1件目 トッパン

『女子高生刑事怪奇録』第1話

 作:湯郷五月

 東京都千代田区霞が関。皇居の目と鼻の先、かの有名な桜田門に面する形でそびえ立つ建物がある。警視庁。それすなわち東京都警察である。人口約1400万人。日本一の人口を抱える東京都の警察組織を一手にまとめるのが警視庁である。
 その警視庁前に1人の女が立っていた。パンツスーツ姿はモデル並みに高い身長とスラッと伸びた長い手足にピッタリと合い、ショートカット気味に短く切りそろえられた髪の毛は春風に僅かに揺られていた。
 顔立ちは整っているものの化粧っ気は薄く、細く整えられた眉とつり目からは勝ち気な印象すら漂わせる。見るからにキャリアウーマンという風貌。ただ、それが逆に人を近寄らせない圧倒的なオーラを放っていた。
(えっと、こっちで合ってるのよね……)
 女は堂々と庁内に入り、エレベーターの降下ボタンを押した。堂々とはしているものの、どこか落ち着かない素振りを隠せない。それが彼女にとって初めての警視庁訪問であることを滲ませていた。
 警視庁の地下5階、本庁最下層にあたる場所でエレベーターを下りる頃には、最早彼女1人しか残されていなかった。下り立った瞬間、目の前に扉。切れかけた蛍光灯が明滅する中、若干の不気味さを覚えながらも彼女は扉に手をかけた。
「やあ、いらっしゃい」
「うわあ!」
 が、彼女が力を込める前に突然扉が開かれた。手前に開くタイプの扉だっただけに、彼女は思わず尻餅をつきかけた(生来のバランス感覚で倒れずに済んだようだが)。
「い、いきなり開けないでください!」
「ああ、ごめんごめん。ちょうど人が来た気配がしたもので」
 だったら尚更開けはしないだろう。心の中で目の前の狐目の男へ恨み節を垂れる。
「ごめんね。改めてどうぞ」
 どうも彼に悪気はなさそうだ。これから同僚になる男といきなり険悪なムードになるのもいかがなものかと考えた彼女は促されるままに室内へ足を踏み入れた。
「あ、晴(はる)さん」
 入った瞬間、小柄な影と目が合った。紺色のブレザーの上に白衣を纏った小柄な少女。黒真珠のような丸い瞳がこちらを見据えると、腰まで伸びた絹のような黒髪がふわっと揺れる。
「お久しぶりです。本当に来てくださったんですね」
 晴と呼ばれた女は小柄な少女のことを知っていた。といっても、僅か1回ばかり彼女の『捜査』を手伝っただけなのだが。
「ええ、久しぶり。先月のロンドン以来ね」
 よもやただの休暇旅行から僅か一月で本庁配属に異動になるとは晴自身全く予想だにしなかった。そもそも彼女にとって本庁配属は1つの目標であった。その目標を達成できたのだから喜びもひとしお。かと思いきや、彼女の表情に歓喜の色はない。
「どうしました? 折角夢が叶ったのに浮かれないようですね」
「あのね、私は一課配属希望って言ったでしょ? 希望が全く通ってないんだから、そりゃ不満もあるわよ」
 実のところ、彼女には不満しかなかった。約一月ほど前、警視総監と昵懇の中という少女に本庁への転属を勧められ、希望を胸に捜査一課配属希望を伝えたものの、蓋を開けたらたどり着いた先は警視庁の最下層。見る限り、捜査員も2人しかいないようでは先が思いやられるというものだ。
「私、嘘つきは嫌いなんだけど?」
「嘘ではありませんよ。確かに警視総監殿にお伝えしました。その結果、晴さん、あなたは我がトッパンへの配属が最も適任であると判断されたのです」
 にわかには信じられなかった。言葉面だけ丁寧で人を食ったような話し方をする少女を誰が信じられようか。そもそも警視総監との仲でさえ真実とは限らない。
「あのね、そんな言い方で人が信じると思う?」
「信じるか信じないかはあなた次第です」
 腹が立つ。飄々とした口ぶりが尚更神経を逆なでする。
「じゃあ、証拠を見せなさい、証拠を! あなたが総監に直接伝えたっていう証拠を!」
「わああ、待って待って」
 その瞬間、会話に割り込んできたのは狐目の男だった。
「晴さん、落ち着いて。いきなりケンカはダメだよ。薫ちゃんも。人を怒らせるような言い方しないの」
「晴さんの気が短いだけじゃありませんか?」
「こら、薫ちゃん」
 瞬間、晴は気付いた。この狐目の男、ただの優男のように見えて実は只者ではないのではないかと。
「……すみませんでした」
 薫と呼ばれた少女は口を尖らせながら謝罪の言葉を口にした。この男は敵に回してはいけない。晴はそう直感した。
「それじゃあ、改めて。細川晴巡査部長、ようこそトッパンへ」
 狐目の男はそう言ってノートパソコンを取り上げた。
「証拠を見せろって言ってたけど、実は総監からのビデオメッセージを貰ってるんだよね」
 何!? そういうことは早く言ってくれ。総監直々に何のメッセージだろうか。緊張感と高揚感が晴の中で入り交じった。
「まあ、観てくれればわかるよ」
 男はそう言って再生を開始した。
『細川晴巡査部長、初めまして。警視総監の山村貫徹(かんてつ)である』
 オールバックになでつけた白髪、細く整えられた眉、縁の細いメガネ、その奥で鋭く光る切れ長の瞳。そこに映る壮年の男は確かに山村警視総監だった。彼女自身、彼の名前や顔は当然のごとく知っていた。
『君の話は薫から聞いた。ロンドンでの活躍、見事であった。本庁転属の件、捜査一課希望である点、全て把握している』
 語尾が僅かに上がる喋り方が特徴的だ。そんな独特の口調で語る一言一句は重く心に響いてくる。その言葉からは、薫と呼ばれた少女の語ることが嘘ではないと伝わってきた。
『しかし、あえて言わせていただきたい。君の適任はトッパンだ。トッパンこそが君の生きる道である。薫の話を聞き、私が総合的に判断した。それ故の人事である。君の希望に添えなかったことは申し訳ないと思っているが、君はトッパンに必要な人材だと私が考えた』
「総監……」
 やはり薫の言ったことは間違いではなかった。だというのに、彼女の話し方一つで勝手に真偽を判断して。
「薫ちゃん、ごめん……。私……」
「まだビデオメッセージは終わっていませんよ」
 彼女のその言葉で再び意識がパソコンへ向いた。
『では、細川巡査部長。今後、我が愛娘を側で支えてやってほしい。よろしく頼んだ』
 プツン。
「以上で終わり。ねっ、これで信じてもらえた?」
「えっ、いや、あの」
 そうだ。確かに薫の言ったことは真実だった。このビデオメッセージはその証拠と呼んで差し支えないだろう。だがしかし、総監は最後に何と言った? 爆弾発言、残していきませんでした?
「ね、ねえ。聞き間違いじゃなければなんだけど、薫ちゃんって……」
「はい。ボクは警視総監の娘ですよ」
 えええええええええええええええええええ!?
「ま、まさか! 総監と昵懇の仲って……!」
「はい、親娘ということです。というか、名字が同じなんですからすぐに気付いてください」
 コホン。薫、小さく咳払い。
「改めまして、警視庁特殊事象捜査課特別捜査班班長・山村薫。階級は警部です。よろしくお願いします」
 い、いや、確かに名字は同じだったけど。鈴木や佐藤ほどありふれた名字ではないからもしかしたらと思っていたけど。
でも、似てないし。全然似てないし。そんなんで気付けって無理あるでしょ、普通。てか、いくつのときにできた子供よ!
「晴さん?」
「えっ? あ、ああ、よろしく」
 そのときの晴の衝撃といったらすさまじく、薫に促されなければ彼女が差し出した右手にすら気付かなかったとか。まあ、ちゃんと握手できたし何とかなるでしょ。
「で、こっちが」
 互いに握手を交わしてから薫が指さした先。そう、狐目の男だ。
「ああ、僕ね。僕は警視庁特殊事象捜査課課長・赤松則政(あかまつのりまさ)。階級は警視。よろしくね」
「か、課長!?」
 晴、本日二度目の衝撃。というのも、晴は彼のことを自分と同い年くらいに思っていたからだ。つまり、アラサーで課長で警視。これは彼女にとってあまりにも早い出世スピードである。
「お、お若いのに課長さんですか……。すごいですね。いや、でもキャリア組ならそうでもない……?」
「やだなあ、晴さん、若いだなんて。僕、こう見えても40超えてて既婚済み2児のパパだよ」
「ええええええええええええええええええ!?」
 それが細川晴の受けた今日最大の衝撃だったという。

 警視庁特殊事象捜査課特別捜査班、通称トッパン。そこが新年度を迎えた細川晴の所属先となった。警視庁の最深部・地下5階に事務室を構え、警視庁内に10個ある部(刑事部や公安部等)には一切属さない警視総監直轄の独立部隊。それがトッパンである。
 などと大それたことを述べてはみたものの、その実態は晴を含め僅か3名しか所属していない閑散部署だ。わざわざ特殊事象捜査課などという仰々しい名称を付けてはいるものの、その下に晴と薫以外の班や刑事が配されているかといえばそんなことはない。あくまで体裁を整えるためだけの名付けなんだとか。
 そもそも警視総監の娘を総監直属の独立部隊に組み込むこと自体が縁故だの身内贔屓だのと庁内で批判の的となっている。その薫自身が未成年の高校生となれば、なおのことであった。
「で、私は何の仕事をすれば良いわけ?」
「ですから、ちょうど依頼が舞い込んだところじゃないですか」
 ここは1階エントランスホール。ちょうど地下5階から上がってきたエレベーターから晴と薫が下りてきたところだ。
「お疲れ様です、山村警部」
「お疲れ様です」
 ホールの奥まったところに縁台があり、その前に制服姿の警官が立っていた。見た限り20代前半だろうか。本庁ではなく交番勤務の警官のようだ。
「自分、この近くの交番に勤務しているのですが……」
 ふと、背後に向かって目を伏せた。彼の陰になって確認できなかったが、1人の青年が腰掛けているのが見てとれた。
 要点はこうだ。この青年が突如交番に駆け込んできた。誰かに切られたかもしれない。そう言うのである。
「確かに腕や足に大きめの切り傷があるんです。間違いなく刃物で切られたものかと。ところが、出血した跡が全くなく、痛みも全くないんだそうで」
「なるほど。それで、こうした奇妙な事件を専門に担当する部署が警視庁にあると思い出して、ここまで来た、と」
 その通りです。若き警官は頷いた。
「わかりました。では、傷口を見せてもらっても良いですか?」
 薫が青年に向き直る。彼は薫の姿を見て一瞬驚いたように目を丸くした。その風貌、出で立ち、ちんちくりんな体型。それらはどこか頼りなく見えるのかもしれない。
「ほら、どこです?」
「ああ、ここだよ」
 薫がしゃがみ込んで再度尋ねると、青年はシャツの袖をまくった。
「ふむ……」
 薫の射抜くような視線が刺さった。ちょうど手の甲あたりから前腕にかけて、くっきりと切り傷が刻まれている。鋭利な刃物で切りつけたような、はっきりとした刀傷だった。
「足の方もよろしいですか?」
「ああ」
 青年がズボンをまくる。向こう脛のところにこれまたくっきりと切り傷が。腕の傷と同じ形状の刃物で付けられたようだ。
「痛みも出血もなかったんですね?」
「そうだよ」
「見ての通り、血の跡は一切衣服にも付着していませんでした」
 袖口を戻すと服もスパッと切られていることがわかった。つまり、服の上から鋭利な刃物で切られたということ。それだけの傷を負って痛みもなければ出血の跡もないのは奇妙なことだ。
「あなたがこの傷に気付いた理由は何でしょう? 痛みも出血もなかったんですよね?」
「ああ、ちょっと腕のあたりがむずがゆくなってな。そしたら袖が切られていることに気付いて、確認してみたらこの有様だ」
「なるほど……」
 薫は少し考え込んでから
「一つ、よろしいでしょうか?」
 ピンと人差し指を立てて尋ねた。
「傷を付けられる前に何か変わったことはありませんでしたか? どのタイミングで傷を付けられたのかわからないと思いますが、ご自宅を出てから傷に気付くまでの間で構いません。何か気付いたことがあれば」
「何か……?」
 青年は天を仰いだ。それまでの出来事を振り返っているのだろう。ややあって、ふと気付いたように薫に視線を戻した。
「そういや、つむじ風が吹いたな。今日、そんなに風が強くなかったから、少し驚いたんだ」
「つむじ風……」
 そう言うと、彼女は立ち上がった。その表情は何か手がかりを掴んだというような印象を感じさせた。
「すみません、最後に一つだけ」
 腰を屈めて青年に顔を突き出しながら。
「ご自宅から交番まで、どのようなルートを通ったのか、教えてください」

「ねえ、ちょっと! 薫ちゃん!」
 路地をずんずんと進む薫、その後方を追いかける晴が声をかけた。
「待ちなさいって! 1人で勝手に進まれてもわからないでしょ!」
 瞬間、薫が振り返る。黒髪がふわっと広がり、白衣とスカートの裾も宙を舞った。
「ふふっ、似合いませんね、それ」
 晴を一瞥して失笑。彼女の指さす先は晴が握りしめている虫取り網だ。
「薫ちゃんが持たせたんでしょ!」
「ええ。恐らく必要になるだろうと判断しましたからね」
 わざわざ大の大人に虫取り網を持たせるなんて。とても警察の仕事のようには見えない。
「それ、結構高性能なんですよ」
 たとえ高性能でも虫取り網に何の有用性があるのだろうか。
「ねえ、それよりも。あなた1人で勝手に理解して進まれても困るの。私にはさっぱりわからないんだから」
 そう、晴には薫の思考が全く理解できていないのだ。言われるがままに彼女に付いて回ったものの、何一つとして把握できていない。まして、トッパンの仕事内容すら碌に教えてもらってないのだ。
「そうですか? 至って簡単な可能性潰しをしてたんですけどね」
「可能性潰し?」
「ええ」
 対する薫は流々と言葉を続ける。
「彼の話を聞いて事件の概要は理解できました。おおよそ、ボクの中でも犯人の検討はついたんです。ただ念のため、彼の歩いたルートを辿って防犯カメラを確認しようと思いました」
「それは知ってる。一緒に見て回ったし。でも、結局犯人らしき人物は誰も映ってなかったじゃない」
 では、犯人は誰なのか。事件の真相は何なのか。晴には全く検討がつかなかった。
「そうですね、犯人らしき影は一切映っていませんでした。でも、おかげで確信が持てました。これは人間の仕業ではありません」
「はあ!?」
 彼女は今、何と言った?
「晴さん、ロンドンでのことを思い出してください」
 瞬間、強い風が吹いた。思わずよろけてしまうほどの強い風。
「ボクたちの戦うべき相手は人間じゃないんですよ」
 突風。目を開けることすらできない突風と呼んで良かった。
「な、何これ!?」
「ようやくお出ましのようですよ!」
 自信満々な声音が逆に末恐ろしく感じられた。
「晴さん! その虫取り網を振ってください!」
「ふ、振るって……!」
 この強風の中で!? 前も見えないのに!?
「良いから振ってください! 思いっきり!」
「ああ、もう! わかったわよ!」
 こうなればヤケだ。言われるがまま力一杯虫取り網を振り回した。すると、何かを捕らえた感触がした。
「ええーーーい!!!」
 バシッとコンクリートから音が鳴る。虫取り網を地面に思い切りたたきつけた音だ。瞬間、嘘のように突風が止んだ。
「えっ……?」
 恐る恐る目を開く。
「えっ、えっ!?」
 視線の先、虫取り網の中。薫がしゃがみこんでのぞき込むその先。
 うごめく影。それは人間ではない。人とは遠くかけ離れたもの。四足歩行の生き物。イタチだ。いや、しかし簡単にイタチと表現して良いものではない。なぜなら、そのイタチは前足に鎌を携えていたからだ。
「ええっ!?」
 あまりの驚きにその場で腰を抜かしてしまった。網を地面に押しつけたままにできたのは幸いと言って良いだろう。
「全く情けないですね。この程度で腰を抜かしていたら、この先保ちませんよ」
 網の中でイタチが暴れている。鎌を振り回して脱出を図っているようだが、網を断ち切ることができないようだ。
「残念ですね。これは強化ファイバーで作られた網ですから簡単には切れませんよ。いくら妖怪鎌鼬(かまいたち)でもね」
 勝ち誇ったように妖怪を見下ろす彼女は魔の類いよりも恐ろしいものに見えた。
「ね、ねえ、どういうこと!? これ妖怪の仕業だったの!?」
「ええ、そうですよ」
 さも当然のような口調だった。
「彼の話を聞いて鎌鼬の仕業だとすぐにわかりました。出血も痛みも無い切り傷、鋭利な刃物でできた傷跡、そこに生じるむずがゆさ、そしてつむじ風。全て鎌鼬の特徴です」
「じゃ、じゃあ、トッパンの仕事ってもしかして……!」
「はい、ご名答です」
 もったいぶったように一拍置いて
「我々トッパンは警視庁内に設けられた、怪奇現象対策班です」
 瞬間、再びつむじ風が巻き起こった。今度は晴にもハッキリ見えた。薫の背後から2匹の鎌鼬が飛びかかる姿が。
「薫ちゃん、危ない!」
 晴が叫ぶやいなや、どこからか飛び出した2つの白い影が鎌鼬を捕らえてしまった。
「!?」
 薫の足下に着地する2つの影。それは狛犬のように見えた。
「あっちゃん、うっちゃん、ありがとうございます。事前に放っておいて正解でしたね」
 2匹の狛犬は鎌鼬の首根っこに噛み付いて動きを封じていた。
「ね、ねえ、それは……」
「ボクの式神です」
「し、式神……」
 次々と起こる非常識な出来事に晴の脳内はパニック寸前だった。
「あっちゃん、うっちゃん、もう放してあげてください。この子も解放してあげましょう」
 薫はそう言って虫取り網もとい妖怪取り網を持ち上げ、囚われの鎌鼬を逃がしてやった。
「良いですか。人を傷つけるのを止めろとは言いません。ですが、今回はやりすぎです。あんなに大きな傷を付けるのはいただけません」
 妖怪相手に説教を始める人間の少女。まさしく非常識な光景なのだが、彼女がトッパンのエースたる所以はまさしくその姿にあるのである。
「頬や手の甲にちょっと切り傷を付ける程度に済ませなさい。服まで切り裂いて大きな傷を付けるなんて、下手したら神経まで傷つけて大変なことになってしまいますよ。もう次はありませんからね。良いですね?」
 戸惑うような3匹。薫の背後から目を光らせる2体の狛犬もとい式神。
「良・い・で・す・ね? 次は調伏しますよ?」
 そして、有無を言わさぬ威圧感を放つ薫。
 妖怪とはいえ鎌鼬は所詮獣である。どうすれば生き残ることができるのか、彼らは本能的に理解している。3匹は猛烈なスピードで首を縦に振り、つむじ風に乗ってどこかへ消えてしまった。
「さあ、一件落着ですね。警視庁に帰りましょう、晴さん」
 晴れやかな表情で事件の終わりを告げる薫と対照的に目を白黒させる晴。
「私、こんなの聞いてない……」
「ちょっと、晴さん、しっかりしてください! ロンドンで切り裂きジャックに立ち向かった勇敢な晴さんはどこに消えてしまったんですか!」
 細川晴、トッパン赴任初日。彼女の中には1つの四字熟語だけが残った。それはすなわち。前途多難。

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所轄勤務の女性刑事が女子高生刑事の部下になったら怪奇現象と戦う羽目になった件について。 刑事モノ×怪奇モノ×百合(?)。 連載は終了…

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