GPIFの基本ポートフォリオに関するメモ(詳細版)①:ブラック・リターマン・モデル

以前、下記のように基本ポートフォリオについて下記のメモを記載しました。現在、夏休みを使って学生にサポートを得ながら、その再現をしようと試みています。GPIFがどのようにポートフォリオを決めているかについての詳細についても理解してきたため、簡単なメモを記載しようとおもいます。今回も、必要に応じて加筆・修正します。
GPIFの基本ポートフォリオの決定方法についてのメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)

ポートフォリオを決める際に、しばしば問題になるのは、過去のデータ等を用いて期待リターンと分散・共分散をベースに最適化すると、非常に極端なポートフォリオが示唆されるということです。特に期待リターンの計算がむずかしく、かつ、この値を変更するとポートフォリオの結果が劇的にかわってしまいます。期待リターンが変わるたびにポートフォリオが劇的に変わると実務的には使用しにくいという問題があります。一つの方法として、色々な制約をいれることなのですが、制約をいれすぎると、そもそも最適化計算をする意味がなくなっていきます。

かつてゴールドマンサックスにいたブラックとリタ―マンは、この問題に対して、マーケットポートフォリオをベースに、自分が考えるビューを反映させる形で解決しました。これをブラック・リタ―マン・モデルといいます。

GPIFは、ブラックとリタ―マンが提案した手法を用いて、基本ポートフォリオを定めています。具体的には、GPIFでは、マーケットポートフォリオが実現されるリターンを逆算し(これを均衡リターンやインプライドリターンといいます)、自分たちで考えるリターンを用いて、それをベイズ更新するということを行います。そのうえで、その更新された期待リターンをベースに、リスクが最小化されるポートフォリオを計算します。そのイメージは下記のとおりです。

https://www.gpif.go.jp/investment/20231205_workingpaper.pdf

その結果、下記のように、4つのアセットクラスが25%づつ保有されるというポートフォリオが生まれるということです。

この手法では、自分たちが考えるリターンをどのように考えるかが非常に重要ですが、そこではビルディングブロック法と呼ばれる積み上げ計算をしています(国内債券については財政検証の結果を用いています)。この手法がある意味、GPIFのポートフォリオ構築の重要なポイントともいえるのですが、これについては別の機会にこれだけで議論しようとおもいます。

ブラック・リタ―マン・モデルについて
今回、色々な書籍をみたのですが、ブラック・リタ―マン・モデルについてはファイナンスの書籍で意外と記載されていないという印象です(私が学生時代は、金融の講義をかなり受けたほうですが、この手法が講義で取り扱われることはありませんでした)。その概要を知るには、MITでリタ―マンが講義をしているので、これを見るのがまずは一番良いのでは、と感じています。


また、ウェブで読めるものですと、下記が分かりやすいことに加え、Pythonのコードもふされており、参考になる印象です。
ブラック・リッターマンモデルによる資産配分を解説してみる(Pythonによる実行例つき) #Finance - Qiita

いくつか書籍をみたのですが、例えば、下記の書籍では、比較的丁寧に記載されています。

なお、ブラックリターマンの方法が開発された経緯については、下記の書籍の15章(「ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント」という章)で、ブラックとリターマンが、ゴールドマンサックスでこの手法にいきついた理由が細かく書かれているので一読の価値はあるとおもいます(今amazonで購入できなくなっているのが問題ですが)。ファイナンスはプラクティカルな学問であるはずなので、教科書や論文だけでなくて、開発者がどういう問題を抱えて、どういう風に解決していったかを知ることは非常に有益だとおもっています。


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