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中川多理展「廃鳥庭園〜Le Jardin abandonné」を見てきました

中川多理さんの展示を蔵前のパラボリカで見ました。
中川さんは、粘土やビスク、布で人形を中心に作成されている作家さんです。
会場のインスタレーションを含め、退廃的でゴシックだったりちょっとフリーキーだったりと、サブカル系の人にささりそうな作風で長く活動されています。吉田良に師事、フリーキーな球体関節人形や版画で知られるベルメールの影響も強く感じる作家さんです。

この作家さんが活動していた、「夜想」というサブカル文芸雑誌から派生したギャラリーの旧パラボリカは古い倉庫でした。私は90年代の最初期に美大生だったので、古いコンクリートの質感や匂い、軋む床、手作り感いっぱいの退廃的なインスタレーションが大学や当時の大学祭の様子が思い出されて懐かしく、無くなった時は寂しかったです。Chim↑Pomや大竹伸朗の作風にはその頃の「唯一無二すぎる個性」「よくわからなくていい」「ふつうに小汚い」が現前であった美大の面影を見るようで、やっぱりなつかしくなります(そいうことでしか語れない悪い客やで)。こういったアングラっぽいものは今あんまり流行っていないので、貴重な場所でした。(犬カレーのインスタレーション忘れられない)

今のパラボリカの場所も隠れ家的で(なかなか場所を覚えられない)良い雰囲気です。西日本の出身で、大学進学以来ずっと東京の西側に住んでいるせいか、東京のこのあたりから東は空気が違うのを何度訪れても感じます。

今回もですが、彼女の旺盛な制作欲にはいつも驚かされます。毎回とても人形の数が多く、インスタレーションとして演出された空間に観客として入っていけるのです。いい感じに古びたパラボリカは彼女のセピア色でアンティークな風合いにぴったりでした。また、痩せた手足がそのままの形で骨のような質感の、軽く固い手足そのものになったような造形は、粘土でこそ自在になる表現でしょう。

そして、どれもこれも可愛いのです。本当に毎回、なんでこんなに可愛い顔や体を次から次へと作ってしまえるのか良くわからないです。もちろん顔のかわいさの好みは多種多様だと思いますが、個人的にはどれもいつもびっくりするほど可愛いんですよ。目がなかろうが、手足がなかろうが、肋骨が溶けていようが、今にも壊れそうな廃墟インスタレーションに埋もれていても、笑っていなくても、ウズラの卵ほどの髑髏ですら可愛いく作られているのです。そして仕上げは長い時間を経たような目に馴染む色合いで、どの子もじっと何かを考えるような静かな表情をしており、人間の庇護や愛情を必要としていない雰囲気です。新品のお姫様人形は目にまぶしすぎるという人にも、(無表情や笑顔が怖いという人にも)大変優しいのです。

そしていつも、素材に振り回されず、作家のイメージしたものが伝わってくる高い完成度もこの作家さんのすごいところだと思っています。人形は衣服を含めて工程が多く、作家さんによって完成度がまちまちです。見に行ったらライティングされた写真のほうが良かったと思うような展示にがっかりした人にも安心してお勧めできる作家さんです。

今回は、小鳥の侍女の物語のつづきで、粘土の全身の人形が3体とビスクの鳥の頭骨の布人形が多数、あとちいさなビスクの頭に 革やフェルトボディの人形がたくさんの展示でした。

編み上げ靴を履いた小鳥の侍女は、何年か前からずっと続いているシリーズですが、今回のは最終型といって良いような高い完成度でした。そしてこの作家特有の、青に赤っぽく見える瞳孔の目(ガラス製で作家さんの手作り)を埋め込まれた焦茶の髪の子が特にかわいかったです。3体のどの子も可愛く、賢そうでした。また、オブジェ作家が古典的な人形を作ってみた・・・といったような客観的な雰囲気を少し感じました。今年の早春にあった、初のビスク人形の展示ではこれまでのアンティーク感のある肌の彩色を減らした、透明感のあるすべすべベビー肌の人形をたくさんつくっておられたので、こっち(?)に寄っているのかもしれません。ビスク展示で肌のテクスチャががらっと変わったことで、セピアの色が視界を覆っていたのが取れてクリアになり、イメージの解像度のようなものがかなり上がったように感じられました。

鳥の頭骨の布人形はファニーで可愛いかったです。リアルめの鶏か、鴉の頭骨のようなビスクの頭骨がぷくぷくした布人形に乗っかっており、誰かが新しくボディをつけてあげたようなギャップがあります。どれもちょっとずつ違っているのですが揃って幼女のような可愛い服を着せられ、作家がフランスで購入したという奇跡のメダイを首からさげていました。頭骨は「誰かのものだったもの」だと思うと結構ゾクっとしますが、血色よくピンクがかった頭骨たちはユーモラスな成れの果てとして、初夏のピクニックを楽しみに待っているような、清潔感と無邪気な明るさに溢れていました。

小さいフエルトのボディのお人形は以前から粘土でたくさん作っておられ、今回のもめちゃくちゃに愛くるしかったです。お稲荷さん、ちょっと欲しかったけどうちに頭だけのがもう1柱いるので(頭に「神」と書いてあるので)ので抽選の申し込みはがまんしましたw

お人形、不思議な存在だと思います。私はドール趣味はほどほどなのですが、中川さんのお人形にはハマっていますw  あ、彼女の作られる男性のお人形もたまらんです。

この展示は、予約が必要です。当日でも大丈夫のことがあるのでギャラリーへお問い合わせください。
作品の抽選販売は会場のみなので、興味を持たれたらぜひ行かれてください。

中川多理展「廃鳥庭園〜Le Jardin abandonné」

http://www.yaso-peyotl.com/archives/2023/11/nakagawatari_le_jardin_abandonne.html



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