見出し画像

教科書改訂後も「異性への関心」が残る件

憤りというか、失望というか。

教科書改訂の内容が発表された。小中学校教科書でのLGBTsについての記述は先送りとなったらしい(ハフィントンポストの記事はこちら)。

その事由が「LGBTを指導内容として扱うのは、保護者や国民の理解などを考慮すると難しい」とのことだが、どうも首を傾げてしまう。初等教育はこれからの世界を担う新たな世代をつくるためのものであり、教科書改訂はそのための知識を更新するためのものであるというのが私の理解だが、間違っているだろうか。「理解が得られないから取りやめる」のではなく、「理解が得られるよう書き換える」のが真っ当なあり方ではないのか。

以前少々セクシュアルマイノリティ理解についての話をnoteに書き、そこで「居丈高に理解してあげようってんならそんな歩み寄りはいらねェ」的なイキりをしているのだが、そういった個人の感情や態度の問題とは話が違う。
マイノリティ、マイノリティというが、割合でいうと全人口の1割程度はいわゆるセクシュアルマイノリティにあたるとされる。この数字は、ごくわずかな例外であり一般教養の範疇には含まずともよいものとして切り捨てるに妥当な数字だろうか。

現在のところ初・中等教育においてセクシュアルマイノリティを教える場は公的には存在せず、教師のボランティアか外部講師の講演などに限られている。よって、小中学生のうちにこれらの概念に触れない子どもは相当な数になる。
喜ばしいことに、高校教科書には性の多様性に関する記述が盛り込まれているのだが、私の考えるところでは高校生では遅すぎる。第二次性徴が始まる小〜中学生のうちに教えておかなければ意味がない。第二次性徴期に入って「異性に興味を持」たず、自分が異常であると思い込んでしまった子どもをすくい上げるのがそれから何年もあとでは、傷ついた自尊感情は取り戻せない。いじめの問題もある。ある程度の分別を身につけた高校生ならまだしも、小・中学生に「これが普通、これが正常」と思いこませてしまえばそこから外れた子どもがいじめの対象になるのは想像に容易い。
そして、そう教えてしまうことによって受け手が自らの性的なありかたの可能性を狭めてしまうのは危険でもあるし、不幸であるとも思う。好きでないものを好きなんだと自分に言い聞かせて生きることのつらさ、居心地の悪さ。
そういった苦しみを、「教育」は何年抱えさせようと言うのだろう。

個人的な来歴の話をさせていただくと、私は27歳になったこんにちでも、(自分が当事者になるという想定において)異性・同性いずれにも性的な興味がほとんどない。強いて言えば法的・生物学的に同性への興味の方が(おそらく生まれつき)強い。幸いにも、この二点について言うなら、教科書に何を言われようが違和感はなかったし、特に思い悩んでもこなかった(理由はよくわからないが)。
ただ私を20年弱のあいだ苦しめたのは、「世の中には男と女の2種類がおり、2種類しかいない」という思い込みのほうだった。もともと男顔で高校生になるまで初対面の相手には8割がた男だと思われてきたこともあってか、幼い頃から自分のことを女性だと思わずに生きてきた。そして20年間のあいだ、二分法と消去法を愚直に信じ、女でないなら男だろうと信じ込んで生きてきた。だが実際のところは女の子グループにもホモソーシャルにも馴染めず、なら自分はなんなのだと懊悩し続けていた。19歳のとき大学の女性学の講義で「クエスチョナー(自分の性的なあり方について、答えを留保する人)」という概念を知って、その悩みは一気に氷解した。同性愛についての知識もトランスジェンダーの存在も知っていたのに、その概念を知らなかったのだった。
あっけにとられた。なんだ、こんな簡単なことだったのか。

そんな「簡単なこと」を、「異性への関心」というたったのワンフレーズがおおきなわだかまりにしてしまう。私は幸運なほうだろう。もしあの講義に出ていなかったら、今も苦しみ続けていたのかもしれない。

今回の件については私もパブリックコメントを提出し、中間報告ではきちんとそうしたLGBT当事者並びにアライの声が掬い上げられていた。にもかかわらず今回の判断である。これでは日本が後進国と謗られても仕方ない。というか、そんな国際的立場の話よりも、不要な悩みを抱えさせられて生きる人間を故意に増やそうという悪意すら感じられるということのほうが深刻だ。

とりあえず私はオランダあたりへの移住計画を進めようと思っているが、まずはその前に2017年のレインボープライドがある
レインボーは多様性を表し、プライドは「自分の性的なありかたに誇りを持とう」ということ。「レインボーパレード」「プライドパレード」と呼ばれるセクシュアルマイノリティおよびアライによるパレードは世界中で行われている。これを題材にとった(正確には物語の中心はパレードではないのだが)「パレードへようこそ」はなかなかいい映画だったのでオススメだ。

教科書改訂の話に戻すと、せめて副教材等で補完ができればと思うのだが難しいか。なんにせよ、よりよい世界になってほしいものだし、パレードへの参加しかり、そのためにできることは少しでもしていきたい。あとオランダに住みたい。

いいなと思ったら応援しよう!

歯塚傷子
お小遣いください。アイス買います。