細部に神が宿るLive2Dモデルの作り方
自己紹介
はじめまして。
Live2Dデザイナー兼シマエナガVtuberの「はちゃち」と申します。
現在はフリーランスにてVtuber向けLive2Dモデルを中心に制作をしています。
\ ヨロシク /
公開可能な実績としては、ホロライブ様 や ホロスターズ様、プロプロプロダクション様 といった企業様から、天開司様(初期モデル)といった個人様などなど。
▽ 実績一覧 ▽ (公開可の案件のみ)
その他にも、Live2D社主催のコンテスト「Live2D Creative Awards 2020」にてグランプリをいただきました。
本記事の概要
今回はnoteマガジン『みんなの Live2D LAB』用の記事として、これまで請けた仕事の中から、よりクオリティの高いLive2Dモデルを作る際に私が意識したポイントをいくつかピックアップし紹介したいと思います。
しかしそもそもの話、クオリティの高いLive2Dモデルとはどのようなものでしょうか?
・デッサン的に狂いのないモデル?
・可動域の広いモデル?
・原画の時点で画力が高いモデル?
当然、上記の水準が高ければクオリティの高いLive2Dモデルに見えるため、重要な要素であることは間違いありません。
しかし私はあえてこう提唱したいと思っています。
\ 神は細部に宿る!/
そんなわけで当記事では、Live2Dモデル全体ではなく、細部のみをピックアップした一風変わった内容でお送りします。
※ 執筆にあたり掲載許諾をくださったプロプロプロダクション様ならびにカバー株式会社様にはこの場を借りてお礼申し上げます。
1.感情に連動する翼
はじめに紹介するのはプロプロプロダクション所属の朔桜衣澄さんです。
○ こだわりポイント
衣澄さんの背中には魅力的な純白の翼があります。これを動かさない手はありません。
しかし人間というのはすぐに慣れてしまう生き物です。呼吸のように毎回同じ動きをアイドリングモーションで動かしていては、すぐに目が慣れてしまい魅力を感じなくなってしまいます。
そこであえて羽ばたく動きにはモーションは使わず、全て物理演算で賄っています。
具体的には、口角が広がると翼の位置が高くなり、口がしぼむと翼も下がるような動きを採用しました。
これにより、嬉しいときに犬が尻尾をふったり猫が尻尾をピンと伸ばしたりするように、感情に応じて翼の位置が変動するような動きが可能になります。
リアルタイムで状況に応じた動き方は、生き生きとした表現には欠かせません。
ここからはどのように作っているかについて、簡単な解説をしていきたいと思います。
○ アートメッシュの構造
まず、アートメッシュは翼毎に2つずつ用意してあります。
原画PSDの段階では翼毎に1枚のレイヤーでしたが、がんばってレイヤーを分割しました。
メッシュの割り方は、羽根に沿う形にしている以外は特別変わった構造はしていません。
○ パラメータの構造
各翼に使用したパラメータは2つで、キーフォームも各3点ずつのオードソックスな構造で制作しています。
1つ目のパラメータでは、回転デフォーマで大まかな翼の角度をつけつつ、ワープデフォーマで全体の形を変形しています。
2つ目のパラメータでは、羽根の先端の動きを中心につけています。
あえて動きに幅をつけてやることでより翼らしい動きを作ることができます。
この2つのパラメータを組み合わせることにより、以下のように羽ばたく動きが実装可能です。
パラメータが出来上がったので、これを物理演算にて動かしていきます。
○ 物理演算設定
感情(口角)によって翼の高さを変えるには、入力パラメータの「口 変形」の種別を「角度」に指定することで実現可能です。
これにより、口角パラメータがプラスの場合に翼の位置が上がり、マイナスの際に翼の位置が下がります。
もう少し高い位置にまで翼を持っていくことも可能ですが、Vtuberの配信では翼の位置を高くしすぎると配信画面のレイアウト上問題になる可能性があるため、やや低めの位置をMAXとしています。
▽ レイアウト上問題のあるサンプル画像 ▽
今回の肝は物理演算の角度設定で、デフォルトのパラメータ位置を調整できるという点です。これは翼以外にも様々な応用がきくテクニックですので覚えておくと良いでしょう。
最後に、口角以外にも「まばたき」に連動して羽ばたくように設定したり、目や口が全く動いていない際に翼が硬直していてはそれはそれで不自然だったため、5%ほど呼吸に連動させるようにしています。
以上の設定により、より自然な翼の表現を実現しています。
衣澄さんの配信を視聴される際にはぜひ翼にも注目してみて下さいね!
2.イヤリングの宝石感
次に紹介するのは、同じくプロプロプロダクション所属の華月みくるさんより、イヤリングです。
○ こだわりポイント
Vtuberの動画や配信において「顔が見切れている」という状況はほとんどありません。
そのため顔周辺のアクセサリー類は否応でも画面内に映り込み続けます。特に「ガチ恋距離」に代表される顔アップシーンでは、細部のクオリティによって印象が大きく変わってきます。
みくるさんのLive2Dモデルも上記の点を踏まえ、イヤリングの宝石の動きにこだわりました。
より立体的かつ自然な動きをしつつ、それでいて目立ちすぎない……そういうバランスを意識しています。
○ アートメッシュ構造
イヤリングのアートメッシュは7つあります。
しかし納品された段階ではレイヤー1枚だったので、Live2D用に統合する前のPSDファイルをいただいて、あとは頑張って分割しました。
○ パラメータ構造
イヤリングで使用したパラメータは左右で各2個ずつになります。
イヤリング1でZ軸の揺れ、イヤリング2でX軸の揺れを実装しています。
(今思えば素直にイヤリングXとイヤリングZなどの名称のほうが分かりやすかったですね)
Z軸の動きは簡単です。
イヤリング全体を回転デフォーマに入れて、角度をつけるだけです。
制作が難しいのはX軸の揺れです。
顔の角度Xでもそうなのですが、画面奥に回り込む動きはどうしても難易度が高くなってしまいます。
(まぁその分うまく作ればクオリティが高く見えるわけですが)
今回のイヤリングの場合、下地となるベタ塗りレイヤーと線画レイヤーは動かさないようにしつつ、宝石内部の影と表面の光沢を動かすことでX軸の動きを作っています。
▽ 線画と下地アートメッシュ ▽
▽ 宝石内の影アートメッシュ ▽
▽ 宝石下部の影アートメッシュ ▽
▽ 表面光沢のアートメッシュ ▽
特に重要なのは光沢の動きです。
中の影は、まぁ結構テキトーでもそれなりに見えるのですが、表面の光沢の動きは宝石らしい質感と立体感の表現に直結するため、特に力を入れて調整しました。
○ 物理演算設定
パラメータ上できれいに動いていれば、あとはいい感じに物理演算を設定するだけです。
X軸とZ軸では同じ方向に動きつつ、Y軸だけ左右で違う動きにしているとなお自然なお動きになるのでオススメです。
※ただし、FaceRigでは一部だけ反転させようとしても反映されないので注意が必要です。FaceRigで反転を使う場合、全てにチェックを入れるか、全て入れないかのどちらかである必要があります。
3.生き生きとした金魚
最後に紹介するのはホロスターズの鏡見キラさん(卒業済み)です。
○ こだわりポイント
こちらは新衣装実装のご依頼にて制作した案件となります。
新衣装案件の場合、前任モデラー様の制作したLive2Dモデルを受け取り、新衣装に差し替えていく作業となります。
通常のLive2Dモデル制作との違いは、前任モデラー様の作った可動域や雰囲気を崩さないように作らなくてはならない点です。
「○○すればめちゃくちゃクオリティが上げられるのに……」と思っても、勝手に仕様を変えられないので泣く泣く実装を諦めざるを得ないことが山ほどあります…orz
しかし!その制約の大部分はそのLive2Dモデル本人に関するものです。
基幹部分以外――例えば今回のように、金魚袋の動き方については細かな指定がなく、私の方で自由に作ることのできるポイントでした。
○ アートメッシュ構造
金魚の構造ですが、PSD上で5つのレイヤーに分解され、最終的にLive2D上で9つのアートメッシュにまで増えました。
アートメッシュ数が増えた主な要因は「金魚」です。
PSD内では1つのレイヤーだったものが、Live2D上で分割したことで4つに分割されています。
Live2Dの小技として、PSDファイル上で分割していなくとも、Live2D上でアートメッシュを複製し、必要な部分だけメッシュを作ることで分割が可能です。
PSDでレイヤー分けしておくべきか、Live2D上でアートメッシュ分けするべきかはケースバイケースなので一言で言い表すのは難しいですが、PSD上で全て分離しておかなくてはならない――というわけではありません。
○ パラメータ構造
金魚は3つのパラメータを使用しています。
「金魚1」と「金魚2」で水中を泳ぐ全体の動きを、「金魚3」にて尾ひれを動かす動きを実装しました。
金魚1,2の動きの付け方は、ワープデフォーマで基本的な動きをつけ、その後アートメッシュで細かく動かしています。
作っていて最も大変だったのは、金魚が向きを反転する瞬間です。
2Dなので、単に向きを反転させると紙のようにペラペラの金魚になってしまい、金魚らしさが損なわれてしまいます。
▽ペラペラな金魚▽
そこで、分割しておいたアートメッシュを用い、反転する瞬間に胴の厚みを出せるように動きを付けています。
これにより金魚が向きを変える瞬間の2Dっぽさが消え、金魚の生きている説得力が増しました。
金魚3パラメータの尾ひれは以下のような動きですが、こちらは特別難しいことはしていません。単にアートメッシュを動かしているだけになります。
ただし、金魚の胴と分離するのを防ぐためにグルーで結合させ、かつ物理演算上できれいに動かすためにパラメータを細かく設定しています。
金魚袋のリアリティを上げる際に欠かせない要素がもうひとつあります。
それは金魚袋に入っている水です。
透明なものを動かすのは困難ですが、金魚袋内の水は完全な無色透明ではありません。
水そのものを動かすのではなく、水面を動かすことで「水が入っている感じ」を表現することが可能です。
(今思うと、水面の動きに合わせて少しだけ袋も動かすべきでしたね…)
みくるさんのイヤリングでも触れましたが、光が当たっていたり反射しているところは質感を出す際に非常に重要なポイントになるため、あらかじめレイヤーを分離しておくことが望ましいです。
○ 物理演算設定
金魚や水面の動きは全て物理演算で動かしています。
モーションではなく物理演算で動かす理由は、衣澄さんの翼と同じで「同じ動きをしているとすぐに目が慣れて飽きる」ためです。
一挙手一投足に応じて金魚も動きを変えている方が、より生きている感じが表現でき、かつ同じ動きを続けるよりも飽きにくい表現が可能です。
実際の物理演算設定ですが、体を動かした際に袋も動くはずなのでそこに連動させています。
まずは水面から。
実際の数値は以下になります。
これにより、体を動かした際にいい感じに水面が揺れてくれます。
金魚の尾ひれも物理演算で賄っています。
尾ひれは一定周期で動いてくれていれば良かったので、呼吸パラメータに連動する形を取っています。
尾ひれのパラメータのキーフォームが細かかったのは、呼吸に連動させた際に綺麗に動くようにするためです。
最後に金魚そのものの動きですが、アイドリングモーション代わりに呼吸で揺らめかせつつ、水面と同じように体の動きによって金魚が動くように設定しています。
金魚の動きとして、ぬるりと泳ぎ続けるよりも、勢いよく動いたかと思えば静止して水中で揺らめく――を意識しています。
モーションでも物理演算でもそうなのですが、常に一定の速度で動き続けるよりも、緩急をつけて上げたほうがクオリティの高い動きに見えると思います。
ただし、物理演算の設定で万能な数値というものはないので、実際に動き方を見ながら微調整を繰り返していく必要があります。非常に地味な作業ですが、私は少しずつ振り子の設定数値を変えながら試行錯誤して作っています。
簡単ではありますが、以上でLive2Dモデルの解説を終わります。
最後に、細部の作りというものは使い回しが難しいです。
通常のLive2Dモデルであればテンプレート機能を使って一定の動きを他のモデルに適応することができます。
しかし細かな装飾品はデザインによって最適な動きが違ってくるため、テンプレート機能ではクオリティの高い動きを付けるのは困難です。
だからこそ、細部にこだわり作り込むことによって、他のLive2Dモデルよりもワンランク上のクオリティを魅せることができるようになると、私は考えています。
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございました!
もっと詳しく解説したかったのですが、正直、私のLive2Dモデルの作り方は直感と経験値によるゴリ押しなので、どう言語化するべきなのか……よくわかりませんでした!
もしLive2Dの作り方に興味のある方は、私のYouTubeチャンネルにてLive2Dモデリング配信をしてることがあるのでそちらもどうぞ!(宣伝)
また、Live2Dモデル制作のご依頼・ご相談がありましたら以下のメールフォームよりお気軽にお問い合わせください!ヾ(ӦvӦ。)ノ
※個人・法人問わずご依頼は受けていますが、執筆時点でかなり先までスケジュールが埋まっています。スケジュールに余裕をもってお問い合わせいただけると助かります。
さて、今後の note での執筆についてですが……完全に未定です。
仕事用のLive2Dモデルを制作しながら、販売用と趣味用のLive2Dモデルも制作し、イラストを描き、小説を3本並行執筆しつつ、キャラデザや装丁作業もして、YouTube動画も作り配信もやっていると……いくら時間があっても足りない…助けて…………orz
\ ともあれ、改めてここまで読んでいただきありがとうございました! /
執筆:はちゃち / Webサイト / Twitter / YouTubeチャンネル