WEリーグテクニカルレポートの感想

WEリーグにて23-24シーズンのテクニカルレポートが掲載されたのでこちらの感想を残しておきます。
 
https://weleague.jp/news/1421/
 
大会運営側が発表するテクニカルレポートはFIFAがかなり昔のW杯より始めており、それにUEFAが続いた形です。2010年以降はデータの活用が増えデータレポートと化した感も否めませんが、インターネットの高速化により映像も埋め込まれるようになったので表現は多彩になりました。近年は国内リーグや表には出ていませんがJFAも発行しているようで、分析や考察をまとめた上でアウトプットを行うのは素晴らしいことだと思います。
 
一方でこれはFIFA、UEFAもそうですが、大会運営側が出すレポートだと、ある程度課題に触れるものの本当に触れられたくない課題には一切触れないというケースがあります。これは大会そのものの価値に影響するのでこうなってしまうのでしょう。基本的に分析は第三者機関に任せる方が良いと考えていますが、仕事の関係性上やっぱり言えなかったりするので、ファン層の方々が一番やりやすかったりします。ただ詳細なデータにアクセスできないのと、ウェブ記事にしろ動画にしろPV目的で変な誇張が加わるので、誰がやるのかという点は難しいですね。

もう一点、特に日本国内のレポートですが、やたら海外と比較したがる傾向にあります。今は数値を使ってそれっぽく海外と比較できてしまいますが、現存のサッカーのデータは各ボールアクションの結果をベースに構築されただけで守備側の状況が考慮されていないため、リーグを跨いで「クオリティ」の比較をデータから行うのはほぼ不可能です。「クオリティ」の分析を行うのであればシチュエーションに分けて「サッカーの分析」をする必要があります。ただ、この領域まで行くとレポートを作るのが大変になるので、現実的には難しいでしょう。
 
改めて本題に入ります。自分の記事にはデータは貼りませんのでリンク先にてご確認ください。
https://weleague.jp/news/1421/
 
攻撃、守備のサマリーデータが掲載されていますが、自分としては海外と比較するならアクチュアルプレーイングタイム(試合のインプレー時間。以下APTと記載)とスローイン数orアウトボール数(ピッチの外にボールが出た回数)を出して頂きたいです。APTはチームのスタイルに影響するものなので長ければいいという数値でもないですが、プレーのクオリティが低い場合はピッチの外にボールが出るorセーフティに外にボールを出すプレーが増えるので、これがどれくらいの状況なのか把握しておきたいですね。
 
このサマリーで一番気になったのはロストや奪取といったトランジション周りのスタッツが海外よりも明らかに多い点。ロングボールを多用する場合はこうなるでしょうが、パス数は逆に他のリーグより多いのでそういうわけでもなさそう。ロストor奪取のエリア比率はミドルサードが多いのでこのエリアで引っかかっているようですね。ルーズボールデュエルが高いですが、この数値は両者がボールを追いかけている時などにカウントされやすいので、短距離パスで保持したのちに中距離以上のパスで変化をつける際のキック精度、味方とのポジショニングのズレ辺りが要因かなと推測します。
 
ファウル、警告の少なさは過去のレポートでも触れていましたが、ファウルと警告って審判の判断の結果なので、審判の判断は他のリーグと統一されているのか、事象に対して判断は正しいのかなど分析する上での前提が多く必要でかなり難しい分析になります。また、ファウルで試合が止まるケースが少ないという意味では良いと言えますが、ファウルが少ない環境で世界と戦えるのかという疑問もありますし、降格がないリーグだとわざわざファウルをしてまで止める必要がないとも言えますね。
 
プレーのクオリティ調査は難しいですが、WEリーグはお客さんを増やさないといけないエンターテインメントの一つですから、お客さんが盛り上がるゴールのシーンが多いかどうかという点は重要だと思います。そしてゴールを奪うためにはシュートが必要なのでその数と、そのシュートの期待値も参考になるでしょう。これを見るとWEよりドイツはなぜそんなに低いのか気になりますが。
 
各所で人気なPPDAも通常のイベントデータから作られているものなので、リーグ間で比較はできません。Wyscoutならプレッシャー下のデータもあるはずなので、自陣でプレッシャーを受けた際にどういうプレー選択をするかを掲載した方が良いと思います。
 
最後の試合展開のグラフですが、グラフ上でローorハイクオリティの色分けがされているのにこの定義や分析について触れられてなく謎でした。最後の15分のゴールが増えるのは普通ですが、海外に比べ順位に関係なくその傾向にあるとのこと。逆に言えばボールの行方がオープンかつルーズになる最後の時間帯で順位に関係なく失点してしまうとも言えるので、エンタメとしては面白いですが、クオリティとしては修正した方がいいように思いますね。
このグラフだと優勝した浦和は前半の序盤と前半最後の時間帯でしっかり点を取って主導権を得ているのでさすがだなと感じました。
 
全体としては「テクニカルレポート」と言いつつそんなにテクニカルしていないので、もう少しその面に触れてもいいように思います。映像もデータで表れたシーンを選んだだけのようですし。
とはいえ実際作るのは大変ですし、お一人で作っているようなので、これ以上を望むのは難しいかもしれません。お疲れ様でした。

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