骨延長(脚延長)手術を、健康な人がやる価値はあるのか?
足を伸ばす手術がある。簡単に言うと、骨折した骨が自然に治癒する現象を利用して骨を伸ばす……ということらしい。詳しくは『脚延長術』『骨延長』『イリザロフ法』などで調べてみるとわかりやすいだろう。
最近、ネットなどで骨延長手術体験談が流れてくるようになった。
手術は海外で行われることが多いらしく、費用は安くても数百万円から。脚の延長は毎日一ミリ程度伸ばすので、目標の身長に達するまで数ヶ月滞在することもある。個人差もあるようだが、延長中は痛みが続くこともあるらしい。そして中には、失敗する場合もあるそうだ。
そもそも、骨延長手術での成功とは何か?
それは、
1.目標の身長に到達すること
2.退院後、しっかり歩けて、日常生活に支障がないこと
の二つであろう。
問題は2番目だ。
さすがに、この手術で手術前よりも脚の調子が良くなると思う人はいないだろう。
私がネット上の骨延長手術体験談を読んだ限りでは、手術前と全く変わらず歩いたり走ったりできるという人は見つけられなかった(もしかするといるかもしれないが)。
骨延長希望者の多くは、身長を伸ばせるなら、歩行機能が一割程度低下したとしても受け入れられる……ということなのだろう。これが『しっかり歩けて、日常生活に支障がないこと』と言えるのかもしれない。
ところで、私達人間が何か重大な決断や挑戦をしようとする際、『成功率』と『危険性』というものが常に頭をよぎるはずだ。
たとえば、スカイダイビングやバンジージャンプをしようと思った時の成功率と危険性は?
失敗すれば大怪我か死、それが危険性であろう。そんな事故が起きれば運営会社は隠しきれないし、通常営業している時点で、ほぼ100%安全に成功してスリルという楽しみが得られると判断できる。だから人々はやってみるのだ(私は絶対にやりたくはないが)。
骨延長の『成功率』と『危険性』とは?
骨延長手術で死ぬことは無いかもしれないが、術後の骨形成がうまくいかず日常生活に支障が出たり、合併症が出て脚切断ということはあるそうだ。これが危険性だ。その危険性がとても少なければ……、つまり骨延長の成功率がものすごく高ければ手術は一考に値しそうだが……。
ところで骨延長の成功率は何%と言えるのだろうか?
そのようなデータは各骨延長施術病院しか持っていないと思う。もしかすると成功率を公表している病院もあるかもしれない。ただそれも、注意深く確認する必要がある。患者側からすると、『しっかり歩けて、日常生活に支障がないこと』が成功だったとしても、病院側からすると『患者の希望身長に達したこと』『かなり遅いけれど一応歩けること』などを成功として数えているかもしれないからだ。
良心的な病院であれば、患者たちの十年後、二十年後の満足度も追跡調査して公表すべきだろう。
退院後『しっかり歩けて、日常生活に支障がない人』が何%
10年後『しっかり歩けて、日常生活に支障がない人』が何%
20年後『しっかり歩けて、日常生活に支障がない人』が何%……等という具合に。
このような数値こそが、骨延長手術を受ける判断材料となりそうだ。
健康な脚の大切さについて
人間の全身筋肉の60~70%が脚にあると言われている。歩いたり走ったりすることで脚の筋肉が鍛えられれば、基礎代謝も上がりダイエットにも効果的だ。
しかしもし、骨延長手術によって歩くのが苦痛になってしまったら……。退院後はしっかり歩けても、数年後に調子が悪くなるかもしれない。そのような場合、健康維持や体重維持に、より困難が予想される。
また近年、歩くことの重要性が特に強調されるようになってきた。
以前は、歩いたり走ったりするのは関節を痛めるので、水泳や自転車の方が良い、などという話があったものだ。水泳は今でもダイエットに最も効果的な方法ではあるが。
最近言われているのは、歩いたり走ったりジャンプをすることで、骨の強度が増す、更には脳にも良い影響があるというものだ。
参考サイト
―――――――――――――――――――――――――――――――――― 『ウォーキングの衝撃は骨と脳の健康に良い 1日10分は骨や体に衝撃が加わる運動を』
https://dm-net.co.jp/calendar/2020/029933.php
『“衝撃”の事実!
ジョギング・ウォーキングの効果は、脳への“衝撃”によるものだった!!
頭への適度な“衝撃”が脳機能を調節・維持することが明らかになった!!!』
http://www.rehab.go.jp/hodo/japanese/news_2019/news2019-03.pdf
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おわりに
身長に悩みがある人にとって、骨延長手術はとても魅力的に映るかと思われる。人はそういう状態の時、失敗の可能性よりも成功体験談ばかりに目を向けがちではないだろうか?
健康な人が骨延長手術をするというのは、それは美容外科に近いと思う。顔の美容整形も失敗すると大変かもしれないが、十年、二十年後に日常生活が困難になることはそれほどないはず。健康な人が美容目的で骨延長手術をするというのは、顔などの美容手術よりも何倍も覚悟が必要だと思う。
骨延長手術は、
『何をもって成功と見做すのか』
『成功率』
『危険性』
をしっかり理解した上で慎重に検討すべきだろう。
失敗したら、手術を請け負った病院が補償してくれるのか、責任を持って無償の医療が受けられるのか、そうでない場合、国内に戻っての医療費はどれくらい必要なのか、足が不自由になった場合は、今の自分の仕事を続けられるのか? ……等々も。
骨延長体験談を読んでみると、大変だったけれどやって良かったという意見が多いように思う。が、ここ数年の比較的新しい体験談が多く、10年、20年後の後日談などは私は見つけられなかった。一般論としても失敗談より成功談を語りたがる人の方が多いのだろう。
このようなことから、脚延長術は成功率が高いと感じる人もいるかもしれない。もしかすると、実際には成功率がかなり高いのかもしれないが(私には知る術がないし調べる情熱もない)。
骨延長をするなら、まずは確かなデータを求めたほうが良さそうだ。