も起業して感じていることなのですが、事業責任を担っている立場の方が行う採用はより精度が高い採用ができると感じています。岩澤さんは、どのような考えをお持ちでしょうか。
岩澤:事業責任を担った経験のない人事部長が組織開発を成功させることは、確かに挑戦的な課題かもしれません。人事部長の方々の能力を疑うわけではありませんが、事業経営の実践的な経験がない中で、事業戦略に基づいた採用や人事施策に全精力を注ぐことは、現実的には難しい面があるかもしれません。組織開発には、実際の事業経験から得られる洞察が重要な役割を果たすと考えています。
私が今、事業経営者と同じ気持ちになって採用や人事を行えているのは、特別に事業観点で人事を考えられるように訓練されたわけではなく、これまでのキャリアの中で事業責任者として上手くいったこと、上手くいかなかったことの両方を経験できたからだと思っています。
ーー密な経験を積まれてきた中で、人事戦略・広報戦略を現在管掌されていますが、その中でも特にどんなことに力を入れられていますか。
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岩澤:実は私は人事部長というよりも、完全に採用部長のような位置付けです。Speeeには採用後の人事に関するエンプロイーサクセス部(ES)がありますが、私より採用後人事が得意な人材がそこを切り盛りしてくれているのと、新卒採用に関してもリードしてくれている人材がいます。そのため、私は中途市場で強いハンティングチームを作って採用活動をしています。この中途採用に70%くらいの時間を使って、広報の人格として20%、全社のために役に立てることだったら何でもやるっていうのが10%といったところです。
平田:採用するまでの攻めの部分と、採用した後の守りに関して、攻守の分担を適切に強いメンバー同士で行えているのがすごいですね。採用が経営に与えるインパクトに関して、社内で伝えられていることはありますか。
岩澤:まず、言語化はしていません。少なくとも2020年以降、私が採用部長、人事部長を務めている間は採用と経営のインパクトに関する会話はありません。それは 「当然わかってるよね」という良い意味でのプレッシャーと、経営陣が狙っているものに合致しなければ意味ないよねという基本的な理解があるので、言語化を必要としてないですし、言語化すると逆に陳腐になってしまうと思っています。
10年、20年のスケールでは採用市場の本質に変化なし
ーー採用市場も中途採用にシフトし、マーケットのパイ自体も小さくなるなど変化が起きています。岩澤さんが感じる採用市場において変わったこと、逆に変わらないことがあれば教えてください。
岩澤:まず私自身が観察できている時間軸でいうと、社会人になった後なので約20年でしょうか。確かにマーケットに生息しているスーパースターの原石のような人材数は変わってきてると思いますが、優れた会社、優れた経営陣、優れたハンティング系HRチームが良い人材という資源を囲い込んでいるのは昔も今も変わらないと思います。加えて経営チームや人事のスタメンチームが、 人事に対して深い理解とコミットメントがなければ上手くいかないというのは今も昔も変わらない部分ですね。
逆に、 売り手市場が続いたので転職者の真剣度や面接に臨むにあたっての下準備、もしくは100万人に占める将来幹部になってほしい人の率は変わった点として挙げられると思います。オペレーションが変わったとか、RekMAさんみたいな素晴らしいソフトウェアが生まれて生産性が上がったなどの変化はあると思いますが、それ以外は10年、20年スケールだとあまり変わらないんじゃないでしょうか。
平田:変わらないものとして経営チームや強いHRチームの話を挙げていただきましたが、それを実践できている会社の軸にある考え方自体も変わらないように見えますか。
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岩澤:変わらないように見えます。絶対的に変わっているのか変わっていないのかという観点が非常に難しいので、あえて少しだけ相対論を持ち込むと、 スマートフォンの登場で私達の生活やコンテンツの消費の仕方がダイナミックに変わりました。そのダイナミズムや変化感が100だとすると、ソフトウェアが生まれたとか、売り手市場により候補者の真剣度が落ちているとか、それらは変化感としては5とか10もないと感じています。
セールスの世界線でも10年以上ずっとトップに位置して、おそらく5年後もトップに居続ける会社は、ソフトウェアの活用で生産性は上がったとは思いますが、泥臭いようなKPI管理をやり切ることで現在のトップのポジションにいる面があると思います。
私はよく「採用はセールス&マーケティングである」と表現しますが、セールスにおける変わらない部分と採用の変わらない部分っていうのは同じように感じますね。
平田:やっぱりコアの部分、人の本質自体は変わらないんでしょうか。
岩澤:そうですね。セールスの変わらない部分っていうのは、やるべき大事なことを100とする場合に、90%をしっかり管理して、オペレーションして、イネーブルメントするといった普遍的な泥臭いことを徹底して当たり前かつ、それをやり切った会社が5年、10年、20年のスケールで勝ち続けると思います。
残りの10%は、RekMAさんのようなソフトウェアを通じてCSコンサルティングを行う部分で、そこに取り組んだ会社が90点から91点、 95点みたいになれて、90点台のバトルフィールドの中で本当に勝ち抜けるのかというゲームだと考えています。
採用はセールス&マーケティング。100項目、1,000項目のロープレを徹底してやり切る
ーー岩澤さんが取り組まれている採用活動の話に移らせてください。Speeeさんはどのような体制で採用活動を行っていますか。
岩澤:基本は中央集権ですが、部門最適化した方が良い事業のみローカルチームがあるフォーメーションです。
平田:Speeeさんの従業員規模でも中央集権で採用を行われているのは、どのような意図があるのでしょうか。
岩澤:意図は2つあります。元々私が採用部長になる前は事業部採用を行っていました。先人たちはもちろん頑張って結果も出してくれたのですが、まだまだ伸びしろがありました。その教訓を生かして逆張りしたという観点が1つ目です。
2つ目に関して私の経験則からですが、適切なオペレーションで、適切なソフトウェアを利用し、ミスをしないということを組み合わせると80点もしくは90点までしか到達しません。でも、私達の競合は90点台のバトルフィールドでバチバチに競り合ってる企業で、私達が80点台だった場合は確実に負けてしまいます。全社のリクルーターを90点ゾーンに持っていくためには、分散させると私も強くなれないし、私も訓練できないので、私の元にみんなが集まれる営業チームのようなものを作るために中央集権化したというのが2つ目の観点です。
ーーSpeeeさんの場合、候補者を大量に集めてから決める採用というよりは、限りなく少ない母集団から欲しい人材を確実に決め切るという1/1採用のスタイルだと伺っています。強い採用に向けて採用チームのメンバーを鍛えるために取り組んでいることがあれば教えてください。
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岩澤:先ほど「採用はセールス&マーケティング」だと申し上げたのでセールス&マーケティング用語を用いて説明させてください。
エンタープライズ営業のアカウントベースドマーケティングのように、とにかく一球入魂するという手法と、あるクラウド会計ソフトを買っていただく対象として零細企業も含めると何十万社が存在するような場合はリードベースドマーケティングを行う手法があると思います。
その中で、私達も1万人集団、10万人集団になったら、当然リードベースドマーケティングをやるべきだと思いますが、まだ私達は1,000人を超えていない組織です。中途採用だと年間100人くらいなので、しっかりとアカウントベースドマーケティングができるという前提があります。
アカウントベースドマーケティングはセールスの世界だと、強い人材を採用して、その人を訓練して素晴らしいフィールドセールスマンにして一気通貫で本人にワークさせるという手法が機能しやすいと理解しております。採用に関しても、できるだけ優秀なセールス系リクルーターを採用し、セールス&マーケティング選手に訓練し、その通りにワークさせるのがきっと再現性もあると考えています。
教育面についてお話しすると、採用チームに関してはマーケットで競合から圧倒的に勝てるよう、Speeeのどの営業チームよりもしっかりとロープレをします。そのロープレはざっくりしたロープレではなく、「会議室にお連れするためのロープレ」「お水をお出しするロープレ」「自分からご挨拶して候補者様に驚いていただくためのロープレ」など100項目、1,000項目あるような内容を適切に組んだものです。それもペルソナごとにさらに分けしています。そのカリキュラムをしっかりとやり切ることが大事で、やり切ってもらうために私は頑張るし、やり切れる人を採用しています。
当たり前なんですが、100点のうちの90点部分をとにかくやり切って、ラストワンマイルはRekMAさんのようなソフトウェアの導入を検討したりして、ラスト10点をじわじわ1点ずつ増やしていく感じです。
平田:さらに踏み込みたいのですが、90点に持っていく難しさ、もしくは90点から100点に持っていく難しさを感じるポイントはありますか。
岩澤:まず90点から100点への難しさに関しては、難しくないと思います。難しくない理由は、RekMAさんをはじめとしたソフトウェアの開発者たちがとにかくすごいからです。この最後の10点が難しいとしたら、 最初の90点ができていないからだと思います。真剣な人事チームを構築できていなかったり、ソフトウェアを活用するためのイネーブルメントをまだ経験していないと、ラスト10点を詰めていくのは難しいと思います。なので、難しいことの99%はおそらく90点を作り出すことです。当たり前のことを当たり前に365日、10年も20年も続けることが1番難しいですね。
ーー続いて採用チームを組成するポイントについてお伺いさせてください。岩澤さんはどんな人材と一緒にHRチームを作りたいとお考えですか。
岩澤:欲望があって自分が好きな人、向上心が風化せず自分は若いと思っている、 もしくは若くなくても若々しいと良い意味で錯覚してる人、であれば全員とご一緒したいですね。本当にこれだけで良いです。
ただ、そんな人でも忍耐力が十分でないと、貢献できない期間に耐えられなくて「キャリアの目標を下げようかな」という状態になり、採用した会社側もご本人にとっても良い結果にはならないので、忍耐力や粘り強さは重要視しています。後はマーケ的な才能、セールス的な才能、戦略立案の才能など未完成で良いので能力が一つは欲しいですね。
平田:今のお話で気になったのですが、岩澤さんの中で「向上心が風化していない」というのは、どうチェックされてますか。
岩澤:まず「向上心、風化してますか?」と聞くと、「もちろん風化してないです」という一応の回答しか得られないので「今週の土日は何をやっていましたか」「この1年間どのように過ごしていましたか」と行動を確認すると、向上心が風化していない人はちゃんと行動していることがわかります。
例えば「土日はサウナに行って、後は寝てました」という人は向上心がそもそもないか、風化したかのどちらかは判断ができるため、日々の行動から確認をしています。
セールス&マーケティングを取り入れた強い採用へ、大きさよりも“濃さ”を先に達成しろ
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ーーこれからセールス&マーケティングの考え方を取り入れながら強い採用チームを作っていきたい方が、取り組んでおくべきことがあれば教えてください。
岩澤:マーケットやビジネスモデルの成長速度が待ってくれないといったスピードが重視される環境下において、質よりもチームを大きくすることを優先する動きや考え方がありますが、その考えに「負けない」ということですね。
まず、自分が実践できて、この流派なら競合に負けないという方法を生み出し、その後、自分のリファラルで良いので信頼できる人を2人採用して、その流派どおりに実践してもらう。その2人がうまくいったら、そこからがスタートです。とにかく会社が大きくなりすぎる前に、「濃さだけを先に達成しよう」ということがすべてだと考えています。
平田:今、お話いただいた流派ですが、流派をそもそも作れる人と作れない人の違いは岩澤さんはどう言語化されていますか。
岩澤:流派がつくれた人は、偶然20代の時に卓越した経営者に出会えたなどチャンスに恵まれた人だと思います。
でもこの偶然を分析すると、多少は狙って実践できると思います。自分自身にまだ流派がないのであれば、メディアを消費したり、卓越している人の流派に染まるのが1番良いと思います。そういう対象がダイレクトに見つからない、見つかったけれども卓越感が70点だと思う場合は、その人が一目置いてる人を紹介してもらい、かっこいいと思う100点の卓越者に早めにたどり着く。理想は10代とか20代前半でたどり着いて、その人と同じ釜の飯を食べたらその流派が好きになると思うんです。それをさらに磨き込んで自分の流派にできると良いですね。
平田:ありがとうございます。Haulが提供するRekMAは、良い採用、強い採用をやってる会社さんが実践しているプロセスの再現性を上げながら、皆さんにやってもらえるようにして成果を出すプロダクトとして提供しています。今日のインタビューでも出てきたセールス&マーケティングの話にも関係しますが、欲しいと思った人材を高い確率でミスマッチなく採用できるよう、かつ工数もコストも下げられるプロダクトにできていると思っています。
業界の中でも見習うべきSpeeeさんの考え方を我々のプロダクトにもどんどん取り入れさせていただき、一緒にマーケットに新しい採用のあり方を示していけるような取り組みをしていきたいと本当に思ってます。
ーー最後になりますが、採用に課題を抱える企業さんに向けてメッセージをいただけますか。
岩澤:真面目に言って良いですか。この記事を見ている暇があったら、採用現場に戻って、1時間でも多くロープレし、1人でも多くを採用してきてください!
また、良い記事を見たからまた次の記事をザッピングしてっていうよりも、とにかく参考になる卓越記事を見つけたら、その思想をインストールして、とにかく現場に戻った方が良いと思います。
平田:最後に、喝ある一言ありがとうございます。本日は、お話させていただきどうもありがとうございました。
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各社のサイトURL
株式会社Speee:https://speee.jp/
株式会社Haul:https://haulinc.jp/