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岳人列伝(積読な日々003※完結済)
「東京城址女子高生」の後に本作を読みましたが、物語の8000メートル規模の高度差と気圧差にやられました。登場人物の業が深くて息が吸えない。
”今、一番感動する「人間ドラマ」!
「そこに山がある限り、彼らは登り続ける…!」
厳しくも険しい、でも美しく気高い山々魅せられた、鋼鉄の体と心を持ったクライマーたち。
山岳を舞台に、極限の状況下にある人間ドラマを描いた傑作短編集!”
世間的には幕末を舞台にした医療漫画の「仁ーJINー」で有名な作家ですね。岳人列伝自体は文庫本1冊で終わって、中古でも送料込みで500円くらいで買えます。
作風が完成されている
掲載は1981年。テレビ番組では黒柳徹子の「ザ・ベストテン」が放送されて、日本全体が浮かれてバブル崩壊まで突き進んでいる頃ですね。そんな時に作者は30歳で硬派な山岳漫画を描いてるわけです。登場人物たちは文字通り命を懸けて頂きを登ります。
現在にまで続く作品性は完成されていますね。細かい筆致で感情を揺さぶるエピソードを放つ。仁はこれが際立ってて、感動と号泣を通り越して、読者の感情を殺しにくる作品です。
本作は各話完結のオムニバスですから、仁ほどには至りませんが、それでも山岳家の業を描き切ってて、読んだら山ごころを奮わされます。
山屋というより山狂い
登山漫画と山岳漫画のあいだには、深くて暗い河がある。
「山と食欲と私」や「ヤマノススメ」あたりを登山が趣味の登山漫画だとすれば、本作は「孤高の人」のように命を懸けて頂きに挑む山岳漫画です。両方の間は「岳」あたりになるんですかね。山を登るのが登山漫画なら、山をやるのが山岳漫画でしょうか。
本作から40年近い経過を経て山岳技術は昇華し、80歳でエベレスト登頂に成功するようになりました。死ぬ可能性はあるが一般人も登れる。その意味では、ヤマノススメの富士山も岳人列伝のエベレストも同じ頂きなのです。
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未踏峰から未到法へ
山岳漫画に限らず、スポーツ漫画とかでも人対人の”勝利”は描けても、未知の”冒険”や”挑戦”は描けなくなりつつあります。世界は踏破され、あらゆる競技の限界記録に目途が立ちました。そこらへんをかなぐり捨ててるのが、己との勝利、みたいなノリですね。
現代では先人の偉業の難易度を上げることでしか、冒険や挑戦を描くことはできません。「神々の山嶺」なんかがいい例です。
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それでも山に登り続ける
傍からみれば野菜マシマシアブラカタメみたいな登山法でも、そこに山岳家たちはフィールドを見つけて山をやり続けています。その業に80年代も20年代もたいして違いはありません。
結局私も、本作と神々の山嶺を読んだらそのあとに登山マップを拡げる愚か者の一人に過ぎませんしね。