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トランプEV優遇廃止、なぜイーロンマスクは支援するのか?

トランプ政権は、バイデン政権で進められてきたクリーンエネルギー優遇政策や厳格な環境規制を廃止する方向に舵を切っている。EV(電気自動車)を筆頭にクリーンエネルギー産業にとって痛手となるように見えるが、なぜかテスラのCEOであるイーロン・マスクはトランプ政権に接近し、閣僚ポジションにまで就いた。この背景には、マスク自身の事業戦略を有利に進めるための巧妙な狙いがあると考えられるのだ。

第一に、クリーンエネルギー推進策の廃止によって新規参入組や他の自動車メーカーが受けるダメージが大きい点が挙げられる。現状、EV市場はまだテスラが先行しているが、大手自動車メーカーがこぞってEV開発に注力し始めたため、その首位の座が脅かされる可能性があった。ところが、トランプ政権が税制優遇をはじめとするクリーンエネルギー推進策を縮小すれば、新規投資の後押しが弱まり、結果的に他メーカーのEVシフトが鈍化しかねない。テスラはすでにある程度のブランドや量産体制を確立しているため、EV業界の乱立による競争激化を回避しつつ、既存の優位性を保ちやすくなるというわけである。

第二に、トランプ政権が力を入れている宇宙開発との親和性が高いことだ。トランプは軍事利用を含めた宇宙開発に積極的であり、NASAへの予算や民間宇宙ビジネスとの協力強化を表明している。マスクが経営するスペースXは、火星移住計画やロケット再利用技術などで常に最先端を走ってきた。同政権下での宇宙事業拡大は、スペースXに莫大な利益をもたらす可能性が高い。マスクにとっては、テスラだけでなくスペースXの成長も同時に狙える絶好の機会であるといえる。

第三に、不法移民の強制送還などを含む移民政策において、マスクが構想する未来とのリンクが見られることも興味深い。マスクはAI(人工知能)や人型ロボット「オプティマス」といった自動化技術を推し進め、人間の労働に依存しない社会の実現を目指している。もしトランプ政権の強硬な移民政策によって安価な労働力が減少し、その穴埋めとして自動化技術やロボット導入が促進されるならば、マスクのビジネスにとってはむしろ有利に働く。将来的に労働者不足が顕在化する場面で、テスラやスペースX傘下の最新技術が活躍すれば、さらなるビジネス拡大につながるからだ。

これらの要因を総合すれば、クリーンエネルギー優遇策を廃止しようとするトランプ政権の動きや、宇宙開発・移民政策を含む諸施策は、イーロン・マスクの事業領域を盤石にする上でむしろプラスに作用しかねないという構造が見えてくる。表面的には「EV大手であるテスラがなぜクリーンエネルギー廃止を唱える政権を支持するのか」という逆説的な印象を与えるが、その実はマスクにとって、競合企業の出鼻を挫き、宇宙開発での連携を深め、将来のAI・ロボット市場を育む格好のチャンスなのである。トランプ政権下での政策が、マスクのビジネス戦略を裏側から支える図式が浮かび上がるというわけだ。

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Kay米国株式投資🇺🇸
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