なぜ「おとな専門」なのか?
今回の記事は、
なぜ「発音デザインproject」が大人専門の相談窓口なのか、というお話。
私たちが、【おとな専門】としている理由は2つあります。
ひとつは、こどもの言語リハビリは、オンラインではなく対面で行われるべきと考えているからです。
私も大学病院でこどもの言語リハビリを担当することがありますが、言語聴覚士がお子さんと実際に触れ合って、その子の様子を観察することは最重要事項なのです。
それはなぜか。
オンラインと対面とでは収集できる情報量が圧倒的に違うから。
言語聴覚士が積み木を渡したら、その子はどうやって積み木を受け取る?(運動機能の発達)
言語聴覚士が紙と鉛筆を渡したら、その子はどんな絵を描く?△を真似して描ける?(認知機能の発達)
言語聴覚士とその子は目が合う?言語聴覚士が大事そうに持ってきた箱に何が入ってるか注目できる?(コミュニケーションの発達)
という具合に。
子どもと遊んでるだけに見えても、実はいろいろなことを観察しているんです。
加えて、お子さんに発音の指導をする場合、口の模型を使って「ここに舌べろをつけるよ〜」といっても、やっぱりなかなか伝わりにくい。
実際にお子さんのお口の中を触って「ここに舌べろをつけるよ〜」といった方が、はるかに理解されやすい。
そう。お子さんにとって、オンラインでのリハビリは効果的な方法ではないのです。
そのため、こどもの言語リハビリは対面であるべきと思っています。
(かなり臨床経験を積まれている言語聴覚士の先生は、実際に対面でお子さんと触れ合わなくても、効率よく指導ができるのかもしれませんが!私はまだその域まで達していませんので!)
そういった理由で、小学生以下のお子さんのリハビリは、専門の施設にお願いすることをおすすめします。
もうひとつは、「大人の発音を相談できる場所少なすぎ!」と思うからです。
私は言語聴覚士の養成校時代に機能性構音障害(口に異常はないのに発音に問題がある状態)を治しました。
言語聴覚士の養成校って、教員が言語聴覚士なんですよ。
なので、担任の先生(言語聴覚士のプロ、プロ中のプロ)に正しい発音を訓練してもらえたわけです。ラッキー!
でも、普通に生活していて、言語聴覚士の知り合いっています?
私は、知り合った人がたまたま言語聴覚士だった…!という経験はありません。
言語聴覚士は全国に約34000人しか有資格者がいません。
ちなみに、同じリハビリ職種である理学療法士は約182000人、作業療法士は約94000人の有資格者がいます。
しかも、言語聴覚士は20〜40代の女性が圧倒的に多い。
ということは、出産や子育てのために、一時的に言語聴覚士の仕事から離れている人も多数…。
はい。どおりで言語聴覚士がその辺をうろうろしていない訳です。
(そして理学療法士や作業療法士より影が薄い訳です。)
そして!
言語聴覚士34000人のうち、約7割は医療機関にいるとされています。
総合病院やリハビリ病院または療養病院といったところです。
病院勤務の言語聴覚士の主な業務は入院患者さんのリハビリです。
ただでさえ有資格者が少ない言語聴覚士は、1人で多くの担当(入院)患者さんを受け持ちがちです。
そこに加えて、外来(入院していない)患者さんも対応できますよー!構音障害の方もウエルカムですよー!という余裕のある医療機関は一体いくつあるんだろう…というわけです。
実際、私は10年近く大学病院に勤務していますが、大人の機能性構音障害の外来通院を担当した経験はありません。
(※他の施設での機能性構音障害の治療経験はあります)
近隣の病院でも「うちは大人の機能性構音障害を受け入れているよー!」という話は残念ながら聞きません。
地方だからというのもあるかもしれませんが。
それなら、発音で悩んでいる大人は諦めるしかないのか?
それは違います。
だって困っているから、
生活や仕事に支障があるから、
なんとかできないかと思って調べて
この記事に辿り着いたんじゃないですか?
この「大人の発音デザインproject」は現実世界に訓練場所を持っていません。
病院でもクリニックでもことばの教室でもない。
発音や滑舌にコンプレックスを持っている方が、
SNSやインターネットを通して
気軽に言語聴覚士と繋がる。相談できる。
ご希望に応じて、オンラインで発音のトレーニングを受けることができる。
それが私の目指すところです。
この取り組みは始めたばかりですが、
発音や滑舌に苦手意識を持つ方が
この相談窓口を通して
苦手意識を克服できたら
自信を持って会話ができるようになったら
それは言語聴覚士冥利に尽きるってもんです。
機能性構音障害を経験した言語聴覚士として
そんなに幸せなことはありません。
そんな気持ちで発信しています。
この想い、誰かに届けーーーー!!