見出し画像

新型コロナウイルス禍の中で -横浜猛蹴・若田和樹選手インタビュー-


 2020年の日本列島を襲った新型コロナウイルス禍は、スポーツ界にも多大な影響を及ぼした。それはサッカー界も例外ではなかった。
 JリーグはJ1・J2が第1節を終えた時点で長い中断期間に入った。J3は開幕延期、なでしこリーグも同様に開幕延期とせざるをえなかった。
 社会人サッカーへの影響も甚大だった。JFLは開幕延期及び第1節から第15節を中止とした。各地域リーグもリーグ戦の縮小やトーナメント化が余儀なくされた。また、JFL昇格枠争いにも関わる全国社会人サッカー選手権大会(通称・全社)も中止となった。
 その中で、今回は関東2部リーグを戦う横浜猛蹴(よこはまたける)のGK若田和樹選手にお話を伺うことができた。現場で戦う地域リーガーが感じた今をお伝えしよう。

 まず、横浜猛蹴というクラブを簡単に紹介しよう。神奈川県横浜市に本拠地を置く猛蹴は、昨季関東1部リーグ最下位に終わり、今シーズンから関東2部リーグを戦う。このクラブの特徴はスポンサーが一切ついていないことだ。所属選手が払う部費によって運営が行われている。
 猛蹴はJリーグを目指すクラブではない。そして、実業団でもない。働きながら、もしくは学業に励みながら、お金を払ってでも本気でサッカーに取り組む生粋のサッカー好きの集まり。それが横浜猛蹴というクラブである。
 その猛蹴のゴールマウスを守る守護神が今回インタビューさせていただいた若田選手である。背番号9番を背負うGKに、まず緊急事態宣言が発令された時期から振り返ってもらった。
「まず、週1~2回、平日の夜に行ってる全体トレーニングができなくなって、オンライントレーニングに切り替わりました」
「オンラインに切り替わったのが4月中旬。スタッフによって選定されたトレーニングを個々の選手が行って、その結果をナイキのトレーニングアプリを使って記録する。その結果をスタッフに報告するという形でやってました。あとは、長距離を走ったり、公園でボールを使ったり。毎週の練習に向けて頑張るというこれまでの形から、毎日個々で頑張るというスタイルに変わりました」
 全体練習ができなくなったことでボールを使った練習から、選手個人で体力の維持・向上を行うという形にシフトした。選手によっては仕事で大きな影響を受けたり、リモートワークに切り替わり自宅で過ごす時間が増えた選手もいたという。
 社会人・学生としても、サッカー選手としても、これまでにない一か月半を過ごし、再び全体練習が再開したのは6月4日のこと。ともすれば、体力やサッカー感が落ちてしまうように思われるだろう。しかし、全体練習再開後のチームの様子は想像とは全く異なる様相を呈していた。
 なんと自粛後の方が選手個々のコンディションが上がっていたというのだ。その要因を若田選手はこのように語ってくれた。
「普段よりもサッカーをやりたいという欲が高まってる感じはしましたし、自分と向き合う時間が増えて(トレーニングを)やらないと遅れちゃうという意識が全体に強く持てたのかな(と思います)。普段のチーム練習の時間自体が他のチームさんと比べてかなり少ない方なので、個人でやらなきゃいけないところが他のチームより幅として大きい。逆に自粛期間で自分の弱点を克服しようとか、長所を伸ばそうとか、そういう意識が持てました」
 また、アプリによる管理も役立ったようだ。
「(例えば)走るとタイムが出る。(アプリに結果を入力することで)数字で客観性が見えてくるので、そこを上げてくというのが作業としては楽しい部分もあった。普段体力面でキツいところはやりたくない気持ちが出るけど、意識を高く持てたのかな、と思います」
「それと、アプリが初球・中級・上級とレベルが分かれているんです。そうしたら、やっぱり上級を目指したい気持ちが出る。あと、トレーニングの内容とか結果とかがチームのグループLINEに貼られるんです。誰が何やったかが出る。(そうすると)同じポジションの選手がキツいのやったら自分も(キツいトレーニングを)やらなきゃってなりました」
 こうして、怪我の功名とも言うべきだろうか、チーム全体としての競争が活性化された。
「普段は4月にリーグ戦が始まりますが、そこまで1か月くらい使ってレギュラー組・ベンチ組・メンバー外と固めていきます。だけど、今年はリーグ開幕までそんなに期間がなかったので、競争がすごく激しくなった。練習参加率も(例年より)上がったし、新加入の選手も結構(練習に)参加してもらえました」
 しかし、そうした例年以上に高い意識を持った形でシーズン開幕を迎えても、ふたを開けてみると中々結果が伴わないのが現状である。今季、ここまでの二試合は昇格組との試合となったが、どちらも引き分けに終わった。
「どんなカテゴリーでもどんな相手でも、簡単な試合はないですね」
 そう振り返る若田選手は今後の課題を語ってくれた。
「(昼間は選手が仕事や学業に励んでいるため)練習は夜の9時から行ってます。でも、試合は(土日の)昼間の明るい時間帯。(梅雨明けが遅れていることもあり)まだ暑熱順化ができていない。日中の暑さにどれだけ対応できるかがこれからの課題です」
「(それから)目の前の試合にどれだけ気持ちをかけて戦えるかってところ。僕らはまだ足りない。シンプルに戦う気持ちはもっと上げていかないと。あとは自分たちの持ってる武器をどのように使っていくか。まだお互いの長所を生かし合えてない。プロや学生と違うので毎日練習してるわけじゃないし、修正や強化を逐一できるわけじゃない。自分たちが持ってる武器をお互いどう使っていくかっていうのをよく考えるところが必要かなと思います」
 残り7試合。後期戦のみの短期決戦となった関東リーグは1試合1試合の重みが例年以上に増している。それだけに、次戦まで間が空くこの時期は非常に大事になってきそうだ。
 ところで、現在、関東リーグは無観客での公式戦が行われている。今度はその点について若田選手に語ってもらった。
「お客さんが入っている方が選手のテンションとしては上がります。お客さんがいないと見せてやろうとか、そういうところが減る感じはあります」
 そう語りつつも、猛蹴の本質に繋がる部分を教えてくれた。
「(ただ)うちはサッカーを本気でやりたい人たちの集まり。応援してくれる方のためにっていうのはあるにはあるんですけど、まずは自分たちが楽しくなるべく高いレベルでサッカーをやりたい、強い相手とやって勝ちたいというところがある。自分たちが少しでも勝ったり元気な姿を見せるところが僕らにできること。応援してくれる人のために特別何かをやろうっていうのはないです。試合に来てくれる方も選手の保護者が多いですしね。うちとしては僕らが一生懸命頑張って勝てば一番良いよねっていう感じです」
 猛蹴は、プロクラブのようにファンサポーターやスポンサーのために戦うという意識はあまり強くない。まず、自分たちに矢印が向いている。プロにならなくとも、なれなくとも、サッカーを続ける意味は何か。それを常にピッチ上で全力で体現しているのが、猛蹴というチームなのかもしれない。
 だが、一方でサッカー界全体にもその目は向いていた。
「例えば、関東リーグだったら、関東リーグ自体が盛り上がればリーグとしての注目度も上がる。そうすれば、うちは違いますけど、スポンサーが増えたり資金が増えたり、上のカテゴリーに行く準備もできる。現実そんな余裕はないと思いますけど、ライブ配信とかでもっと発信出来た方がリーグとしては良いかもしれません」
「(Jリーグなどの)トップリーグでは会場でドラマチックなプレーを見せるのがお金も人も関心も集まる。今まではそうでした。でも、そうじゃなくなった以上は見せ方を(変える)、試合以外の部分でも見せていかなきゃいけない。Jリーガー個人でYouTubeのチャンネルを開いてる人、増えたじゃないですか。ああいう発信は良いと思います。今まで見られなかったところが見えるようになって、技術だけじゃなく私生活とか個人の考えとかが見えてくると、雲の上の存在だった人が(ファンサポーターに)近づいてくるのかなって思います」
 自身もYouTubeのチャンネルを開設している若田選手。しかし、選手やチームが発信できることには限りがある。だからこそ、このような状況だからこそ、我々メディアの人間が積極的に発信していく必要があるのではないか。筆者自身には、そのように感じられた。
 新型コロナウイルスの影響はいまだなお収まるところを知らない。サッカーのある日常は当たり前ではない。そのことを改めて感じさせられた、今年の上半期であった。
 サッカーに本気で取り組む男たちの集まり・横浜猛蹴。サッカーのできる喜びを改めて感じた彼らの躍進に期待したい。
 最後に若田選手からのメッセージを載せて締めとしよう。
「残り7試合、7連勝目指して頑張ります! 横浜猛蹴とYouTubeをよろしくお願いします!」

横浜猛蹴公式ホームページ↓

横浜猛蹴公式Twitter ↓

https://twitter.com/takeru_official

若田和樹選手YouTubeチャンネル↓

https://www.youtube.com/channel/UC6EVKFK7OJYCTIoQMe0vdBg/featured

<プロフィール>
若田和樹
1987年10月25日生まれ。神奈川県出身。弥栄高校、法政大学、横浜GSFCコブラを経て現在は横浜猛蹴でプレー。ポジションはGK。特技はパントキック。

文:湯郷五月

いいなと思ったら応援しよう!